懐に潜り込み、両手で相手のひざを抱え、そのまま後ろに反り返って倒す。そんな奇手「居反(いぞ)り」の使い手である木瀬部屋の宇良(うら)(22歳)。

今年2月の新弟子検査に合格したばかりだが、テレビのバラエティ番組で関西学院大学時代のアクロバティックな取り口が取り上げられたこともあり、春場所の前相撲から早くも注目を集めている。気になるのは学生相撲で磨いたトリッキーな技の数々がプロでも通用するかどうか…。

宇良は身長172㎝、体重113㎏。体格や取り口が似ていることから“技のデパート”と呼ばれた元小結・舞の海(現・相撲解説者)の再来と目されている。ならば、ここはやはり、その舞の海氏に宇良の今後を聞くしかない。

―舞の海さんは「居反り」を決めたことがありますか?

「この技は1993年に智ノ花さん(現・玉垣親方)が決めて以来、20年以上も出ていません。私も現役時代に試みたことはありますが、決められませんでした。ずばぬけて身体能力の高い宇良君だからできる技でしょう」

―「居反り」など、宇良の持ち味を大相撲で生かすにはどうすればいい?

「いや、むしろアクロバティックな技にはこだわらないほうがいいでしょう」

―えっ?

「プロの世界では、学生時代よりも重くてパワーのある相手と戦わないといけません。『居反り』のような大技を決めるのは至難の業。それよりも低くもぐり込んでの小手投げ、上手投げ、下手ひねりなど相手に体重をかけられてもケガをしにくい取り口を覚えたほうがいい」

相撲は重ければ有利というものではない

―奇手に頼らず、もっと体を大きくするしかない?

「いえ、宇良君のような小兵力士が体重を増やすと『あんこ型』になり、押し相撲しかなくなってしまう。それでは彼の魅力が消えてしまいます。まずは、体重を増やすよりも上から押し潰(つぶ)されない背筋力、土俵から押し出されない強靱(きょうじん)な下半身をつくってほしいですね」

―やっぱり、小さな力士はひたすら稽古ですか?

「いえ、よく『小兵力士は人の何倍も稽古しろ』などといわれますが、あれは迷信です。ただでさえ小さいのに、巨漢力士相手に激しい稽古したら体が壊れてしまいますよ(笑)。

無理しても大丈夫か、それとも無理したら潰されてケガをするかを一瞬で見極め、紙一重の際どいところで白星を拾っていく…それが小兵力士の相撲です。稽古量は、少なくとも常に本場所のように緊張感を持って稽古するほうが力はつきます」

―宇良は出世できますか?

「十両にはなれると思います。ただ、その先は運などいろいろな要素に左右されるので、なんとも言えません。いずれにしても、宇良君には『相撲は重ければ有利というものではない』ということを証明してほしい。

そのためにも、とにかくケガをしないこと。ひざなどを一度でも痛めれば、持ち味のスピードも落ちてしまいます。また、『居反り』にこだわるなと言いましたが、ひとつの武器として取っておき、チャンスがあれば是非狙ってほしいです」

奇手にこだわりすぎず、体重も増やさず、稽古はやりすぎないーーこれを守れば十両は確実? 相撲は奥が深い!

(取材/ボールルーム)