6月28日、オーストラリアを1-0で下し、見事ベスト4まで駒を進めたなでしこジャパン。この活躍の影には、前代未聞といえる“GK3人併用”のマジックがあった。
グループリーグはスイス、カメルーン、エクアドルを相手にいずれも1点差ながら3連勝。佐々木則夫監督はその3戦で3人のGKを順番にスタメン起用するという采配を見せた。
初戦のスイス戦には高さを武器にする身長187cmの山根恵里奈を抜擢(ばってき)。続くカメルーン戦では前回ドイツ大会で全試合フル出場した、鋭い反応が持ち味の海堀あゆみを起用。そしてエクアドル戦では2012年ロンドン五輪時の正守護神で、コーチングに優れる福元美穂をピッチに送り出した。
タイプは違えど「3人に力の差がなく、対戦相手に応じて選ぶほうがいい」とは佐々木監督の弁。
GKは通常、大会中にレギュラーが代わることがない特殊なポジションだけに当初は3人の間に必要以上の緊張感、ライバル意識をもたらしかねないという危惧もあった。
だが、3人の中で最も若い24歳の山根はこう話す。
「初戦の前にはフク(福元)さんから『ピッチに出たら、強気で自分の武器を出すように』と声をかけられて勇気をもらいました。普段はライバルですが、試合が始まれば3人で戦う感じ。試合中だってアドバイスをもらうことがあります」
当然、難しさがないわけではない。年長の31歳、福元はこう語る。
「もちろん、いろんな気持ちはあります。ただ、覚悟を決めて(W杯に)来ましたし、第1GKでも第2GKでも、第3GKでも自分にできることをするだけ。そのための準備をしています」
一発勝負の決勝トーナメントでは1回戦のオランダ戦、続くオーストラリア戦に海堀が出場。実は、決勝トーナメントの直前に「山根が軽く肩を脱臼していた」ことからの起用だった。
海堀は急遽の起用だったが、それでもオランダ戦は1失点、そしてオーストラリア戦は無失点に抑えた。これこそが普段から3人がライバルとして互いを高め合う、“GK3人併用”の良い影響だろう。
こうした佐々木監督の特殊な采配は献身的な姿勢を持つ山根、海堀、福元の3人だからこそ実現できたのだ。スピルバーグ的采配とまで形容されるまでになった佐々木監督の指揮だが、次戦では誰が起用されるのか…勝負の鍵を握るといっても過言ではないキーパーの選択にも注目だ。
(取材・文/栗原正夫)
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