今年も俺たちは待っていた! 『UFC FIGHT NIGHT JAPAN2014』が9月20日(土)、さいたまスーパーアリーナで開催される。
世界最大のMMA(総合格闘技)イベントであるUFCは毎週のように大会が開催され、現在、世界145ヵ国で放映。アメリカやブラジルでは爆発的な人気を誇っている。
運営するズッファ社はMMA発祥の地といわれる日本市場を重要視しており、今回が1年半ぶり、3年連続で行なわれることになる。
今回の日本大会では、PRIDEやK-1で活躍していたマーク・ハントがメインに登場したり、アジア圏初の女子契約選手となった中井りんがUFCデビューを果たすなど、見どころは多い。
先日、ズッファ社の代表を務めるデイナ・ホワイト氏の単独取材に成功! デイナ氏はアメリカの人気雑誌『ビジネスウィーク』や『ビジネスジャーナル』などで「最も影響力のある人物」に選ばれたこともあり、アメリカでは格闘技界の枠を超えた有名人である。時には毒をタップリ含んだコメントで世間を騒がす男が、日本格闘技界の未来について饒舌(じょうぜつ)に答えてくれた。
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──今年はブラジルでサッカーのワールドカップがありました。UFCは“メジャースポーツ”を標榜していますが、世界最大のスポーツの祭典に嫉妬することはない?
デイナ 愚問だ! アメリカにはMLBやNBAがあるし、大学スポーツも人気だ。アメリカ以外の国に行けば、人気のあるスポーツといえばサッカーぐらいしかない。そういう国でも、ひとたびUFCが上陸すれば、サッカーとともに盛り上がるプロセスを何度も見てきている。だから、ワールドカップに嫉妬することはないね。
──世界中でUFCが爆発的な人気を得た一番の要因は?
デイナ 闘いを目の当たりにすると、人は肌の色や文化に関係なく、みんな同じ人間なんだという意識が高まる。われわれのDNAの中には、格闘技を愛する気持ちが組み込まれているんだ。UFC人気の秘訣はその部分だね。
──確かに格闘技は強いか弱いか……言語も人種も関係ない最も原始的なスポーツといえますからね。
デイナ 例えばサッカーだったら、イギリスのベッカムが人気を得ていた時代もあった。でも、彼は母国や一部の国では有名かもしれないが、世界中で同様の知名度があるかというと疑問が残る。でも、格闘技は違う。世界中で有名なトップアスリートは誰かと訊かれたら、私は迷うことなくモハメド・アリ、マイク・タイソン、ブルース・リーの名前を挙げるね。ブルース・リーなんて1970年代前半に亡くなっているのに、いまだ絶大な人気を誇っているだろう。世界中で誰もが知っているアスリートといえば、格闘技に行き着く。時代を超えたところで人々の心に残っているのは格闘家なんだよ。
ガチンコで勝ち上がるプロセスを見せる!
──日本では、かつてK-1やPRIDEがブームを巻き起こしました。しかし、今ではその格闘技市場も青息吐息。いつの間にかテレビの地上波放送もなくなってしまいました。デイナ代表から見て、日本の格闘技が置かれた状況は特殊だと思いませんか?
デイナ いい質問だ。確かに一時期、日本ではMMAが熱狂的な人気を誇っていた。対照的に日本以外の国ではそれほどでもなかった。でも、今ではすっかり立場が逆転した。世界各国でMMA人気が上がる一方で、日本では芳(かんば)しくない。これは本当に珍しいケースだと思う。ただ、今回せっかく日本大会をやるんだから、日本の選手たちに活躍してほしいと願っているよ。今は世間に知られていないけれど、日本には素晴らしい才能が眠っているからね。
──日本の格闘技人気も復活の可能性はあると?
デイナ われわれは眠っている才能を見つけ出して育て上げたい。日本人のUFCチャンピオンを誕生させることができたら、日本のMMA人気はすぐ元通りになるさ。日本人選手が世界最強の男になればいいんだよ。
──とはいえ、日本とアメリカでは興行の方法論がちょっと違うのでは。日本のMMAのルーツはプロレスにあります。アメリカのように、リアルファイトとエンターテインメントをハッキリ区別するのではなく、グレーゾーンを設けて発展してきた歴史です。当然、マッチメークの味付けや選手のキャラクター作りもUFCとは違う。PRIDE初期に現役プロレスラーをMMAに挑戦させたのはその最たるものだし、MMAで大した実績のない人気タレントをいきなりビッグマッチに起用したこともありました。一方でUFCは、ボクシングのように階級別のランキング制を確立し、ドーヒング検査を行ない、ジャッジは開催地のアスレチックコミッションに委ねるなど、スポーツライクなやり方に徹している。そんなUFCが日本の大衆に受け入れられ、根付いていく難しさは感じない?
デイナ 素晴らしい質問だ! プロレスは、映画のように事前にストーリーを作り上げたエンターテインメントだ。エンターテインメントはエンターテインメントで名作が多い。でも、どんな優秀なシナリオよりも、現実の話のほうが面白いと思わないか? プロレス的なストーリーラインが好きというファンがいることは認める。だが、フェイクのない世界でガチンコで勝ち上がってくるプロセスを見せて興味を抱いてもらうことのほうがずっと面白いと、私は確信しているんだ。
UFCをブレイクさせたリアリティ番組
──その発想が、アメリカでUFCがブレイクするきっかけとなったリアリティ番組『The Ultimate Fighter』(日本では『UFC登竜門TUF』としてWOWOWで放送中)に結びついたわけですか。
デイナ 『TUF』は、UFCを目指す若手格闘家たちが数ヵ月間に渡って共同生活を送りながら競合する番組だ。選手たちの私生活やパーソナリティにも深く立ち入って描写していくから、ひとつのシーズン(全十数話)を見続けた視聴者はすっかり心を掴まれてしまう。お気に入りの選手が試合に出る時には絶対に勝ってほしいと願うし、気に入らない選手は負ければいいのにと思う。選手の行方が気になって仕方なくなるんだよ。
──『TUF』でのサバイバルレースに勝ち抜けば、10万ドル以上のファイトマネーが保障された正規のUFC契約選手になれるんですね。今回の日本大会でマーク・ハントと闘うロイ・ネルソンや、マイケル・ビスピンといったトップ選手は『TUF』で優勝することで飛躍のきっかけを掴みました。その日本版が制作されるという噂を耳にしたんですけど、期待していいでしょうか?
デイナ もちろん(微笑)。その実現に向けて全力で頑張っていくつもりだ。
──日本版『TUF』が地上派で放送され、強い日本人スターが誕生すれば、格闘技人気復活のカギになるかもしれませんね。ところで、現在、日本の格闘技には“地下格闘技”のイメージが強くて、世間では非常にネガティブなイメージもある。おかけでマジメに格闘技をやっている団体が会場を借りられなくなったり、胡散(うさん)臭い視線を投げかけられることもあると聞きます。
デイナ アンダーグラウンドな格闘技の問題は世界各地にある。ただ、現在われわれが協力体制を築いている修斗(日本の老舗MMA組織)のように、ちゃんとルールなどのレギュレーションを定めて安全面を考慮した競技であることをアピールすれば、世間はわれわれのほうを向いてくれる。私は、MMAは健全なエンターテインメントスポーツとして楽しんでもらえるという確信を持っているよ。
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デイナ代表が「日本人選手に活躍してほしい」と語っている通り、9月20日は日本人選手が多数出場する。
かつてPRIDEライト級王者に君臨した五味隆典は、マイルズ・ジューリーと対戦する。五味は今年4月の『UFC172』でアイザック・ヴァリーフラッグに快勝したが、マイルズは13戦全勝という期待のルーキー。苦戦も予想される中、ベテランの意地とプライドを見せつけることができるか。
また、一昨年のUFC日本大会以来、1年7ヵ月ぶりの復帰となる秋山成勲(よしひろ)は、『TUF』出身のアミール・サドラーと対戦する。選手層の厚いUFCでは戦績が芳(かんば)しくないと、リリース(解雇)されるのが常。現在1勝4敗と土俵際まで追い込まれている秋山にとっては、進退を問われる一戦になるだろう。
トリにはご存じマーク・ハントが登場し、ロイ・ネルソンと対戦する。典型的なアンコ型ながらハードパンチャーのハント同様、ネルソンも下腹がポッコリと出たメタボ型。しかしながら、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラやミルコ・クロコップを倒したパンチ力は破壊力抜群。双方の体型とは裏腹に、壮絶なKO決着が予想されるスーパーヘビー級対決だ。9月20日の大会とともに、“その後”の展開にも注目だ。
■9・20さいたまスーパーアリーナ大会の最新情報はコチラ【http://ufc-japan.jp/】
(取材・文/布施鋼治 撮影/長尾 迪)