2年前の2013年にマクラーレン・ホンダとしてのF1復帰を発表して以来、「初戦からメルセデスと対等に戦えると信じている」と、豪語し続けてきた自信はどこへやら。開幕戦は最後尾からスタートし、最下位でなんとかバトンが完走…という結果に終わった。

「正直、今日のレースで完走できるとは思っていなかった。もちろんこの結果にハッピーとは言えないけれど、最後まで走り切り、多くの貴重なデータを得られたことはチームにとって大きな進歩だと思う」とレース後にバトンは語っていたが、やはり、2年前の自信は一体なんだったのだろうか?

開幕戦のメルボルンでマクラーレン・ホンダが激遅だったのには、当然ながら理由がある。実は予選、決勝ともにホンダのパワーユニット(今年のF1は1.6リッターのV6ターボエンジンと、MGU-K、MGU-Hという2種類のエネルギー回生装置に電気モーターを組み合わせたハイブリッドエンジンを搭載。そのシステム全体をこう呼ぶ)をあえてフルパワーで使っていなかったのである。

「気温や路面温度が想定外に高かったため、パワーユニットをかなりコンサバな設定で使わざるを得ませんでした。熱対策に関しては現時点で確認できていない部分もあり、1レース目でエンジンを失うとシーズンを戦うのが厳しくなる(今季、使用できるパワーユニットの数は年間4基と規定で定められている)。そのためMGU-K、エンジンともに出力を下げた状態で使わざるを得ず、残念ながら本来の実力を出せていないという状況です」

そう語るのは、ホンダの新井康久F1プロジェクト総責任者だ。

開幕前のテストではパワーユニットのトラブルが続発し、その影響でまともにテストができないまま本番を迎えたマクラーレン・ホンダ。レース後のバトンが「完走できるとは思わなかった」と笑顔で語るのもそのためで、現実にはタイムどころか、まともに走れるだけでも奇跡(!)といえるほどの状況だったのである。

首をかしげざるを得ない新井氏のコメント

そう考えれば、どんなにラップタイムが遅くとも、バトンが決勝レースで完走を果たし56周を走りきったのは、彼の言うとおり大きな進歩だ。

そして、その背後にはホンダのエンジニアたちがギリギリまで続けた必死の努力が隠されているに違いない。何しろ開幕前のテストでバトンが最も長く連続走行できたのは、たったの12周だったのである…。

ただし、「ホンダのパワーユニットが本来の実力を出せていない」という新井氏のコメントに関しては首をかしげざるを得ない。

そもそも新井氏はメルボルンの温度が「想定より高かった」と言うが、気温にして20度前後、予選時の路面温度が38度前後という温度は、全シーズンを通しても決して高いほうとは思えない。

記者会見でもその温度を理由に、「エンジンを壊せないので出力を下げた」という新井氏の説明に、外国のメディアから「次のマレーシアGPは路面温度が50度を超える暑さですが…」という質問が飛んだ。会見場に失笑が漏れたのも当然のコトだろう。

そもそも「実力」というのは、一定の信頼性を確保した上で発揮できる性能のコトをいうのであって「壊れる危険があるから全力は出さない」というのは、「死ぬ気でやれば俺の実力はこんなモンじゃないけど、死にたくないから手加減してやったぜ!」と強がっているのと同じである。

(取材・文/川喜田 研)

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