日本代表するストライカーとしてだけではなく、その人柄で誰からも愛された柳沢敦。先日配信した引退後初のインタビューでも数々のエピソードを率直に披露してくれた(http://wpb.shueisha.co.jp/2015/01/06/41632/)。

そんな“ヤナギ”だけに、彼を慕う後輩は多い。浦和レッドダイヤモンズのFW、興梠慎三もそのひとりだ。鹿島アントラーズ時代には、柳沢の代名詞だった背番号13を引き継ぎ、チームを牽引。今も「ヤナさんは偉大」と語る彼が、引退を迎えた尊敬する先輩にメッセージを贈った。

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鹿島に入ったのが2005年。翌年にヤナさんが帰ってきました。当初、MF登録だったので、目標はモトさん(本山)でした。1年目でFWにコンバートされ、未経験だった俺はどうしたらいいかと考えたとき、ヤナさんを目指そうと決めたんです。

ヤナさんは決して足が速いほうではないと思うんですよ。なのに、相手DFを見事に置き去りにしてしまうのは、動きだしのタイミングが絶妙だから。それと、ポストプレーもヤナさんの醍醐味(だいごみ)ですね。

ポストプレーはFWにとっては基本であるけれど、着実にできる選手って、なかなかいないものなんです。そういう意味でも、ヤナさんはFWの鑑(かがみ)。誰もが憧れた選手だし、短い期間だったにしろ自分もすぐそばで吸収できたのは、とても貴重な財産です。

ヤナさんのスタンスにも、すごく共感を覚えました。FWは得点を決めてなんぼっていう姿勢はもちろん必要だけれど、ゴールに至るまでの流れを大事にしたい、得点につながる最良の選択をとりたいっていう考え方。そのまんま使わせてもらったこともあります(笑)。

ただ、ここでお断りしておきたいのは、俺はヤナさんが好きすぎて、なんでもかんでも真似してるってわけじゃないということ(笑)。鹿島時代、ヤナさんの後に13番をつけさせてもらったのも、俺が高校の時、ずっとその背番号をつけていて、愛着があったから選んだだけの話で。

それと今、浦和で30番をつけていますが、ヤナさんも仙台では30番。これ、本当に偶然なんですよ。

でも、やっぱりヤナさんは偉大。ふと思い出すのは、07年の天皇杯準々決勝の対ホンダFC戦。決勝点はヤナさんと俺で崩して、ヤナさんが決めたんです。ほとんど機会がなかった2トップでのプレー。もし、願いが叶うなら、もう一度、ヤナさんと組みたいです。

(取材・文 高橋史門)