惜しくもW杯優勝を逃した、なでしこジャパンーー

大会後、その健闘を讃える声とともに多く聞かれたのが、「普段の彼女たちはヒドい境遇に置かれている。かわいそうだ」という同情の声だ。

果たして、実際のところはどうなのか? 国内外の女子サッカー事情に迫った!

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連覇こそならなかったものの女子W杯準優勝の好成績を残した、なでしこジャパン。各メディアはこぞって彼女たちの偉業を讃えたが、その一方で、大会を通じ大活躍しながら、現在もフットサル場での仕事で生計を立てている有吉佐織(日テレ)などを例に、「選手の待遇は4年前からまったく改善されていない」「トップカテゴリーのなでしこリーグでもアマチュア選手主体。早く欧米の強豪国のような完全プロ化を」…と“提言”する記事もそこかしこで見られた。

だが果たして、本当にそうなのか? サッカー誌デスクのA氏が首をかしげる。

「新聞などの記者は、国際大会の時だけ“なでしこ番”になることが多いから、女子サッカーの内情までを長く追いかけている人はまずいない。だから、ろくに取材もせず、相変わらずの『女子サッカー=女工哀史』という先入観で記事を書いちゃったのかなあ…」

つまり、そうでもないと? 真相はどうなのだろう。

「前回、女子W杯決勝のなでしこのスタメンでアマチュア選手だったのは、学生だった熊谷紗希(当時浦和、現リヨン)を除けば、岩清水梓(あずさ・日テレ)と阪口夢穂(みずほ・当時新潟、現日テレ)のみ。他の先発陣はすべてプロ、もしくは実質的なプロでした。

そして今回の女子W杯決勝でのなでしこのスタメンでは、話題にもなった有吉だけが純然たるアマチュア。つまり、ここ数年のなでしこはもともとプロ選手主体だったし、岩清水や阪口らも現在ではクラブとプロ契約を結んでいるように待遇改善はいっそう進んでいます」(A氏)

アマチュア選手の雇用状態も安定

それは代表選手レベルだけでなく、リーグ全体でも同様だ。某なでしこリーグクラブのスタッフ、B氏が語る。

「今年からなでしこリーグは、1部で1クラブ当たり最低3名、2部で1クラブ当たり最低1名を『サッカーに専念できる選手』とするようガイドラインを設けました。つまり、プロ契約を結ぶなり、クラブで雇用して負担の軽い業務につけるなりしてノンアマチュア的な選手を増やそうとしているのです。

まだ制度的に義務化されていないし、経営状態の差もあって全クラブが完全にクリアできてはいませんが、それでもリーグとしてガイドラインの8割程度まで達成できています」

またアマチュア選手にしても、以前よりサッカーに打ち込める流れができている。

「昔は、選手が大会や合宿で日中の職場を数日間欠勤したり、毎日の練習のため残業ができないことを白い目で見られ、勤務先にいづらくなったり、いつまでも薄給のアルバイト扱いのままということが多々あった。しかし2008年北京五輪で4強に入ったあたりを境に、女子サッカーに対する職場の理解が格段に進みました。

クラブのスポンサーが積極的に選手を採用してくれたり、さらには家電量販店のノジマが立ち上げたノジマステラのような実業団チームも誕生しています。なでしこリーグはサッカーだけで生活できない選手が多数派ではありますが、少なくとも以前のように不安定な雇用状態に選手が頭を悩ませることは少なくなりました」(B氏)

ここで、そもそもの話をしたい。選手が働きながらプレーするのは、それほど“劣悪”な環境なのだろうか? リーグの完全プロ化こそが、疑いのない“改善”なのだろうか? 男子のみならず、長く日本の女子サッカーも追いかけてきたベテランジャーナリストのC氏は、こう異議を唱える。

「なでしこジャパンの活躍で女子サッカーに注目が集まっているといっても、普段のなでしこリーグの試合にまで足を運ぶファンの数はまだまだ限られていて、入場料収入やグッズ販売だけで経営を回していけるクラブは皆無です。アマチュア選手主体の今でさえ、スポンサーマネーや自治体からの補助金で赤字を補填(ほてん)し、なんとかトントンにもっていっているクラブばかり。

唯一、INAC神戸が例外的にプロ化できているのは、パチンコ店などの経営を本業とするクラブオーナーが運営の全権を握っていて、資金確保の心配がないからにすぎません。そんな状況で理想論ばかりが先走りし、安易にリーグ全体がプロ化されたらどうなるのか? 無理な経営を強いられて破綻するクラブが続出し、リーグそのものが立ち行かなくなります」

安易にプロ化すれば破綻するクラブも

事実、日本の女子サッカーで、かつて似たようなことが起こっている。

「1990年代前半、日本経済はバブル景気の名残で活気があり、さらにJリーグ発足直後の社会現象化も追い風となって、なでしこリーグの前身のL・リーグには有名企業をバックにつけた、ほぼプロクラブ的なチームがいくつもありました。

しかしバブル経済の完全崩壊や当時の日本女子代表がアトランタ五輪のグループリーグで全敗したり、シドニー五輪の出場権を逃して女子サッカーへの注目度が急降下したことなどでスポンサー企業が次々と撤退。その影響で解散したり、小規模な市民クラブとしての再出発を余儀なくされるチームが続出し、多くの選手が路頭に迷いました。そして2000年頃にはリーグ自体も活動休止寸前にまで追い込まれたのです」(C氏)

現在のなでしこブームや日本の景気が、この先ずっと続く保証はどこにもない。また同じ轍(てつ)を踏むリスクを抱えるより、アマチュア選手主体でも着実、堅実にクラブやリーグが存続するほうが結局は選手のためだし、現代表主将である宮間あやの言う「女子サッカーを文化にする」ことにもつながるという見方もできるのだ。

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