「大谷2世」との呼び声も高い“二刀流”が、甲子園に登場する。

最速150キロの速球に加え、高校通算54本塁打と投打に注目を集め、プロのスカウトも「大学生、社会人を含めても今秋のドラフト1位でいける素材」と太鼓判を押すのは、岩手・盛岡大附のエースで4番、松本裕樹(ゆうき・3年)だ。

松本が評判どおりの実力を披露したのが、甲子園への切符をかけた岩手県大会決勝。連投で疲労困憊(こんぱい)ながらも、大谷翔平(日ハム)らを輩出した宿敵・花巻東を相手に4失点完投。そして、打っては先制ホームラン&決勝二塁打という活躍で試合を決めたのだ。

この試合は7球団のスカウトが視察。ソフトバンクのスカウトは「勝負球の精度も、強さもずぬけている。打者としても高校トップクラス。(1位指名の)12人に入るでしょう」と絶賛。巨人のスカウトも「軽く投げても球がグッと伸びる。今の力でもAクラスだけど、甲子園で活躍すれば特Aになる」と評している。

投打ともに超高校級の二刀流。さらに、大谷と同じ岩手の高校で右投げ左打ちとくれば、スポーツ紙がこぞって「大谷2世」と呼ぶのも納得だ。

しかし、「『大谷2世』と書いたスポーツ紙は買わないほうがいい(苦笑)」とクギを刺すのは、スポーツライターの田尻賢誉(まさたか)氏だ。

「もちろん、ピッチャーとしても打者としても、松本が今大会要注目の選手であることは間違いありません。しかし、日本野球史上、最初で最後の逸材かもしれない大谷と、毎年ひとりは出てくるクラスの選手を比較するのはあまりに早計。キャッチーなフレーズで新聞を売りたいのはわかりますが、いただけませんね」

豪快でプロ向きの性格?

とはいえ、田尻氏も松本を高く評価している。まずは投球面。

「速球だけでなく、変化球は110キロ台のカーブ、115キロ前後のチェンジアップ、120キロ前後のスライダー、130キロ前後のフォークと多彩。また通常、右投手は右打者のインコースにチェンジアップを投げるのは、当ててしまう可能性が高く、ためらうものです。しかし、松本は平気で投げる。気持ちが強く、自分の技術に絶対の自信を持っているのでしょう。ただ、まだまだスタミナ不足。変化球の多彩さと、連投がきかないことを考えると、高校時代の大谷というより、ダルビッシュ(レンジャーズ)に選手像は重なります」

続いて、打撃面。

「変化球に強く、左に強い打球も打てる。また、岩手県大会決勝で放った本塁打は、『セカンド(の守備位置)がファーストに寄ったので、インコースが来ると思った』と読み切った一発。クレバーさも持ち合わせています」(田尻氏)

投打ともに高いレベルであることは間違いない松本は、今後について「投手に重点を置く」と語っている。プロでの活躍も楽しみだが、まずは間近に迫った甲子園だ。果たして、伝説を残せるか。

ところが、地元紙記者はこんな不安を語る。

「高校時代の大谷は、もっと調子に乗ればいいのにと思うような性格でしたが、松本は真逆。ピンチ時や主力への投球は圧巻ですが、下位打線をナメて、『ここで打たれる!?』という場面で、あっさり被弾する。松本が下級生の頃、上級生が『あいつ、タメ口なんです』とこぼしていましたが、豪快でプロ向きの性格なのか、単に調子に乗っているのか。チーム自体も、調子に乗ったら強いけど……というカラーなので、甲子園では初戦でコロッと負けてもおかしくありません」

数年後、「松本2世」と呼ばれる選手が現れる時代が来るのか、それとも、今後次々と登場するだろう「大谷2世」のひとりとなるのか。そのプレーに注目だ。

(取材・文/水野光博)