「俺、寂しがり屋なんですよ(笑)」…異国の地で武藤が語った“本音の言葉”とは

今夏、鳴り物入りでドイツ・ブンデスリーガのマインツに移籍した武藤嘉紀(よしのり)。29日には、待望の2ゴールでアピール、沸かせてくれた。

それに先立ち、FC東京時代から親交の深かった本誌デザイナーが彼を追ってドイツを訪ね、シーズン直前の独占ロングインタビューが実現! そこには、普通なら決して語られることのない“本音の言葉”があった。

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およそ1ヵ月ぶりに会う武藤嘉紀の顔つきは、日本にいた頃と比べてずいぶんシャープになったように見えた。案内されるまま、左ハンドルの車の助手席に乗り込む。彼はゆっくりとアクセルを踏んで、緩やかにマインツの街並みの中を走りだした。

「チームに借りた車です。日本にいる時と違って誰に見られるわけでもないので、買わなくてもいいかなって」

渡独して最初の数日間は、その車をひとりで運転することすらできなかった。

「右車線だし、一方通行は多いし、そもそもナビの入れ方もわからないんで、怖くて」

留学経験もなく、海外での生活は意外にも初めてだ。

「海外遠征はいっぱい行ってるけど、それはチームでの行動だから孤独を感じたこともなかった。こっちに来て10日間くらいはひとりだったから寂しさはありましたね」

今はまだ、ホテルを住居代わりにしている。近くに日本料理屋はない。

「ホテルのレストランへ昼飯に行ったら、ドイツ語のメニューわからないし、コース料理になってて、ひとりで80ユーロ(約1万1千円)も使っちゃって」

そんな状況だから、アジア料理の店に行っただけで涙が出そうになったという。

「俺、寂しがり屋なんですよ(笑)」

「パスが来ないんですよ」

日本で1シーズン半を過ごしたFC東京では、“寂しがり屋”の武藤のそばには常に森重真人(もりしげ・まさと) や太田宏介(こうすけ)ら、かわいがってくれる兄貴分たちがいた。ユース時代から彼を知るスタッフも多くいた。しかしマインツには、そういう存在はいない。

「でも、(パク・)チュホと(ク・)ジャチョル(ともに韓国代表)には相当助けられてますね。あのふたりは、もう最初から助けようという気持ちで接してくれているので。本当に『同じアジア人として一緒に頑張ろう』と思ってくれているのを感じるので、ありがたいし心強いです。けど…」

武藤は穏やかにこう続けた。

「今、自分がそういう環境に置かれているからこそ、FC東京の頃にもっともっと外国人選手に絡んでおけばよかったなって思います。イタリアから来てたカニーニとか、6月までいたラサッドとか。挨拶(あいさつ)代わりにハイタッチとか最初の頃はよくやってましたけど、そういうのは(彼らも)きっと、嬉しかったんじゃないかなって」

幸いにも、マインツのチームメイトたちは武藤のことをすぐに受け入れてくれた。

「みんな温かく迎えてくれたし、うまく溶け込めたと思います。でもね、パスが来ないんですよ」

パスが来ない。武藤はもう一度、そう繰り返した。

「最初の3日間くらい、本当にボール来なかったですもん。紅白戦で点取ってからですかね、少しずつみんな出してくれるようになって。『こいつできるな』と思わせないと、来ない」

同僚たちと本当の意味でわかり合うためには何より結果が必要だ。しかし一方で、結果を出すためにまず意思疎通が必要だという現実もある。

「英語なら多少なりともわかるから、英語を使いたい気持ちはあるけど、やっぱり監督はそれを好まない。ドイツ語でコミュニケーションを取ること、わかってほしいということを強く望むから。でもドイツ語での戦術の確認というのはすごく難しい。ドイツ語、まず文法だけはやっています。結果が出せないと、『言葉しゃべれないからだ』って言われるらしいんです。それは悔しいから」

そしてチームが違い、監督が違えば、求められるプレーも当然のように変わってくる。

「今はセンターフォワードとしての役割を期待されているんだと思う。渡独前はサイドで勝負しようと思っていたから、ドイツの屈強なセンターバック2枚と戦うワントップで使われることになるとは正直思っていなかった。けど、出番をもらえている以上は監督が求めたところで結果を出さないといけない」

●この続きは「週刊プレイボーイ37号」(8月31日発売)にてお読みいただけます! グラビア特集「武藤嘉紀 0からの第二章」も掲載!

(撮影・取材/佐々木真人[pmf co.,ltd.] 協力/ポリバレント株式会社)

●武藤嘉紀(むとう・よしのり)1992年7月15日生まれ、東京都出身。身長178cm、体重72kg。利き足=右 ポジション=FW、MF 愛称は“よっち”。慶應義塾大学在学中にFC東京とプロ契約。1年目でいきなり開幕レギュラーを勝ち取り、リーグ戦33試合で13得点、続く2年目は17試合で10得点。Jリーグ史上、城彰二以来ふたり目となる、ルーキーイヤーから2年連続2桁得点を達成するなど、チームを牽引する。今夏、ドイツ・ブンデスリーガの1.FSV マインツ 05に完全移籍。日本代表13試合出場1得点