謝罪のためマイクを持つも、心痛からか言葉が出てこない世Ⅳ虎選手(中)、右は「スターダム」ロッシー小川社長

女子プロレスの人気団体「スターダム」で、試合中に選手が大ケガをするという異常事態が起き、ネット上でも大きな話題となっている。

それも不慮の事故ではなく、ガチの殴り合いによる顔面骨折というもので、99年の新日本プロレスにおける伝説の橋本vs小川戦以来の事件!と波紋を巻き起こしたのだ。

事件は2月22日に後楽園ホールで行なわれたタイトル戦で起こった。開始直後に殴りかかった挑戦者・安川惡斗(あくと)選手に王者・世IV虎(よしこ)選手が受けて立つ形で殴り合いとなり、安川が顔面を腫らせて大流血、急遽、病院に搬送されるという最悪の結果になってしまった。

安川は頬骨、鼻骨、左の眼窩底の骨折に加え、網膜振盪症と診断され、当初懸念された失明こそないものの長期離脱は避けられない状況だ。

女優業も兼ねる安川選手と“不良あがり”の世IV虎選手という、ふたりの対立構図。関係者によると、もともと個人的にも仲は悪く、ある関係者は「あのふたりを絡ませるのは危険だという予測は会社内の人間なら容易にわかるはず」というほどだった。世Ⅳ虎選手は最初から「ヤル気」だったのではとも噂されている。

25日に急遽、開かれた記者会見では代表のロッシー小川社長始めスタッフと主要選手が出席し、ファンや関係者へ謝罪。続いて、ルールの厳罰化や選手会の発足など管理体制の改善点、世IV虎の王座剥奪と無期限出場停止、小川社長、風香ゼネラルマネージャー、選手代表・高橋奈苗の3ヵ月30%の減給処分などが発表された。

会見ではたびたび「プロ意識の教育不足」への反省の弁が繰り返されたが、会見後、小川社長に聞いたところ「仲の良し悪しは誰にでもあるが、そこはプロレスラーのプライドが当然あるので…」と選手たちを信頼しきっていたようだ。

衝撃は同業者たちにも及び、センダイガールズプロレスリングの里村明衣子選手は、自身のブログでプロ意識の重要性に触れながら「レスラー志望の選手は最初から野望高く、血の気が多い子が10代で入ってくる。(中略)人間関係や礼儀、練習を徹底管理する事は本当に大変な事です」と深刻に受け止めている。

そこには人気復活ともいわれる女子プロレスのネガティブ要素もあり、大きな団体が多かったかつての業界とは違い、現在は小団体が連立しフリーの選手も多いため、彼女たちの教育についてはどこも頭を悩ませているようだ。

会見で深々と頭を下げるスターダムのロッシー小川社長はじめスタッフ、選手たち

新日本・棚橋、邪道も不快感

謝罪のあと世Ⅳ虎選手はひと言も発することなく、質疑応答は風香GM(左)が代理で行なった

今回、その当人同士の確執は、世Ⅳ虎が病室を訪れて謝罪、握手しながらお互いの否を認め合ったとのこと。

しかし、安川が試合後にブログを更新し「ハートは折れちゃいない!」と復帰への意欲を表明したのに対し、当の世IV虎は、会見で言葉を詰まらせながら謝罪の言葉をどうにか口にしたものの、質疑応答では「本人が対応できる状態にない」と、風香GMが対応する状況で今後の進退については保留とした。

ただ、ファンからは両人のケアを望む声も出ており、問題を乗り越えて選手として磨きをかけてほしいという声も多い。美女レスラー揃いと評判で支持を得たスターダムにおいて、70kgの大型ボディでヤンキーキャラを貫く世IV虎はひときわ異彩を放つ存在。

試合直後は興奮した彼女が「辞めてやるよ」などと発言したこともあり、「プロ失格」「解雇しろ!」など厳しい言葉でネットも炎上したが、このまま業界から消えてしまうには惜しい逸材の処遇に苦心しているようだ。

女子プロレスにとどまらず、『週刊プロレス』が表紙にケガをした安川の凄惨な流血写真を使ったことに対し、新日本プロレスの棚橋選手、邪道選手らがツイッターで不快感を表明するなど業界全体でも関心の高い問題に発展。

ブーム復活といわれ、プロレス人気が高まっている昨今、普段は明るく楽しいプロレスを披露して後楽園ホールを満員にする団体だけに、選手もファンもこういった事件は不本意なはず。当日、試合を観たというファンも「セミファイナルの試合が良かっただけに残念」と語った。

写真集でセミヌードを披露するなど人気で看板選手の紫雷(しらい)イオ選手は「ファンをがっかりさせてしまった」と肩を落としながらも「(安川選手が)戻ってくるまでリングは守る」と意欲を見せている。この逆風を乗り越え、話題を逆手に一般ファンをさらに引き込むことになるか、業界の注目が集まっている。

(取材・文・撮影/明知真理子)