台風による延期に見舞われたものの11日から今年の甲子園も始まった。今年は例年になく、バラエティー豊かな好投手が出揃(そろ)い、投手戦に期待したいところだ。
しかし、普段のプロ野球中継でもそうだが、気になるのはアナウンサーや解説者が放つ“感覚的な言葉”。本格的な野球経験のないファンからすると、わかるようなわからないような……というのが正直なところだろう。
そこで! そんな不思議ワードを、日米通算121勝129敗62セーブと、メジャーリーグでも活躍した吉井理人(よしいまさと)氏と、現在は野球解説者で日本プロ野球歴代最多の通算487二塁打を達成した立浪和義(たつなみかずよし)氏のふたりに解説してもらった。
ひとつ目は、野球中継でよく「今日の○○投手のボールはよく伸びていますね」などと言われるが、投げたボールが「伸びる」なんて現象はホントに起こるのか?
「研究によると、投げたボールはマウンドからホームベースまでの間に角度が4度から7度落ちているそうなので、“伸びた”というのはバッターの錯覚です。キレイなスピンで回転数の多いストレートは、(上向きの)揚力が発生して落ち幅が少ないので、打者の予測よりボールが上にあるという意味で『伸び』を感じるんでしょう。例えば、阪神時代の藤川球児、オリックスの金子千尋(ちひろ)のストレートはそういうボールに見えますね」(吉井)
では、「○○投手のボールはキレています」という表現もよく聞くが、これはどういう意味なのだろう。
「キレは打席に立って初めてわかる感覚だと思います。レンジャーズのダルビッシュ(有)や巨人の杉内(俊哉・すぎうちとしや)が代表的なんですが、彼らはギリギリまで肩(右投手なら左肩、左投手なら右肩)の開きをガマンして、ホームベースに近い位置でボールを離す。だからバッターの手元でもボールの回転があまり失われず、『このピッチャーのボールはキレているな』と感じるんです」(立浪)
投手が変われば球の重さも変わる?
公式の試合では、当然、使用する球は決まっている。しかし、不思議なのは、ボールの質量は変わらないのに、「彼のボールは重くて飛ばない」「彼は軽い」などと区別されることだ。これはいったい、なぜ?
「野手同士のキャッチボールやボール回しでも、捕球するときに手が痛い相手と痛くない相手がいます。おそらく、ボールの回転がキレイじゃない人は捕ると痛い、つまり『重い』んですよね。それはピッチャーとバッターの関係でもいえることで、中日時代の先輩でクロマティ(元巨人)に死球をぶつけて殴られた宮下(昌己・みやしたまさみ)さんや、阪神にいた中込(伸・なかごみしん)、広島時代の黒田(博樹)あたりは打つと『重い』と感じました」(立浪)
投手としてはどっちが有利なのか。
「スピンが多く、バットがボールの下っ面を叩きやすいピッチャーはフライが上がりやすいので、『軽い』と言われがちだと思います。例えばロッテの成瀬(善久・なるせよしひさ)は、調子がいいと空振りやポップフライで打ち取れますが、スピードが落ちてくるとホームランを浴びやすい。逆に、速いけれどスピンが少なかったり、汚い回転のボールはゴロが多くなるので、バッターは『重い』と感じるのかもしれません」(吉井)
ラストは、バッター目線で。よく「このバッターはボールがよく見えている」という表現を聞くが、誰でもボールを見て打っているはず。「よく見えている」というのは、どんな選手(状態)を指すのか?
「ただ打席に立ってじっと見ているだけなら、プロの打者なら誰でもボールはよく見えます。ところが、実戦で打ちにいくと体が動きますよね。しかもボールは内角、外角、高め、低めといろいろなところに来るし、ストレートも変化球もある。いいバッター、好調なバッターというのは、そういうなかでどんなボールが来ても、体が前に流れたりせず、自分のタイミングでゆったりと踏み込んでバットを振れる。そういうときはボールがよく見えるし、成績もいいはずです」(立浪)
さらに吉井氏は別の解釈も。
「ストライクとボールの見極めだけではなく、配球の読みも重要でしょうね。それと、例えばオリックスの糸井(嘉男[よしお])なんかは、2ストライクに追い込まれたら、自分が狙っているボールが来るまでファウルで粘れます。そういうアプローチができるバッターも、『ボールがよく見えている』と表現されると思います」
「今の球は伸びてましたね~」「キレがありますね~」……。当たり前のように聞き流していたこんなフレーズも、よくよく突き詰めて考えてみると、意外と奥が深いものだった。
(取材/田口元義)