広島市長選に立候補した、元サンフレッチェ広島の社長・小谷野薫氏

予算は少なくてもブレない強化姿勢で、2012年、13年とJリーグを連覇! さらには、自身がモデルとなったゆるキャラがサポーターに大人気!

そんなJリーグの名物社長として知られていた“こやのん”こと小谷野薫氏が突如、政界へ殴り込み。Jリーグ強豪クラブの社長から政令指定都市の市長という前代未聞の転身は実現するか? 

今年1月17日に広島市長選(4月12日投開票)への立候補を表明し、2月12日にサンフレッチェ広島の社長を退任した小谷野薫氏を直撃。その意気込みを聞いた!

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―まずは社長退任、お疲れさまでした。

小谷野 サンフレッチェでの2年間は短い時間ですが、僕にとっては人生の宝物。それまではディールやったりコンサルやったりの切った張ったばかり。サンフレッチェの経営もその延長線上で関わり始めたんですけど、サポーターや地域の皆さんとのつながりなど、これまでの仕事にはなかった膨らみがあった。もっと私がうまくやれば、もっと皆さんに喜んでもらって、私自身も楽しくなる。今後もその感覚を大事にしたいです。

―そして、突然の市長選立候補表明。驚きました。

小谷野 サッカーの仕事をしていると、地域の皆さんと触れ合う機会が多いんです。ホームタウン活動、新スタジアム建設のための運動、さらに昨年でいえば、土砂災害への義援金集め。そうした活動を通して、市民の皆さんのいろいろな声が聞こえてきて、広島の街をもっとよくするにはどうしたらいいのだろうという意識が芽生えてきました。

―経営再建のプロでもある小谷野さんから見て、今の広島市には問題がある?

小谷野 元気がないですね。広島の場合は景気が停滞している中で財政赤字も拡大していて、街の活性化も進んでいない。市債の残高がどんどん積み上がっている。支出項目の見直しをやっていないわけではありませんが、単なる弱者切り捨てになっている。遊休地の問題、赤字を垂れ流している第三セクター、基金、公社など手つかずのところもたくさんあるのに…。

そんな状況で、現職の方(松井一實[かずみ]市長)が、今後も同じような市政を当たり前に続けるのはおかしいんじゃないのか、という気持ちがあります。

スタジアム問題だけを争点にはしない

―とはいえ、立候補に反対する声もあったのでは?

小谷野 やめたほうがいいと言ってくる人は多かった。でも、真剣に広島のことを考えれば、自然とこうなるよねって感じです。今までのキャリアもそうですが、目の前の困難やチャレンジに対して燃える性格なんですよ。

―東京出身なのに“広島愛”にあふれていますね。

小谷野 今までは(サンフレッチェの社長という)立場上、大きな声では言えなかったんですが、もともとカープのファンだったんです(笑)。カープの試合を見るためだけに広島を訪れたりしてましたから。足を生かして貪(どん)欲に次の塁を狙う野球が好きでね。と言いつつ、三村(敏之)監督時代の(1996年の)ビッグレッドマシン(当時のカープの強力打線の愛称)も大好きだったんですが(笑)。

―現職の松井市長は一昨年、「カープはクライマックスシリーズ進出に満足せず優勝してください。サンフレッチェは優勝されると(新)スタジアム(建設)問題が土俵際に追い込まれるので、2位でいい」という発言をしてその後、釈明。そのことも出馬に影響していますか?

小谷野 いろいろな人たちのいろいろな思惑があるのだと思います。(新スタジアムの早期建設を求める)40万人もの署名が集まるくらいだから、一応、協議会(サッカースタジアム検討協議会)を設置してやるけど、おまえらの自由にはさせないぞ、みたいな空気は感じました。

実際、協議会は1年半で19回ほど行なわれましたが、何ひとつ進展しない。私はこの協議会こそが長い時間をかけても何も進められない、変えられない、今の広島市政の象徴だと思うようになりました。

―選挙戦では、スタジアム問題が大きな争点になるとの見方も強いです。

小谷野 ワンイシュー選挙に落とし込もうとしているのは、現職とその支持者の方。広島市のいろいろな分野で、このスタジアム問題と同じようなことが形や仕組みを変えて起きているんです。それをなんとかしたいのであって、スタジアム問題だけをなんとかすればいいというわけではない。私がスタジアムのことだけで立候補したと言う人もいますが、それは違います。

サンフレッチェも残り2試合でひっくり返した

―では、その選挙戦をどう戦う?

小谷野 無党派で、市民の声を集めて選挙に挑みます。地方の首長選挙ではよくあるのですが、大きな政党が相乗りで現職を応援する無風選挙、私はそれを“暗黒選挙”と呼んでいます。そして、それを打ち破るのが今回の選挙。ネットも活用しながら、市民運動を核にした、お金のかからない選挙をやります。

―ズバリ、勝算は?

小谷野 負けることは考えていません。勝つしかない。サンフレッチェが2連覇を達成した時も残り2試合でひっくり返して優勝しました。また、(証券会社在籍時に)北越製紙が、王子製紙から敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けられた時も周囲からは絶体絶命と言われましたが、最後は守り切りましたから。

アントニオ猪木さんが「戦う前に負けた時のことを考えるヤツがいるかよ!」とアナウンサーをしばくっていうのがあるじゃないですか。それと同じ(笑)。その信念こそが物事を前に進めていく上で一番大事なポイントだと思います。

―楽しみにしています!

(取材・撮影/ボールルーム)

●小谷野薫(こやの・かおる)1963年生まれ、東京都出身。東京大学教養学部卒業。ニューヨーク大学経営大学院修了。野村総研、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、クレディ・スイス証券、エディオン(財務アドバイザー)などを経て、2012 年4月にサンフレッチェ広島の取締役に、13年1月に代表取締役社長に就任。今年に入って広島市長選への出馬を表明し、2月12 日に社長を退任した