早大在学中にプロ格闘家デビューし、これまで多くのタイトルを獲得してきた青木真也

格闘技が地上波放送から姿を消し、定期的なビッグイベントがなくなった今、日本人選手の多くはUFCなど海外のメジャー団体を目指すか、DEEPやパンクラス、修斗など国内の老舗団体に活路を見出している。

中でも、DEEPは今年の大晦日にさいたまスーパーアリーナ大会を開催予定で、格闘技の火を守るが、そういった潮流に背を向ける男がここにーー日本最強の呼び声も高い“バカサバイバー”青木真也だ。

青木は早稲田大学在学中にプロデビューし、修斗世界ミドル級王座を獲得。卒業後は静岡県警に入るもわずか2ヵ月で退職し、世界レベルの寝技を武器にPRIDE、DREAMなどのリングで日本格闘技界の“大黒柱”として活躍してきた。

現在の主戦場はシンガポールを拠点にアジア圏で勢力を拡大するONE FCで、同団体のライト級王者に君臨。そして、日本での活躍の場はDEEPでも修斗でもなく、アントニオ猪木が主宰するIGF。昨年に続き、今年の大晦日も『INOKI BOM-BA-YE2014』(両国国技館)に出場予定だ。

IGFは、格闘技とプロレスが混在する団体。純粋に格闘技だけを見たいファンからすると、「なぜ青木はプロレス団体に出るのか?」という批判もあるだろう。そこで、独自路線を走り続ける青木を直撃したーー。

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―年末は、DEEPが“大晦日の伝統”とも言えるさいたまスーパーアリーナ大会を敢行するほか、いくつかの団体がビッグイベントを開催します。そんな中、なぜIGFを選んだんですか?

青木 地上波でも放送されるし(1月3日深夜、フジテレビ系)、最もメジャー感があるのがIGFで、自分にとって一番プラスになるという思いが強かったからです。

―プロレスの試合もあるIGFではなく、“純粋な”格闘技のリングで青木さんを見たいファンもいると思うのですが。

青木 単に試合することだけを考えれば、そういった団体に出たほうが楽だと思うんですけどね…。

―楽とは?

青木 試合だけすればいいから(笑)。彼らは「競技であることが最重要」みたいな崇高な理念の中で試合をしているわけですよ。その先にはUFCに代表されるような「世界一を目指すぞ!」っていう価値観がある。

その世界に僕がドカドカ入っていって試合して勝てば、「おまえら見たか!」みたいな気持ちよさはあるんでしょうけど、他の選手やお客さんにとっては不快なんだろうなと。他人の家に土足で踏み込んでいくようなノリになっちゃうじゃないですか。

―長男が守っている家に、家出した次男坊が帰ってきた……みたいな。

青木 そうですね(笑)。だから、今回の選択は間違っていなかったと思います。

中指を立てた試合は、小川vs橋本のような大乱闘に発展してほしかった

IGF初登場となった昨年の大晦日。桜井“マッハ”速人の愛弟子を1ラウンドわずか49秒で瞬殺した(c)JSM

―2000年代中期の格闘技ブームのときは、曙vsボブ・サップやタレント金子賢の出場などで世間の注目を集める一方、コアなファンたちはボクシングのような“純粋競技化”を求めていましたよね。

青木 当時、それを目指していた人たちは、まだその理想を追っていると思います。今の格闘技は、いわゆるエンターテインメント路線を排除する方向にあると思うんです。厳密な階級分けやレギュレーションがあり、試合の数ヵ月前には契約書を交わす……完全なる競技化ですよね。

ただ、それが実現したとき、選手の実入りはよくなっているのか? 現状では、決してよくはならないと思います。もちろん、純粋に競技に集中できるような整った環境の中で試合してお金が稼げればいい。それは「正論」です。でも、現状では「食っていくこと」が第一で、正論は言っていられないですよ。

―青木さんが正論から離れていったのはいつからですか?

青木 2006年頃ですね。

―もう8年も前ですか。PRIDEの時代ですね。

青木 ああいうビッグイベントでは、正論が通じないという覚悟を持ちましたね。何が起こるかわからない、直前で対戦相手が変わってもしょうがないでしょ、みたいな雰囲気がありました。次の仕事につなげるためにまったく勝てる公算のない相手に向かってマイクで対戦表明をしたり…。

―つまり、正論は競技者として着実に勝利を重ねることだけど、それより団体の歯車として興行を成立させないといけないということですね。

青木 08年に(PRIDEの後継団体の)DREAMが始まったときは、周囲の渦に巻き込まれてやっていました。これは黒でしょと思っても、周りが白だと言えば白になるみたいな。さらに格闘技の人気も落ちてきていて、09年の大晦日には「もうこれで最後なんだろうな」っていう気持ちがありましたね。

―09年の大晦日といえば、DREAMとライバル団体SRCの対抗戦があり、青木さんは廣田瑞人(ひろた・みずと)選手の腕を折って、試合後、倒れている相手に中指を立てて物議を醸(かも)しましたね。

青木 怒られましたよ(苦笑)。でも、あれは周りがよくなかったです。

―というと?

青木 僕としては、DREAM勢とSRC勢が揉(も)めてくれればいいと思ったんですけど、みんな引いちゃって。掴み合いのケンカに発展してほしかったんですよ。小川直也vs橋本真也のときのような(1999年1月4日、新日本プロレスの東京ドーム大会。小川が橋本にプロレスの範疇を超えた攻撃を仕掛け、両陣営が大乱闘)。

道義上どうこうとかそういうことは置いておいて、イベント的には面白い絵だったと思うんですけどね。

プロレスでも格闘技でも、「正論」から逸脱したものが人々の記憶に残る

昨年の大晦日、アントニオ猪木氏の激励を受ける青木真也(c)JSM

―翌年の大晦日では、長島☆自演乙☆雄一郎選手とのミックスルールマッチがありました(1ラウンドはキックルール、2ラウンドは総合ルール。2ラウンド開始早々、タックルに行った青木が長島のヒザ蹴りを食らってKO負け)。これなんか正論から外れた典型的な試合ですが、「なんでこんな試合をやらないといけないんだ」って気持ちはありました?

青木 だってもうしょうがないっしょ。やればいいんでしょ、みたいな感じでした(笑)。でも、あの試合も僕の財産になってますよ。

―正論ではないほうが刺激的だし、記憶に残る?

青木 残るんですよ。今はみんなマジメになりすぎてつまらなくなっていますよね。このままでは、世間に印象を残す選手が少なくなっていくと思いますよ。

―対世間で考えると、正論から逸脱したもののほうが人々の記憶に残っている。そういった意味では、プロレスだろうと格闘技だろうと関係がないんでしょうね。

青木 関係ないと思いますね。ルールとか試合形式は単なるプロセスなので。評価されるのは、どう湧かせたか、団体にとってどう実入りがあったか、という結果だと思うんですよ。みんなプロレスをどうこうと揶揄(やゆ)しますけど、そういうことじゃないんです。

―さて、大晦日はこれまで青木さんに対して執拗に挑発を繰り返してきた山本勇気選手と試合します。12月1日に開催された『INOKI BOM-BA-YE2014ファンフェスタ』では、青木さんの試合後に山本選手が現れて「おい、青木!」と呼び捨てで挑発しましたが、青木さんは完全無視してリングを降りるというリアクション。最後の最後で「そんなケンカ腰にならずに、大晦日はちゃんとやりますので。ベストな体調で両国国技館までお越しください」と返答しましたね。

青木 彼の“マイルドヤンキー”的なキャラは、僕の価値観とは全く逆なんですよ。だから、「僕はそっち側ではないよ」という見せ方をしたんです。彼を含め、ヤンキーみたいな選手って多いじゃないですか? 大口を叩くくせに曖昧なことを掲げて曖昧な方向に動いていくみたいな……それを好んで支持する層がいるんでしょうけど。僕は短距離、中距離、長距離とそれぞれの目標を設定してプロセスを踏んでいくタイプなので。

―試合はどんな展開になりますかね?

青木 うーん……冷たい感じになると思いますよ。

―冷たい感じ?

青木 なんだろうな…。究極的に言うと、僕は大衆に支持されるタイプじゃないんですよ。なので、「あ、そういうことするの?」みたいな感じにはなると思います。

―どういうことですか?

青木 みんなが予想のつくような展開やフィニッシュにはならないと思います。サクッと勝って……いや、どっちが勝つにしても、試合後に「お互い頑張ろうな」みたいにはならないでしょうね。

(取材・文/“Show”大谷泰顕)

■青木真也(あおき・しんや)1983年生まれ、静岡県出身。身長180cm。小学生の頃より柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化選手に選抜。早稲田大学在学中に柔術を始め、2003年のDEEPフューチャーキングトーナメントに優勝。2006年2月には修斗世界ミドル級王座を戴冠。2009年10月には第2代DREAMライト級王者に。現在は第2代ONE FCライト級王者に君臨。

『HEIWA FieLDS presents INOKI BOM-BA-YE 2014』2014年12月31日(水) 両国国技館 16:00開場、17:00開始予定【IGFチャンピオンシップ】ミルコ・クロコップ(王者)vs石井慧(挑戦者)藤田和之&ミノワマンvs小川直也&X鈴川真一vsクリス・バーネット青木真也vs山本勇気橋本大地vsスーパー・タイガー ほか詳細はコチラ【http://www.igf.jp/】