オリンピックのレスリングで3連覇を成し遂げた最強女王、吉田沙保里

一体、いつまで勝ち続けるつもりなのか? 

初の著書を出したレスリングの最強女王が、30年近くに及ぶ自らのレスリング人生、昨年3月に急逝した父への思い、そして1年後に迫ったリオ五輪への決意を語った。

■父にリオの金メダルを見せてあげたい

―著書『明日(あす)へのタックル!』の出版、おめでとうございます! ご自身初のエッセイということですが、いよいよ作家デビューでしょうか!?

吉田 いやいや。エッセイだなんて、とんでもない(笑)。これまでのレスリング人生を振り返り、その時々に感じたこと、考えたことなどをまとめただけですから。

―本を出そうと思ったきっかけは?

吉田 昨年の3月、父(栄勝[(えいかつ]氏・元レスリング全日本チャンピオン)が亡くなってから、自分でもいろいろと考えるようになりました。それまでは自分が歩んできた道を振り返ることなんてまったくなかったし、それをやるのは競技を引退してからでいいと思っていたので…。

でも、父が亡くなったことをきっかけに、頭の中で思いを巡らせるだけでなく、文章の形でいま自分がやらなければならないこと、これからやっていくべきことを整理してみようかなと。

―もともと文章を書くのは得意だったんですか?

吉田 とんでもない、まるっきりダメ(笑)。せいぜい練習日記をつけるぐらいで、小さい頃から国語はチョー苦手でしたもん。

今回は周囲の皆さんに助けてもらいながらですけど、まあ自分でもよくやったなと思います。自分を褒めてあげたい…なんてね(笑)。

私を強くしてくれてありがとう

―タイトルにも入っていますが、吉田さんは鋭いタックルが売り物ですよね。

吉田 そうですね。やっぱり吉田沙保里といえば“タックル”ですから。これまでも、試合に負けたり、自分のレスリングができていないと感じたりしたときには、原点に立ち返ってタックルを見直してきました。ちょうど精密な高級時計を分解掃除するように、自分のビデオを見ながら細かい動きをひとつひとつ点検するんです。

―ただ、昨年暮れの天皇杯全日本選手権では、タックルではなくグラウンドで決めるシーンが多く見られました。ここへきて戦術を変更したのですか?

吉田 あの決勝戦では、相手選手がタックルにきたところを抱え込んでマットにねじ伏せました。最近は、相手を抱え込んで投げる“がぶり返し”がマイブームなんですよ(笑)。練習でもよくやっています。レスリングの幅が広がりますからね。

それでも、やはり基本はタックルなんです。相手が私のタックルを恐れ、警戒しているからこそフェイントも効きますし、ほかの技も決まってきます。

―そのタックルを伝授されたお父さまが亡くなり、昨年は大きな転機となりました。

吉田 これまでの人生を振り返りながら、父のこともたくさん考えました。いま思うのは、私は吉田栄勝の子供でよかったということ。あらためて、「お父さん、私を強くしてくれてありがとう」と言いたいです。もう肩車はできないけど、父にリオの金メダルを見せてあげたい。

100年、200年たっても破られない記録を

■30歳を過ぎたお姉さんでもやればできる!

―来年に迫ってきたリオデジャネイロオリンピックでは、早くも金メダル宣言をされていますね。

吉田 私は常に目標を口にしてきた“有言実行”タイプです。自分を追い込み、自ら退路を断って、自分に負けないようにしてきました。金メダルを獲ると宣言しておいて獲れなければ“大ボラ吹き”といわれるかもしれない。そうなりたくないと思えば、もうやるしかないですから。

―リオで金メダルを獲ると、個人の同一種目でのオリンピック4連覇はアル・オーター(アメリカ・円盤投げ)、カール・ルイス(アメリカ・走り幅跳び)に次いで3人目。女子アスリートとしては史上初の快挙となります。

吉田 レスリングの試合映像は残ったとしても、100年後には私のことなんて誰も覚えていないかもしれない。欲張りかなとは思いますけど、私は記憶にも記録にも残りたいんですよね。だから、いま最大の目標であるオリンピック4連覇の偉業を達成して、100年たっても、200年たっても誰にも破られない記録を残していきたいです。

―吉田さんなら、5年後の東京オリンピックに出場して5連覇もいけそうじゃないですか!?

吉田 またまた! 2020年といったら、私も37歳ですよ(笑)。でも、おそらく肉体の衰えはカバーできるはずなんです。若い選手にはない、それだけの経験がありますから。問題は気持ち、モチベーションかな。

子供たちから見たらもうおばさんだけど…

―そこまでモチベーションは保てそうでしょうか?

吉田 それはわかりません。いまはまだリオに向けて精いっぱいがんばるだけですから。

ただ、本を出した理由のひとつでもあるんですが、私のような不器用で体の小さい女性でもやればできる。30歳過ぎたお姉さんが…子供たちから見たらもうおばさんかな(笑)、まだまだ目標に向かって突き進んでいることを知ってもらいたい。私が勝ち続けることで、スポーツでも仕事でも勉強でも、頑張っている人たちの背中を少しでも押すことができればうれしいですね。

(取材・文/宮崎俊哉 撮影/根本好伸)

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強さの秘密と、飾らぬ素顔を明かした初のエッセイ

●吉田沙保里(よしだ・さおり)ALSOK所属。1982年10月5日生まれ、三重県津市(旧・一志町)出身。中京女子大学(現・至学館大学)卒業。父・栄勝氏の指導で幼少時からレスリングを始める。アテネ、北京、ロンドンオリンピックで金メダル獲得。ロンドンでは日本代表選手団旗手を務める。2014年、世界大会(オリンピック+世界選手権)で前人未到の15連覇達成。2012年、国民栄誉賞を受賞。リオでの金メダルを目指し現役生活を続ける

■週刊プレイボーイ7号「吉田沙保里 “霊長類最強女子”が早くも金メダル宣言」より