7月6日、カナダでの女子サッカーW杯の決勝戦、なでしこジャパンは2-5でアメリカに敗退した。
連覇は逃したものの前回大会の優勝、そして今回の準優勝とその実力は世界に十分すぎるほど示すことができたといえるだろう。まさに、日本の女子サッカーの未来に向けて夢を見せてくれた大会だった。
決勝戦で途中出場をしたMF澤穂希も、未来に夢を託した選手のひとりだ。
そもそもW杯開幕前、世間の注目を集めたのは「この大会が最後のつもり」と語っていた澤がメンバーに入れるかどうかだった。
5度目の出場となった前回大会は得点王とMVPをW受賞という大車輪の活躍。そして36歳になった今も、全盛期のような動きは影を潜めつつあるが、要所で気の利いたプレーを見せ、持ち前の勝負勘を発揮する。1年ほど代表から遠ざかっていたとはいえ、佐々木監督にすれば澤のメンバー入りは当初からのプランだったのだろう。
とはいえ、今大会での出場は限定的。途中交代や途中出場を繰り返した。澤にすれば、もっとプレーしたいという不満もあったはず。
しかし、先発出場したグループリーグ初戦のスイス戦の後半12分、10歳年下のDF川村優理と交代する際には、満面の笑みを浮かべて言葉を交わし、ピッチを後にした。本人に聞くと、「だって、優理がW杯初出場で緊張している感じだったから」とのこと。
そんな澤に対し、川村はこう話した。
「澤さんは自分たち若い選手にもよく声をかけてくれます。頼りになるというか、そうされると自分もやらなければいけないという気持ちになります」
澤に限らず、なでしこの選手たちからエゴや身勝手な声が出ることはほとんどない。
前回大会以上の一体感
前回大会で脚光を浴び、以降は絶対的なレギュラーとしてMFに定着していた川澄奈穂美も今大会ではスタメンを外れることがあった。だが、川澄はこう話す。
「私もこの4年間経験を積んできたし、周りを見る余裕もできた。思い通りにはいかないこともあるが、今のチームは誰が出ても同じようなレベルにある」
一方、これまで左SBのレギュラーだったDF鮫島彩も、大会直前にドリブル突破の能力を買われ、ジョーカー的な起用も見込まれるようになったが、「与えられた立場で自分のベストを尽くすだけ」と、突然のポジション変更にもフォア・ザ・チームに徹する姿勢を見せていた。
不平や不満のひとつも外野に漏れてこない。チームの一体感は優勝した前回大会以上。だからこそ、決勝戦も最後まで諦めず、ボールを追い続けた。この4年間、彼女たちが背負ってきた世界王者の看板はダテではなかった。
(取材・文/栗原正夫)