故・橋本真也さんのテーマ曲『爆勝宣言』は、鈴木氏と橋本さんのぶつかり合いの末に生まれたという

全国1千万人のプロレステーマ曲ファンの皆さま、こんばんは。フリーアナウンサーの清野茂樹と申します。さあ今日は、大物登場であります。

かつて橋本真也、武藤敬司、蝶野正洋、そして小橋建太と、そうそうたる顔ぶれの入場テーマ曲を作曲し、発売中のアルバム『闘魂三銃士 最強ベスト』でファンを狂喜乱舞させている鈴木修さんに、テーマ曲の醍醐味(だいごみ)について語っていただきたいと思います!

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―まず、鈴木さんが作曲した主なテーマ曲を挙げてみると…。

橋本真也 ♪『爆勝宣言』 武藤敬司 ♪『HOLD OUT』♪『SYMBOL』 グレート・ムタ ♪『MUTA』 蝶野正洋 ♪『FANTASTIC CITY』 小橋建太 ♪『GRAND SWORD』 藤波辰爾 ♪『RISING』 佐々木健介 ♪『POWER』 船木誠勝 ♪『TO-U』 越中詩郎 ♪『SAMURAI』 小島 聡 ♪『STYLUS』 後藤達俊 ♪『Mr.B.D.』 田上 明 ♪『THRUSTER』 森嶋 猛 ♪『EXTRA STATUS』 潮﨑 豪 ♪『ENFONCER(アンフォンセ)』

と、これだけ多くの大物レスラーのテーマ曲を作曲したのは驚きですが、最初に作ったのは誰の曲だったんですか?

鈴木 藤波(辰爾)さんの『RISING』です。藤波さんには『マッチョ・ドラゴン』などのオリジナル曲がありましたが、ジュニアヘビー級時代からの曲なので、ヘビー級にふさわしい曲を依頼されたんです。

それと、同時期に船木(誠勝)さんの曲も作りました。船木さんは当時20歳くらいでしたが、末恐ろしいというか強いものを秘めていた。彼にすごく惹(ひ)かれて意気投合し、海外修行に出る時には「帰ってきたらテーマ曲を作ってほしい」という話があったんです。

船木が号泣しながら出てきて……

数々の大物プロレスラーのテーマを作曲した鈴木修氏

―でも、船木さんは帰国後、UWFに引き抜かれますよね。

鈴木 はい。当時、私が所属していた会社と新日本は同じテレビ朝日内にあり、「どうするの?」って聞いたら、船木さんは「これから猪木さんと会って最後の決断をしてくる」と。やがて号泣しながら出てきて「俺、Uいくっす」って。

でも実はその時、すでに曲は用意してあったんです。テープをUWFの事務所に持っていき、しばらく使っていただきました。『TO-U』というタイトルは「あなたに」と「UWFへ移籍」をかけています。

―Wミーニングだったんですか! 今もWRESTLE-1で使ってますよね。鈴木さんがテーマ曲を手がけられるようになった経緯を伺いたいのですが、もともとは「音効」(音響効果)の仕事をされていたんですね?

鈴木 テレビ朝日の子会社だったTSP(東京サウンド・プロダクション)に入社して報道やスポーツなどいろんな番組を担当していました。『ワールドプロレスリング』の担当になったのは1986年、古舘(伊知郎)さんが実況していた最後の頃です。会場での音出し担当からスタートして、テーマ曲の選曲、そしてオリジナル曲の作曲を任されるようになりました。

―もともと音楽はやられていたんですか?

鈴木 高校生の頃からバンドをやっていて、静岡から上京して仲間とプロを目指していましたが、気がついたら僕はこの道に進んでいた。でも仕事と並行しながらチャンスがあればミュージシャンにという気持ちもあって、曲はたくさん作っていました。

―プロレスは昔からお好きだったんですか?

鈴木 猪木さんが新日本プロレスをつくってテレビ中継が始まった頃(73年)から見ているので、同い年の橋本さんなんかとはプロレス観が共通してましたね。

―まさに「世界で一番強いアントニオ猪木」という教育を受けて育った世代ですね。橋本さんのオリジナルテーマ『爆勝宣言』はプロレス史に輝く超名曲です。

鈴木 橋本さんには当初、既存の曲を用意したんですけど、私が選んだ曲に橋本さんは「違う。自分の曲はもっとカッコいい曲だ」と。私も若かったし妥協しないので、お互いムキになってね。「だったらテレ朝のレコード室から自分で選んだらどうですか?」って。すると橋本さんは2時間くらいして戻ってきて、「コレや!」と。

橋本真也さんへの思い

―岐阜弁で。なんの曲だったんですか?

鈴木 映画『フットルース』の『Never』(*1)で、埼玉の戸田大会で使いました。でも試合後、汗も拭かずに橋本さんが私のところに駆け寄ってきて「すみませんでした」と。会場でかけたらイメージが違ったんですね。それで、「じゃあ一緒にオリジナルを作ろう」となったんです。

(*1)1984年公開のアメリカ映画の挿入歌で、日本ではピンク・レディーのMIEがカバーし、ドラマ『不良少女とよばれて』の主題歌としてヒット

―そして『爆勝宣言』が生まれたわけですね。意見の衝突の末に友情が芽生えるのは、まさにプロレス的です。

鈴木 橋本さんは「猪木さんの『炎のファイター』を超えるものをお願いします!」と。

―ハードル高すぎですね!

鈴木 正直、あれほどの曲ができるか不安がある半面、「でも橋本さんはタイプ違うから、ああいうふうにはならないよ」って。曲は街を歩いたりしながら考えることが多いのですが、『爆勝宣言』は六本木アークヒルズ(*2)の歩道橋でアイデアが浮かびました。

(*2)赤坂と六本木にまたがる複合施設。テレビ朝日やサントリーホールなどが入っている

そこは風がよく当たる場所で、前方からきた風が上に吹き上がる感じがする。ちょうど飛行機の翼に風がぶつかることによって揚力を得るように、メロディがだんだん下がっていってから上昇するイメージが浮かんだんです。

それから、橋本さんと丁々発止しながら仕上げていきました。お互い若気の至りで調子に乗って楽しんでやってましたね。朝6時頃まで話し込んで、最後は脱線して「地球上で一番強い動物は何か?」とか議論したり(笑)。

小橋が「新日本っぽい」と却下

―橋本さんといえば数々のイタズラ伝説も有名ですが、空気銃で撃たれたりは?

鈴木 一度だけ狙われたことがあります(笑)。あと、肉屋から道場にでっかい肉を配達してもらって1万円払って、「オヤツだ」と言って焼いて食べたり。

―橋本さんは05年7月に急逝されました。告別式の出棺の時、『爆勝宣言』が流れましたが、その時は…。

鈴木 (数秒間、宙を見上げて沈黙してから)告別式の話はちょっと…。でも、棺の中の姿を見た時、「これは橋本さんじゃないんだ」と思いました。今でもどこかでそういう気持ちがあるんです。「そういえば最近、橋本さんと会ってないな」という感覚です。

 

『FANTASTIC CITY』は、蝶野正洋が“黒のカリスマ”になる以前、ベビーフェースだった時代の名曲だ

―話を楽曲に戻すと、実況する側は速いテンポの曲のほうがしゃべりやすいのですが、蝶野さんの『FANTASTIC CITY』は途中からスローバージョンに変更されました。これはなぜですか?

鈴木 (91年の)『G1クライマックス』で優勝したので、メインイベンターとしての貫禄を出すためにスローにしました。それに、蝶野さんは入場する足取りは速くないです。

曲を作る時は、選手が花道に姿を見せてからリングインするまでのストロークによって、イントロから何秒後に曲のヤマ場を持ってくるかを考えます。会場の規模によって異なりますが、当時は両国国技館を基準にしてました。

―山下達郎さんがコンサートをする時に中野サンプラザを基準にする感じですね。

鈴木 そうなんですか(笑)。小橋さんの『GRAND SWORD』は日本武道館を基準にしました。依頼された時、曲のストックから「小橋さんに使ってほしい」と温めていたものを提示したのですが、「新日本っぽい」と言われ却下され(苦笑)。若手時代からの試合を見直して、最終的にピアノを前面に出したシンプルな曲にしました。

―曲が初披露される時は会場に行かれるんですか?

鈴木 必ず行きます。一番嬉しかったのは、武藤さんの凱旋(がいせん)試合(90年4月)で『HOLD OUT』が流れた時ですね。

―蛍光の柄が入った白いTシャツに、赤いショートタイツがまぶしかったです。

鈴木 新しい武藤に対する期待感がハンパではなく、「入場シーンでこんなに盛り上がるのか」というほど会場が一体化していました。

あの曲は橋本さんの時とは違って、事前に本人と打ち合わせをしていないんです。田中(秀和)リングアナと「こんな感じで」という話をしただけで、あっという間にできたんですが、帰国した武藤さんに聴いてもらったら、あっさり「いいんじゃないの?」と、一発OK。

―武藤さんはテーマ曲をどんどん変えますよね。

鈴木 正直、ずっと『HOLD OUT』でやっていただきたかったんですけどね。

グレート・ムタのテーマは音響効果が満載

武藤敬司のテーマ曲『HOLD OUT』は、『爆勝宣言』に並ぶ超名曲。全日本プロレスに移籍してからの『SYMBOL』も鈴木氏が作った曲だ

―やっぱりそうですか(笑)。グレート・ムタのテーマ『MUTA』。これも秀逸です。

鈴木 ムタがアメリカで活躍している時から頭の中でイメージは作り込んでいたんです。『HOLD OUT』を和楽器でアレンジすることも最初から考えていて、自分の中では神社仏閣のイメージ。近所のお寺の境内を歩き回って膨らませました。

―歌舞伎の「ヨ~ッ」というかけ声とか、まさに音響効果のエッセンスが満載です。

鈴木 テレビ局の膨大なSE(効果音)を使ってきた経験があるので、板を打ち鳴らす音などをどこでどう入れるかっていうのは頭の中でできていました。三味線のメロディはすごくシンプルなものですが、SEのおかげで転調した時に生きてくるんですよ。

―作曲において、「ム、ト、オ!」「ハッシモトッ!」とか観客のコールは意識します?

鈴木 『HOLD OUT』だけ例外ですが、実は考えてないんです。心がけているのは、観客が手拍子するような曲にしないこと。何かに本気で夢中になっている瞬間って手は止まって、その代わりに声が出ると思うんですよ。

お客さんの反応で一番嬉しいのは大会が終わった後、例えば武道館だったら九段下の駅までぞろぞろ歩くじゃないですか。いい試合を見た後の独特の高揚感の中で、テーマ曲を口ずさんでいる人を見ると嬉しいですし、同時に「次はこうしなきゃいけないな」と考えたりしますね。

■鈴木 修(すずき・おさむ)1965年生まれ、静岡県出身。作曲家、編曲家、ギタリスト。プロレステーマ曲のほか、宝塚歌劇団への楽曲提供など活動は多岐にわたる

■『闘魂三銃士 最強ベスト』(IVY Records)闘魂三銃士の初期テーマ曲を中心に、会場使用のオリジナル音源をバージョン違いで全20曲収録! 定価3000円+税。絶賛発売中!!

■清野茂樹1973年生まれ、兵庫県出身。フリーアナウンサー。新日本プロレスをはじめさまざまな格闘技実況のほか、ラジオ日本『真夜中のハーリー&レイス』のパーソナリティとして活躍

(撮影/平工幸雄)