三冠王者のエース・宇佐美貴史は、ドイツ・ブンデスリーガの2年間で何が変わったのか?

三冠王者のエースは、ドイツ・ブンデスリーガの2年間で何が変わったのか。“日本代表に最も近い男”は、ガンバから再び世界に羽ばたくのか―。

キャスター・山岸舞彩がトップアスリートの精神世界を探る「挑戦者たち」第7弾! 先行公開したPART1(※参照 http://wpb.shueisha.co.jp/2015/01/27/42520/)に続き、お送りする。

■三冠どころか、残留に必死だった

山岸 ケガでの長期戦線離脱があり、チームの降格圏低迷があり、そこからのV字回復があり、そしてナビスコ杯、リーグ、天皇杯のJリーグ史上2チーム目となる三冠達成があり…。なんていうか、すごいシーズンでしたよね?

宇佐美 わかります。こんな一年ないんじゃないかなって、僕も思いますもん。

山岸 復帰まで2ヵ月以上かかりましたけど、そこまでの大ケガ(左腓骨筋腱脱臼[ひこつきんけんだっきゅう])は初めてですよね。

宇佐美 はい。あれが2月のことだったんで、倒れた瞬間に「ああ、ワールドカップ終わったなぁ」って思いました。

山岸 Jリーグも、開幕から8試合出場できず…。

宇佐美 きつかったですね。チームの状態も良くなかったし、自分は見てるだけしかできなくて。「復帰して上げれるかな」とか思ったり。プレッシャーと自分自身への期待感が入り乱れて大変でした。

山岸 でも宇佐美選手が復帰して、中断期間に入って、後半からは快進撃! 要因はなんだったんですか?

宇佐美 自分のコンディションも徐々に上がったというのはありますけど…序盤戦はガンバの選手全員のコンディションが今ひとつで。最初の6、7試合はもうほんと全員が良くなくて。

神様ってほんま不公平やなって(笑)

山岸 開幕前のキャンプで追い込みすぎた?

宇佐美 いや、そんなことないですね。ガンバはあんまりキャンプきつくないんですよ。監督の(長谷川)健太さんも、前に清水エスパルスの監督だった時は吐くほど走らせてたらしいんですけど、今は全然。

山岸 へぇ~。

宇佐美 キャプテンのヤット(遠藤保仁)さんもそういう感じなんで、うちのチームは。あの人もうゼロの状態で、ひょろっひょろで来ますからね。完全にただのおじさんの状態で来ますから、最初の年明け。

山岸 そんなにですか!?

宇佐美 今年はアジアカップあるからバリバリ仕上がってると思うけど。

山岸 でも、そのおかげでピークが後半に来たのかもしれませんよ。

宇佐美 確かに。スタートから仕上げてた俺が大ケガして、ヤットさんは1年間無事にプレーして最後MVPまで取っちゃって、神様ってほんま不公平やなって思いました(笑)。

山岸 (笑)。三冠を意識したのはシーズンのどのあたりでした?

宇佐美 途中まで一切考えてませんでしたよ。みんなで飯食いに行っても「また落ちるんか。とにかく降格だけはしんようにしよう」とか、そんな話ばっかでした。で、中断明けの試合勝って、その後5連勝できて、「残留はいけるかな」って感じになって。

敬語使いたくないんですよ

山岸 特にきっかけもなかったんですか?

宇佐美 ないですね。なんか知らん間にって感じです。ただ、5位くらいまで上がった時に、4、3、2位との3連戦があって。鳥栖、鹿島、川崎とやって、全部勝ったんですよ。残り6節くらいやったかな。その頃になってようやく「いけるかな?」って思い始めたくらいです。

だから、サッカーが劇的に変わったとかはないです。みんなのコンディションが上がってきて、結果がついてきて、最後のほうは自信を持って楽しく試合に臨めてましたけど。点取られても「最後はどうせ勝てるわ」みたいなね。

■宇佐美貴史は「生意気」なのか?

山岸 先ほどキャプテンを普通にいじってましたけど、宇佐美選手、あまり敬語で話しているイメージないですね。

宇佐美 あんまり使いたくないんですよね。なんでなんですかね…同じチーム内では使いたくないんでしょうね。だから上の人と話してる時も、「ほんまですか?」って言ってたのを途中から「え、ほんま?」とか「あ、ほんでね」とか、徐々に敬語じゃない形に近づけていくの、うまいですよ、僕。

山岸 (笑)。

宇佐美 で、飲みの席でバーンと(タメ口を)入れてって、「いいよ、普段もそんくらいで」って言わそうもんなら、こっちの勝ちなんで。

山岸 誰でもできることじゃないですよ。

宇佐美 前にチームメイトの米倉(恒貴[こうき])君に言われてうれしかったんですけど、「おまえの生意気は全然いやじゃない生意気だから、オーケー」って。ああ、俺はそこを追求すべきなんだと思いました。

山岸 生意気だという自覚はあるんですか?

宇佐美 いや。

山岸 ないんだ(笑)。

ドイツで180度全部変わった

宇佐美 距離を詰めたいだけなんですよ。

山岸 後輩気質なんでしょうね。じゃあ宇佐美選手も後輩にタメ口使われても大丈夫?

宇佐美 はい。ピッチの中でも外でも問題なし。

山岸 最近ではかなり後輩も増えましたよね。

宇佐美 高3のコらが入ってきたんですよ。でも挨拶(あいさつ)されて、目ぇ見れなかったです。俺はずっと下向いてて、「うっす」みたいな。

山岸 なんで(笑)。宇佐美 高校生、何考えてるかもう俺には理解できないですもん。1年目で、プロキャリアスタートするぞ、っていうギラギラ感を、俺、受け止められないです。「ご飯連れてってください」とか言われたら、なんとかして断ります。「歯医者行かなあかん」とか言って。

山岸 ひどい(笑)。でも年上に物おじしないっていうのは、やっぱりドイツでの経験があるから?

宇佐美 拍車かかりましたね。だから向こうって、若いやつどんどん出てくるんだと思うんです。上下関係とかないし、上に対しても平気で「ボール出せよ」とか言える世界で。

山岸 ドイツでの経験は大きかった?

宇佐美 180度全部変わりましたもん。サッカー以外も。服とかもまったく興味なかったのに気を使うようになったし、サッカーない時は外出するのもいやだったのに、とにかく外に出て人に会いに行ったり、アクティブに動くようになったし。人見知りもしなくなりましたね。

海外でリベンジしたい気持ちはある

山岸 ドイツで跳ね返された壁っていうのは、なんだったんですか?

宇佐美 1年目のバイエルン・ミュンヘンでは、自分のストロングポイントすら通用しなかった。ドリブルやったらロッベン、リベリー、パスやったらトニ・クロース、動きやったらトーマス・ミュラーで、フィニッシュはマリオ・ゴメス…。

それぞれ各分野でお手本の先生がいるみたいな、それくらいの差があった。でもだからこそ、練習で自分がプレーしてない時でも、彼らがどういうことをしているのかってずっと見てて、それはほんまもう、かけがえのないことでした。紅白戦で対峙(たいじ)するのもフィリップ・ラームとかやったんで。

2年目のホッフェンハイムでは、チームのサッカーが、相手にボールの主導権握られてそこからどういう守備をして、どうやって速く攻められるかっていうスタイルで。自分のスタイルとは違うサッカーの中に入った時の適応力とか自分の引き出し、幅の広さが全然足りてなかった。

山岸 今、もう一度同じ場所に戻ったら、違う結果を出せる自信はありますか?

宇佐美 残せると思います。もちろん行ってみないとわからない部分はありますけど、また全然違うと思います。海外でリベンジしたいって気持ち、やっぱりあります。あの頃とはプレースタイルも変わりましたし。日本に戻ってきた13年のシーズン【注】と昨年の14年のシーズンでも違う。

【注】13年のシーズン当時J2に沈んでいたガンバ大阪に6月から復帰し、FWとして18試合19得点という恐るべきゴール数を記録。1年でのJ1カムバックの立役者となった

山岸 ドイツではサイドで、13年は一番前で、そして昨シーズンはそれより少し下がってアシストが増えました。

宇佐美 点を取るのはもちろん自分のスタイルですし一番大事ですけど、それが難しい局面の時にアシストして取らせることも引き出しの一部になってきたので、今シーズンはそのスタイルを明確にしていければと思いますね。…(チームメイトの)パトリックがベストイレブン取れたのも、もう、ね。

山岸 俺のおかげ?

宇佐美 俺、7個くらいプレゼントしてます。パトがいいところにいるからなんですけどね。

山岸 お礼とかは言われた?

宇佐美 ないですね(笑)。

●山岸舞彩(やまぎし・まい)1987年2月9日生まれ、東京都出身。『Jリーグタイム』(NHK BS1)、『サタデースポーツ』『サンデースポーツ』(NHK総合)のキャスターを経て、現在は『NEWS ZERO』(日本テレビ系)に、月曜~木曜のレギュラーキャスターとして出演中

●宇佐美貴史(うさみ・たかし)1992年5月6日生まれ、京都府出身。身長178cm、体重69kg。利き足:右 ポジション:FW、MF 京都の長岡京サッカースポーツ少年団を経てガンバ大阪ジュニアユースに所属。以後、同クラブのアカデミー(下部組織)でプレーを続け、17歳の若さでトップチームに昇格。2011年7月にドイツ・ブンデスリーガの名門バイエルン・ミュンヘンに移籍。その後、TSG1899ホッフェンハイムを経て、2013年6月より再びガンバ大阪でプレーしている

(撮影/松井英樹)