“世紀の一戦”と呼ばれた5月3日のフロイド・メイウェザーvsマニー・パッキャオの一戦。その盛り上がりぶりはスゴかった。

観戦チケットは発売開始1分で完売し、最も高額なリングサイド席は、2枚で30万ドル(約3600万円)の値をつけた。また、世界中のセレブがプライベートジェットでラスベガスの空港に集結したことで、滑走路が一時閉鎖される事態にもなった。

日本国内では同じアジア人のパッキャオを応援する声が多かったが、現地ではどうだったのだろう。アメリカ在住のスポーツライター・杉浦大介氏がこう話す。

「会場は8対2くらいの割合でパッキャオファンが占めました。パッキャオはアメリカンドリームの体現者でもあり、多くの人に愛されています。一方、メイウェザーは、熱狂的に好かれるか、嫌われる、中間のいないボクサーです」

やはり、現地でも人気はパッキャオの圧勝。しかし、ファイトマネーでは逆転現象が起きていた。その分配比率はメイウェザーが60%、パッキャオが40%。金額にして、メイウェザーが2億4000万ドル(約288億円)、パッキャオが1億6000万ドル(約192億円)ともいわれる。

パッキャオに人気で劣るメイウェザーのほうがファイトマネー、つまり商品価値が高いのはなぜなのだろう?

昨年末に来日したWBA・WBO世界スーパーバンタム級スーパー王者のギレルモ・リゴンドウは「強いが、リスクを冒さない試合運びが不人気で、ラスベガスで試合を組めない」と評されていた。だが、メイウェザーはまさにその「リスクを冒さない」守備的なスタイルの選手。今回の一戦でも、KOを狙わずにポイントを稼いで判定勝ちを収め、“凡戦”を演出したというのに。ボクシングライターの原功(いさお)氏が解説する。

ボクシングビジネスの究極進化型

「現行ルールで最強なのはもちろん、メイウェザーはボクシングビジネスの究極進化型といえる存在なのです。彼は自分がヒールであることを自覚し、メディアを巻き込みアンチを刺激する言動で、負ける姿を見たいと思わせる天才。今回の試合を見るため1万円を超すPPV(ペイパービュー[有料放送])を450万件近くが契約していますが、大半は彼が負ける姿を見たい人たちでしょう。彼は無敗ですが、一度でも負けていれば、商品価値は急落していたはず」

前出の杉浦氏もこう言う。

「ドキュメント番組で、父親との確執、金遣いの荒さなどを露(あらわ)にしたことも話題を呼び、元恋人への暴行で収監されたことすらプロモーションにひと役買っています。まさにダークヒーローなのです」

また、今回も「俺はモハメド・アリよりも偉大だ!」と発言し、アンチを激増させ、さらにアリ自身が「忘れるな。俺こそがグレイテストだ!」とコメントを返したことでも話題を呼んだ。

「試合後、『9月がラストファイト』『1年以内にパッキャオと再戦する』と矛盾する発言をしていますが、是非はともかく、“試合を見ないわけにはいかない理由”をつくる能力がずぬけているんです」(前出・原氏)

“地球が揺れる日”と銘打たれた今回の一戦だったが、メイウェザーの持つ、人々の心を揺さぶる能力が地球一なのは間違いなさそうだ。

(取材・文/水野光博)