昨今、人気復活とばかり盛り上がっている新日本プロレス。特にその一端を担うのが「プロレス女子」、通称“プ女子”と呼ばれる女性ファンの増加だ。
会場では野太い野次に混じって黄色い声援が増え、選手名入りのウチワを持って応援するカワイらしい女性ファンの姿は明らかに新しい存在。今や新日のファンクラブ会員の半数以上は女性とされ、アイドルばりの選手グラビア本まで発売され、売上げも好調だそう。
しかしその一方で、選手の「萌え」寄りの売り出し方に物足りなさを感じるプロレス女子まで…。数の拡大は語られても、いまだ謎に包まれているプ女子のリアルな生態…。その二極化現象を明らかにするべく、新日ファンのプロレス女子に集まってもらい覆面(マスク)座談会を決行!
メンバーは昨年12月、プロレス技図鑑『プ女子百景』(小学館集英社プロダクション)を出版したイラストレーターの広く。さん(ファン歴10年)を中心に、オカダ・カズチカを愛するYさん(ファン歴1年)、ルチャリブレファンのMさん(ファン歴6年)、そして広く。さんの本を制作するうちプロレスを好きになってしまったという担当編集Sさん。
増えたとはいえ、同志はまだまだ少ないプ女子たちがプロレスとの出会い、愛を深める模索の日々を水を得た魚のように過熱トーク! 飛び交うマニアックな単語に尋常じゃないプロレス愛を感じさせつつ、濃い目の独白でプロレス女子の多様な進化が今、明らかに…!
―昨今、話題の「プロレス女子」ですが、お互いに生態がイマイチわかりませんよね。Sさんは、広く。さんの本の編集をしたのがキッカケだとか。
S ええ。元々、相撲も好きなので、五月場所はプロレスと相撲で忙しいです(笑)。
広く。 私は2002年にグレート・ムタをTVで観て「なんだこれは!?」というのがキッカケ。でも思い返してみると、子供の頃に『キン肉マン』を読んでいて、それがプロレスだとは思っていなかったにしてもその世界観を楽しむ土壌はできてたかも。
M 『THE MOMOTAROH(ザ・モモタロウ)』とか!
広く。 にわのまことさんの! 面白かった!
キッカケはグレート・ムタに『キン肉マン』
―Mさんが興味を持ったのは?
M 夜中にTVつけたらWWEでザ・ロックとブッカーTがスーパーマーケットで戦ってたんですよ。ムキムキの怖い顔した外国人が缶詰の上にボカーンて(笑)。しかも大真面目にやってるから面白くて! ちょっとブランク開いてまた観たら、当時好きだったレイ・ミステリオがまだいる! プロレスって選手の寿命が長いじゃないですか。
―選手の成長を見届けられるのも醍醐味(だいごみ)ですね。
M そこで新たに夢中になったのがシン・カラで、その頃、新日がマスカラ・ドラダとかルチャの選手を呼んでいたので、会場に足を運ぶように。ちょうどオカダ・カズチカが初めて棚橋に挑戦した頃で…。
広く。 「オカダの成り上がり」ストーリー、面白かったですよね!
―ハマると、TVや試合を観るだけでは満足できなくなりませんか?
広く。 実況で「出た! フランケンシュタイナー」と言われてもわからなくて…。もっとわかれば楽しくなるのでは?と技の本を買い集めて枕元に積み、毎日寝る前に少しずつ楽しむということを(笑)。流智美さんの本(『流 智美のこれでわかった!プロレス技』)は、誠実な筆致で歴史や技の詳細も載っていて私のバイブルです。たまたま自分は絵を描く者なので、プロレスに関して何かしたいとなった時、技のイラストなら…と。
―男子はプロレスごっこですが、女子はプロレス愛を別のもので発露する傾向があるのでは?
Y 悶々(もんもん)とした気持ちを(笑)。
広く。 溢(あふ)れる情熱を(笑)。なるほど、言われてみれば!
M 私は一眼レフカメラを持っていて、何を撮っていいのかわからなかったけど、プロレス会場で「コレだ!」と。
広く。 すごいクオリティの写真をtwitterに上げている人もいますよね。「ありがとうございます」って保存します(笑)。
「プロレス女子」と呼ばれることについて
―ところで「プロレス女子」と呼ばれることについてはどう思いますか?
Y ちょっと違和感があるというか…。
M 自称しているわけじゃないというのがポイントですよね。
広く。 選手を異性として見る視点は新しいと思いました。自分が女性だということは気にせず、ただ面白くて10年ほど観ていたので…。
―選手の肉体美、因縁や抗争、またはジャンルごと…など愛し方は様々。ファン歴が長い人ほど“プ女子”と単純に分類されることに不満なのでは?
広く。 じゃあ「子」を「史」にして「プロレス女史」にしたらどうですか?
―プロレス女子進化系(笑)。
広く。 スイマセン、思いつきで(笑)。ただ、「プロレス女子」を逆手に取って面白がりたいというのはありますね。プロレスを好きな人って、面白がる能力があると思うので。「かくあるべし」とか「模範的ファンとは」とか風紀委員みたいに雰囲気がギスギスしちゃうとイヤじゃないですか。
―なるほど! 確かに新旧ファンともに盛り上がろうという雰囲気はあります。会場には親切すぎるプロレスファンも多いですよね?
Y そうですね。初めて会場に行くまでは怖い人がいるんじゃないかと思ってたけど、先日もひとりで来てる女のコに、その隣の男の人がすごく詳しく教えてあげてて。
M 「プロレスを広めたい!」と思ってますよね。
広く。 そうそう! ひとりひとりが使命感のような意識を持っている(笑)。
M 旦那さんを年に一度だけ新日のFANTASTICA MANIAに連れて行くんですけど、今年は「会場が明るくなった」とびっくりしてて! 以前は静かだったけど、今はみんな声を出していて、それによって選手も輝いていて「女のコが増えたのいいんじゃない」って。腕組んで観ている人だけじゃなくて。
「壁ドン」と「巌流島」は究極の選択?
広く。 いわゆる「うるさ型のファン」じゃなくて(笑)、素直に観てる感じ! 自分の経験からいうと、内藤(哲也)選手へのハマり方は、最初はミーハーに見た目に惹かれて試合を見て、その時の「憧れの棚橋(弘至)選手に挑戦する」という状況がまるで少年漫画のようで。それからもっと知りたくなりました。それから因縁とかいろんな伏線を仕入れて…。
M ひとりにフォーカスされた瞬間に変わりますよね。観てるのは試合なんだけど、このふたりの間にはこんなことがあって…と遡(さかのぼ)ってみたり、だんだん面白くなります。
広く。 今、ミーハー的に好きな人のうち何割かはこうなっていくかも…。
―最近は選手がプロレス以外でも活躍してますしね。
広く。 このプロレス熱が盛り上がっている機会にいろいろやり切っちゃうのも面白いのでは?
―もっと「萌え」に振り切っちゃうのも振り返った時に面白いかも。飯塚(高史)選手だってJ・J・JACKSだった時代がありますし!
広く。 今やアイアンフィンガーに(笑)。
M 萌えは入りやすいし、その人のキャラを掴みやすいのはありますよね。
―その半面、萌えの切り口には女性の中でも賛否ありますね。
Y 私はオカダには「壁ドン」とかしてほしくないです…。
―じゃあ「壁ドン」と「巌流島」ならどっちがいいですか?
Y えー! 究極の選択じゃないですか!
広く。 誰とやるんですか(笑)。
M オカダファンの友達は「萌え」の本は写真もいいし楽しいんだけど、プロレスのことが書いてない、と言ってました。その選手が試合で何を見せてるか、という切り口でも紹介してほしいと。萌えに関してはいろいろ探して勝手に萌えるので(笑)。
レスラーによる技解説をDVDに!
Y 供給してもらわなくても大丈夫です(笑)。
広く。 技の本を出したいと思ったのも「今」の技について解説した本がなかったからなんです。週プロ(週刊プロレス)さんとか、プロのマスコミが出す専門的な今の本を読みたい!
M 読みたい! 男の人は学校で柔道をやったりして、ココを引っ張ったらこうなるとか身体感覚はあると思う。女性の多くは解説や絵で見ないとわかりづらいから…。
広く。 もうちょっと知りたいという時に手に取れる、選手じゃなくて今のプロレスに焦点をあてた本が欲しいですよね。昭和のプロレスの本は出てますけど…。
―では新日ファンとして今後、期待することは?
広く。 トークもいいけど、試合に特化したイベントを観たいです。レスラーによる技解説とか。
一同 観たい!
Y 絶対ヤングライオンがめっちゃ技かけられますよね(笑)。
S DVDでも売れると思います!
広く。 新日本プロレスワールド(動画サイト)で小出しにしてもらっても! もっと知りたくなってきた人に試合そのものを楽しめるイベントがあればいいと思います。
ところで、こんなに女性ファンが集まったのに最重要選手の棚橋さんの話題が一切出ませんでしたね…。
―言うまでもない、ということで!
(取材・文・撮影/明知真理子 ©2014 HIROKU.)