FIBAの要請を受け、今年1月末に改革のための特別チームのチェアマンに就任した川淵氏

日本代表チームが国際大会に出られない! 昨秋、国内リーグの併存問題などを問題視した国際バスケットボール連盟(FIBA)から日本バスケ界に厳しい制裁処分が下された。

だが、ここへきて光明が見え始めている。先導役を果たしているのが、FIBAが設立した日本バスケ改革のためのタスクフォース(特別チーム)のチェアマンを務める川淵三郎氏(78歳)だ。その川淵氏に手応えを独占直撃した!

■リオ五輪予選には出られると思う

―単刀直入にお聞きします。バスケの日本代表チームは、今夏にも始まる2016年リオデジャネイロ五輪予選に出場できますか?

川淵 予選に出られることは間違いないと思うね。

―その根拠は?

川淵 FIBAが制裁解除のために要求しているのは3つ。「NBLとbjリーグの統合」、「日本代表の強化」、そして「JBA(日本バスケットボール協会)のガバナンス(統治)強化」について。どれもFIBAに相談しながら進めている最中だから問題なく制裁は解除されると思う。

ただ、今回は制裁が解除されても、今後もずっと解除されるかといったら必ずしもそうではない。おかしくなれば、再制裁の可能性があることも忘れてはいけない。

―ただ、川淵さんがタスクフォースのチェアマンに就任してから事態は一気に好転しているように見えますが、同時に「なぜ川淵さんがバスケを?」という疑問があります。

川淵 陰で「出しゃばりやがって」と言われていることは知っている。ただ、僕ならやれると思ったんだよ。日本のバスケットボールをなんとかできるって。だから、チェアマンを引き受けたんだ。

何度も怒鳴りかけたが爆発はしなかったよ

―では、あらためてチェアマン就任の経緯を教えてください。

川淵 昨年の4月に男子日本代表元監督の小浜(元孝)さんが訪ねてきて「リーグがひとつにならなければFIBAから破門される。バスケットボール界を助けてほしい」と言われてね。それで元々、JBAやNBL、bjリーグの代表とも面識があったので、リーグ統合に関しての話し合いの場を設けませんかと持ちかけたんだ。みんなで4回ほど会ったよ。

―その話し合いだけではうまくいかなかった?

川淵 お互いの言い分はわかるんだけど、「あなたたちは本当に日本のバスケの発展を考えてるのか!」と怒鳴りたい場面が何度もあった(苦笑)。我ながら、なんでこんなに我慢するんだろうってくらい我慢して。バスケットボール界が上手くいってくれればと一切、爆発しなかった。ようやく会議でまとまったんだけど、それぞれの組織に持ち帰ると内部の反対にあって潰れてしまい、FIBAへの回答期限までに結論を出せず制裁処分が下されてしまった。

―その流れがあり、FIBAのバウマン事務総長にタスクフォースのチェアマン就任を打診されたわけですね?

川淵 そう。事情も知っていて、一気呵成やれるのは僕しかいないだろうと。バウマンの話を聞いて、FIBAも決して無理難題を言っているわけではないこともわかった。一般のファンの方に正しく伝わっているといいけど、FIBAは真っ当なことを言っている。日本のバスケットボール界の未来のためにやらなければならないことをやってこなかったでしょと。

FIBAが言っていることは「今回の制裁をきっかけに変わらないといけないよ」ということなんだ。なるほどと思ったし「チェアマンを是非やってくれないか」と言われ、日本のバスケットボールのためにひと肌脱ごうと思ったよ。

僕はいつも言ってるけど、決してサッカーだけがよくなればいいとは思っていない。“日本のスポーツ全体がよくなればいい”という思いが、ずーっとある。だからチェアマンを引き受けた。まあ、JBAやNBL、bjリーグの話し合いの場で爆発していたら引き受けてなかっただろうけどね(笑)。

15億円なんてたいした額じゃない

―チェアマンを引き受けたのは、失敗した場合にどれほど批判されるか、そのリスクも考えた上ですか?

川淵 もちろん。そもそも、どうにもならないと思ったら引き受けてないよ。僕ならやれるなと思ったんだ。

―強気ですね。

川淵 リーグ統合でネックになるのは「企業名を外すか、外さないか」と「(債務超過寸前になっている)『bjリーグ』という株式会社をどう処遇するか」のふたつだった。で、企業名はまあ、つけてもいいんじゃないかと。

もうひとつのbjリーグ株式会社の扱いについては「いくらあれば満足できるの?」と聞いたら「15億円以上」ってことだった。驚いたね。日本のバスケはたかが15億円の会社の処理を巡って右往左往しているのか、そんなバカな話があるかって。

バスケ界が大きな夢を掲げて、そこに向かってみんなで進んで行こうとしている。そのためなら15億円なんてたいした額じゃないだろうと。だって日本のバスケは選手登録が60万人以上、サッカーに次ぐ数だよ。バスケは世界的に見てもサッカーに次いで人気の高い、可能性のいっぱいある競技なんだから。現にNBAもユーロリーグも非常に人気がある。

僕もNBLとbjリーグ、両方の試合を観戦したけど非常に面白かった。サッカーはたまに間延びした試合があるんだけど、バスケットは間延びしてなんかいられない。24秒内に1回シュート打たなきゃいけないんだから。面白いよね。

―試合を観戦する際、自腹でチケットを買っているそうですね。

川淵 そりゃあ、そうだよ。Jリーグのチェアマン時代もそうだったけど、僕はよく、自分で切符を買って観たんだ。チケットの窓口、客席、そういったとこを含めて雰囲気を見たいからね。

まあでも、僕が見たあるバスケの試合は、会場の雰囲気はよくても窓口はガラガラだったりしてさ。それじゃ寂しいよね。バスケットボールは可能性がいっぱいある競技だって言ったけど、その可能性と同時に現実も直視しなければいけない。

特に、男子の日本代表は1976年のモントリオール以来、オリンピックに出場できていない。日本人はオリンピック好きなんだから出ると出ないじゃ世間の注目度がまったく違う。2020年の東京オリンピックは自国開催だけど、今の実力じゃ出られない可能性があるんだよ。一定の競技レベルを超えないと開催国であろうと出してもらえない。

それを、みんなわかってないんだよ。だからこそ、日本のバスケットボールは今動かなければ手遅れになる。

なぜって?そりゃスポーツ愛だよ!

―バスケは元々、お好きだったんですか?

川淵 僕はサッカーだけじゃなくて、どのスポーツも、本当にどのスポーツも好きなんだ。このスポーツは好きだけど、このスポーツは嫌いって言う人の意味がわかんない。『サンデーモーニング』に呼ばれて、張本(勲)さんの横でいろんなスポーツについてコメントすると「よく知ってますね」なんて言われるけど、知ってるんじゃなくて純粋にスポーツが好きなんだ。

まあ、アメリカンフットボールが一番好きかな。サッカーよりも(笑)。昔は水泳競技や陸上競技の日本記録を全部覚えてたよ。それだって覚えようとしたわけじゃなくて、好きだから自然と覚えてたんだ。古橋(廣之進)さんの400メートル、800メートル、1500メートルの記録、今でも全部覚えてるからね。だから「なぜ川淵がバスケを?」と思われるかもしれないけど、それはスポーツ愛だね。

●この続き、後編は明日配信予定!

(取材・文/水野光博 撮影/ヤナガワゴーッ!)

川淵三郎(かわぶち・さぶろう)1936年生まれ、大阪府出身。サッカー日本代表として1964年東京五輪に出場。古河電工で活躍後、監督に。日本代表監督も務める。1993年のJリーグ創設に尽力し、初代チェアマンに就任。その後、日本サッカー協会の会長など要職を歴任。現在は最高顧問。首都大学東京理事長