複数幹部の汚職事件などで揺れるFIFA(国際サッカー連盟)のブラッター会長(79歳)が辞意を表明した。
実は、僕はブラッターに一度だけ会ったことがある。20年ほど前、2002年W杯の招致活動の一環で金田(喜稔)さん、松木(安太郎)さんらとスイスにあるFIFA本部を訪れた。そのとき出迎えてくれたのが、当時は事務総長だったスイス人のブラッターだ。
親切で人当たりが柔らかく、まだ創設から日が浅いJリーグの話題を自分から振ってきて「Jリーグ(の試合)は中盤のタメがないから、見ていて忙しいね」などと冗談を言っていた。その彼が今、世界中からブーイングを受け、表舞台から去る。時代の流れを感じるね。
とはいえ、今回の騒動自体への驚きはない。腐敗した組織としてFIFAが大きく取り沙汰されているけど、政治の世界でもどんな世界でも、権力が集まりすぎるところではきれいごとだけですべてを片づけるのは無理。何かしらの不正が起こり得る。
皆、勝つためにあらゆる手段を使っている。それは古今東西を通じて変わらないこと。だから、起こるべくして起きた騒動で、なるようになったという印象だ。
これまた昔話になるけど、僕の来日20周年パーティにトヨタ杯(クラブW杯の前身となる大会)で来日していたCBF(ブラジルサッカー連盟)のテイシェイラ会長(当時)が来てくれたことがあった。翌日、彼に「日本の家電を買いたい。秋葉原を案内してくれ」と言われたんだ。
お店に連れていくと、彼は驚くほどたくさんの家電を買った。そして、ブラジルの自宅や別荘への配送手続きをしている時に「領収書をCBF宛てでもらってくれ」と言っていた。スケールの小さい目撃エピソードで恐縮だけど、彼のような人物にとってはそうした行為が日常茶飯事だということを実感したものだよ。ちなみに、彼はCBF会長の任期中、何度も収賄などの疑惑をかけられていた。
会長の多選を禁止すべき
ブラッターやFIFAについても、今まで批判や疑惑は絶えなかった。各国メディアによる報道のほか、例えば元ブラジル代表FWのロマーリオ(現ブラジル上院議員)は、事あるごとに「世界で一番悪い男」とブラッターを名指しして批判していた。マラドーナもそうだね。誰もが怪しいと思っていたけど裏が取れなかった。
ただ、今回は度が過ぎて、さすがのブラッターも事態を御しきれなくなった。こう言うと語弊があるかもしれないけど、“運が悪かった”という部分もあるだろう。
では、今後のFIFAはどうなるのか。今回の教訓を生かしてクリーンな組織に生まれ変わるのか。
残念ながら、これだけサッカービジネスが巨大になった今、不正の根絶は難しいと思う。幹部の逮捕、ブラッター辞任による見せしめ効果も一定期間しか続かないだろう。
とはいえ、何も手を打たなければ何も変わらない。僕なら手始めに会長の多選を禁止したい。1期4年を務めたら、きっぱりと引退してもらう。4期17年も会長に君臨したブラッターのような独裁者を生まないためにね。それだけでも、だいぶ変わると思うんだけど、どうかな。
いずれにしても、サッカーを愛するひとりの人間として騒動の行方を見守りたいね。
(構成/渡辺達也)