Jリーグで前代未聞の人事が行なわれた。
8月2日の名古屋戦に勝って首位に立った鳥栖が、その5日後に突然、尹晶煥(ユンジョンフアン)監督との契約解除を発表した。
尹晶煥は現役時代に韓国代表としてW杯に2度出場。JリーグではC大阪と鳥栖(当時J2)で計5年間プレー。2007年に現役引退すると、鳥栖でヘッドコーチなどを務め、11年から監督に就任していた。
戦力的に劣るチームを猛練習で鍛え、最後まで走り切るチームに変貌させ、J1に昇格した12年に5位、昨季は天皇杯で準決勝進出。そして今季はクラブ史上初の首位に立つなど着実に結果を残してきた。彼が率いるチームは、日本代表もお手本にしたいくらいのサッカーをやっていたし、鳥栖にとっては功労者ともいえる人物だ。
その彼が、なぜこのタイミングでクビになったのか。
結果を出し、それもリーグ首位に立った直後に解任されるなんて、プロの世界ではあり得ないことだよ。
クラブ側の説明は「サブの選手へのケアや気配りの部分での考え方の違い」という歯切れの悪いもの。プロは実力社会。サブの選手からそういう不満が出ても、「文句があるなら、実力で試合に出てから言え」というのが“普通”。やはり、クラブ側の説明には無理がある。
鳥栖のチーム事情に詳しい人に聞いたところ、どうやら来季以降の契約延長交渉で折り合わなかったようだ。Jリーグ監督平均の半分の年俸ともいわれる尹晶煥が、大幅な条件アップを求めたものの、クラブ側が拒否したという。だとすると、鳥栖は実にもったいないことをした。あまりにも交渉がヘタすぎる。
Jリーグのステータスの低さが浮き彫りに
結果を出している監督が、年俸アップを求めてくるのは当然だし、いくら経営に余裕がないとはいえ、8月のこのタイミングでクラブ側からクビを通告するのは理解不能だ。最終的に物別れに終わるとしても、シーズン終了まで交渉を続けることはできたはず。僕が鳥栖の社長なら、「今はリーグ戦に集中してほしい。シーズン終了まで待ってほしい」と話し合いを続ける努力をするけどね。実際、リーグで好成績を残せば、今までよりも多くのお金が集められるようになるのだから。
選手には「監督が代わったから」という情けない言い訳をしてほしくないところだけど、解任後にチームが連敗しているのを見ると、やはりなんらかの影響はあったのだろう。ブラジルだったらクラブ社長の責任問題に発展して、サポーターが大暴れするよ。
そして、今回の一件でもうひとつ残念だったのは、解任の真相に迫る報道や、クラブの判断を批判する報道が、ほとんどされなかったこと。
だって、普通に考えれば、リーグ首位のチームの監督が解任されるなんて、メディアにとっては“おいしいネタ”でしょ。例えば、韓国まで行って尹晶煥を直撃したら絶対に面白いよ。
なのに、そうした報道を見かけない。それはつまり、今のJリーグにはニュースバリューがないと見なされているということ。日本代表の話題は取り上げるけど、Jリーグの話題は需要がないから、わざわざ鳥栖まで取材に行く必要はないと判断されているんだ。
今回の一件が、図らずもJリーグのステータスの低さを浮き彫りにしてしまったね。
(構成/渡辺達也)