キューバ国内リーグの公式戦が終了し、ユリエスキ・グリエルが来日するはずだったのは3月26日。しかしその前日、横浜DeNAの高田繁GMは、報道陣にこう吐き捨てた。
「日本に来て(ケガの状態を)見せてほしいと言ったが、『完治するまで来ない』の一点張り。(来日は)いつになるかわからない。抗議? どこにすればいいんだよ!」
巨人との争奪戦の末、再契約に成功したキューバのスター選手は、右太もものケガを理由に一方的に来日延期を主張。話し合いの結果、日本に来ることなく契約解除となってしまった。
ただ、日本メディアは「グリエルのワガママ」とバッシングしたが、本人ばかりを責めるには可哀相な事情もある。昨年12月から約2ヵ月間キューバに滞在し、現地の野球を取材したカメラマンの八木虎造(とらぞう)氏はこう語る。
「キューバのシーズンは秋から春、日本は春から秋。昨年DeNA入りしたグリエルは、2013年の秋から休みがなく、最近はとても本来の動きではなかった。ケガをした後もキューバではだましだましプレーしていましたが、日本で通用するコンディションではないと思います」
亡命やごく一部の例外を除けば、社会主義国家のキューバで選手の海外移籍が認められたのは13年秋からで、移籍交渉は基本的にすべて政府が取り仕切る。現状では自国のリーグや代表チームでもプレーすることが条件になっていて、選手はそれを受け入れるしかない。
「グリエルはキューバのドキュメンタリー番組で、『日本は練習が多くてつらい』と話していた。一年中、試合に出続ける彼にとって練習はあくまで調整であり、日本式は合わないのかもしれません。それでも1月末に私が彼と話した時は『DeNAに行くよ』と言っていたのですが、ケガをした状態で日本に行くモチベーションは持てなかったのでしょう」(八木氏)
来年以降、トップ選手は日本に来なくなる?
昨年、日本移籍第1号として来日したのはグリエル、巨人のセペダとメンドーサ、ロッテのデスパイネ(グリエル以外は今年も来日)。若手のメンドーサを除けば、いずれもキューバ代表の中軸を長年務めるスーパースターだ。今のところキューバ政府が日本を移籍先として重視していることは間違いなく、グリエル騒動に怒っていたDeNAの高田GMも「いい選手がいればまた獲りにいく」と語っているという。
ただ、実際は来年以降、トップ選手は日本に来なくなってしまうかもしれない。アメリカとキューバの歴史的な国交正常化交渉の進展次第で、来年にもキューバ政府がメジャー移籍を本格的に認める可能性が高いからだ。
「選手たちは皆、大型契約なら年俸が日本の数倍になるメジャーに行きたくて仕方ない。今年2月、ヨアン・モンカダという19歳の超有望選手が特例的な措置でレッドソックスと契約しましたが、その総額は約37億円。キューバ政府としても、年俸の一部を仲介料として受け取れるので、早くメジャーに選手を行かせたいはずです。
しかも、地理的に距離が近いこともあって、メジャー球団はキューバ選手の情報をよく知っています。メジャーとの獲得合戦となれば、日本球団はかなり厳しくなるかもしれません」(八木氏)
もしかすると、来年の今頃には「グリエル事件が懐かしい」なんていうことに…?
(写真/八木虎造)
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