今年3月、20㎞競歩の世界新記録を更新し、注目を集めている鈴木雄介

フルマラソンに換算すれば、2時間41分台というペースだ。そう聞けば、いくらなじみがない競技といえども、スゴさが理解できるだろうか。

今年3月、20㎞競歩の世界新記録を更新し、注目を集めている鈴木雄介(27歳・富士通)。そんな“世界一速く歩く男”に100mやマラソンとは異なる“競歩ならではの魅力”を聞いた!

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●世界新記録を振り返って…更新が難しいとは考えていなかった

今年3月15日、鈴木雄介は世界選手権(8月、中国・北京)の代表選考会を兼ねた全日本競歩能美(のうみ)大会(石川)20㎞競歩で、1時間16分36秒の世界新記録を樹立した。陸上競技の五輪種目では2001年の女子マラソン・高橋尚子以来で、男子では1965年のマラソン・重松森雄以来、50年ぶりとなる快挙だ。

日本選手には縁遠いイメージのあった陸上の世界記録だが、鈴木自身に大きな驚きはなかったという。

「(16年)リオデジャネイロ五輪で金メダルを獲って、その後、世界記録を狙う練習をしようと考えていたんですけど、その前に出ちゃったという感じですね。ただ、将来的には確実に出せるだろうなと思っていたし、自分としてはそんなに難しいものだとは思っていませんでした」

今年2月の日本選手権では2位だったものの、最初から引っ張るレースで1時間18分13秒の自己新。続く今大会での目標は1時間17分36秒のアジア記録更新だった。

「最初から記録を狙っていけば、(アジア記録くらいは)更新できるだろう」

そう考えていた鈴木は序盤から積極的に飛ばした。

「ペースを上げてもそんなにキツくなく、6㎞くらいで今日はいけるなと思いました。そして、10㎞を(38分05秒で)通過した時には(世界記録に対して)貯金が1分ほどできていたので、更新できると確信しました」

そして、フルマラソン換算なら2時間41分台というペースの世界記録が生まれた。

世界記録更新は、まぐれではない

一昨年には世界ランキング2位になった鈴木だが、世界のトップクラスの仲間入りを確信し、世界記録を高い壁だと感じないようになったのは昨年からだという。というのも、5月のW杯競歩(中国)で最終周回までメダル争いを演じて4位に入り、さらに9月のアジア大会(韓国・仁川)は2位だったが、鈴木が「実力的には世界のトップ」と意識する中国の選手と対等に競り合えたからだ。今回の世界記録更新は、決してまぐれではないのだ。

「五輪の金メダル獲得と世界記録を出す順番が逆になっちゃったから、自分で(今後に)プレッシャーをかけるような形になってしまいましたけど、とにかく想像以上の反響でしたね。世界記録にそれほどすごい価値があるとは。地元・石川の大会で、しかも北陸新幹線が開通したばかり。また、他に大きなスポーツニュースもなく、タイミングもよかったのでしょう。しばらくの間は、会社からの『また、こういう取材依頼がありました』という連絡をはじめ、ケータイが鳴りっぱなしという感じでしたね」

競歩の存在をアピールしようと可能な限り取材対応を行ない、プロ野球の始球式(5月16日、東京ドームでの巨人vsヤクルト)にも登場。「疲れました」と振り返るが、それも「金メダルを獲った時のシミュレーションになりました(笑)」という。

●このインタビューの続きは、発売中の『週刊プレイボーイ』24号にてお読みいただけます!

(取材・文/折山淑美 撮影/ヤナガワゴーッ!)

■週刊プレイボーイ24号「陸上・日本男子では半世紀ぶりの世界新記録! 世界一速く歩く男 鈴木雄介」より

【動画でもチェック! 失格経験ゼロ、これが世界新を生んだ「美しいフォーム」だ!】 

https://youtu.be/rsUtSB9zlMA・上下動がほとんどない ・ムダに地面を蹴り上げない ・背筋が伸びている ・着地音がほとんどしない

競歩は“反則がつきもの”の競技。「常にどちらかの足が地面に接している」「前脚は地面と垂直になるまでヒザをのばす」などが義務づけられ、警告3回で失格となる。記録や勝負がかかれば選手は警告覚悟で歩く。だからこそ鈴木の「失格経験ゼロ」は驚異的

鈴木雄介(すずき・ゆうすけ)1988年生まれ、石川県出身。中学から陸上を始め、競歩3000m、5000mで中学記録をマーク。小松高では2005年世界ユース1万mで銅メダル。 12年ロンドン五輪20㎞で36位。今年3月、全日本競歩能美大会で1時間16 分36秒の世界新記録をたたき出した。170㎝、57㎏