今季も優勝争いが最終節までもつれ込んだJリーグは、G大阪の9年ぶり2回目の優勝で幕を閉じた。

僕が今季のMVPを選ぶなら、2年連続得点王の大久保(川崎)を推したいところだけど、やはり優勝チームから選ぶのが筋。となると、やっぱり宇佐美だね。

今季の宇佐美は開幕前のキャンプで故障して長期離脱したものの、復帰以降はそれまで低迷していたチームを一気に上昇させた。もちろん、G大阪にはほかにもパトリック、東口、遠藤、今野とキーマンがいたし、数字的にも26試合10得点とずば抜けているわけではない。相手の徹底マークを受け、得点が止まった時期もあった。ただ、それでもチームの攻撃をよく牽引(けんいん)したと思う。G大阪の大逆転劇は彼の存在なしではあり得なかった。

高い決定力はもちろん、ドリブルでもパスでも相手に脅威を与えられる。特にドリブルのキレは素晴らしいね。サイドからスピードに乗ったドリブルで中央に入っていって、ノーモーションでシュートを放つ。しかも足の振りが速いから、守る選手は飛び込むタイミングが難しいんだ。

もう何度も言っているけど、宇佐美が日本代表に呼ばれないのは本当に不思議。ほかの選手に比べれば守備時の運動量は少し劣るかもしれない。でも、彼の武器は何か、彼の持ち味は何か。守備を過剰に意識させたら、攻撃力は半減してしまう。メッシやロナウドとは違うのだから、守備もしっかりできなければダメだという意見もわかるんだけど、例えば日本代表でも守備が得意じゃない香川(ドルトムント)がレギュラー格として起用されている。だから、宇佐美も一度試すべきだと思う。

武藤は「現役慶大生」という肩書が外れる来季が勝負

もっとも、来季もコンスタントに結果を出し続ければ、自然と代表にも呼ばれるはず。ぜひ、世論を動かすような活躍を見せてほしいね。

宇佐美の活躍はある程度予想できたけど、ノーマークだったのはFC東京の武藤だ。抜群のフィジカルとスピードを武器にレギュラーの座をつかむと、ゴールを連発してブレイク。すっかり日本代表の常連になった。いい意味でのサプライズだった。

ただ、代表とリーグの両立の疲れが出たのか、終盤は息切れした。33試合13得点という数字は1年目としては合格点だけど、代表でレギュラーを狙うには物足りない。「現役慶大生」という肩書が外れる来季が本当の勝負。さらなる飛躍に期待したい。

最後に、今季限りで引退する柳沢(仙台)と中田(鹿島)についても触れておこう。

柳沢は、彼が小学校6年生のときにフットサル教室で教えたことがあるんだけど、そのときから別格の存在。スピード、技術以外にも、日本人離れした体の柔軟性を持ったFWだったね。セリエAではなかなか結果を残せなかったけど、日本に帰ってきてからも鹿島、京都、仙台と、どのチームでも貴重な戦力として活躍した。

中田といえば、帝京高校時代、大雪の中で行なわれた全国高校選手権の決勝を思い出す。プロ入り後はボランチ、センターバック、左サイドバックと複数のポジションを高いレベルでこなす、まさに万能選手だった。

ふたりとも長い間、日本代表でも頑張ってくれた。過去には厳しい評論をしたこともあったかもしれないけど、今は心からお疲れさまと言いたいね。

(構成/渡辺達也)