2010年から描いたヤクルトの試合イラストは1千枚以上になるという絵師、ながさわたかひろ氏 2010年から描いたヤクルトの試合イラストは1千枚以上になるという絵師、ながさわたかひろ氏

シーズン前の大方の予想を裏切って、首位争いを続けるヤクルト。2年連続最下位の悪夢はどこへやら、燕ファンは連日連夜の大盛り上がり!

好調の理由はどこにあるのか? 6年前からヤクルトの全試合をチェックし、活躍した選手たちを毎試合後に欠かさず絵に残し続けてきた男になら、その理由がわかるはず。

絵を描くことで、球団から「戦力」として認められることを夢見る絵師、ながさわたかひろ氏を直撃した!

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―シーズンを通して絵を描く時間はどう確保を?

ながさわ 大学非常勤講師の授業数などを減らしています。

―毎年、ヤクルトからドラフトで指名されるのを待っているとお聞きしましたが…。それはどういった立場で?

ながさわ もちろん、戦力としてですよ。絵を描くことが球団の戦力になると思ってやってますから。そこはちゃんと伝えておく必要があると思って、ヤクルトを描き始めた2010年のシーズン前には、球団の事務所へ挨拶(あいさつ)に行っています。

―そこではどんな挨拶を?

ながさわ 「今年からお世話になります」と。そしたら、「そうですか」って(笑)。

― 呆気(あっけ)に取られてるじゃないですか(笑)。

ながさわ そうかもしれないけど、「わかりました」って返事をもらえたんで。じゃあってんで毎試合描き始めたんです。シーズンが終わった後もその絵を見てもらっています。

理想は、フィールドに立ってなくても「彼はウチの選手です」と球団が認めてくれること。僕の活動でそれができたら、スタンドやTVで応援してる人だって「俺も」って気持ちになるんじゃないかって。

「絵に描いたのは山田選手が一番多いかな」

館山選手はこの日、巨人を相手に5回途中4失点で降板。しかし、ベンチに下がる後ろ姿には、復帰を待ち望んだファンから惜しみない拍手が送られた 館山選手はこの日、巨人を相手に5回途中4失点で降板。しかし、ベンチに下がる後ろ姿には、復帰を待ち望んだファンから惜しみない拍手が送られた 【館山選手が復帰登板を果たした6月28日の作品】

―なるほど! ではズバリ、今年のヤクルトが好調な理由は!?

ながさわ そこはハッキリとはわかりません。

―ちょっと!

ながさわ あ、でも、ヤクルトを愛する絵師の意見でしたら! 去年との大きな違いは、監督が真中さんになったことと三木コーチが守備・走塁の指導をするようになったこと。今年の沖縄キャンプでは、三木コーチが山田選手につきっきりでした。

―ちゃんと見てるじゃないですか。山田選手はトリプルスリー(3割・30本塁打・30盗塁)達成がほぼ確実ですが、その原動力になったと?

ながさわ 走塁もですけど、守備のほうを徹底的にやっていた印象です。去年は見ていて不安な守備が多かったけど、その不安が解消されたから打撃に集中できたってのもあるでしょうね。絵に描いたのは山田選手が一番多いかなぁ。

―その山田選手と首位打者を争っている川端(かわばた)選手は?

ながさわ 川端選手も今年は多いです。打撃センスを高く評価されながらケガに苦しんでたけど、去年結婚して体調管理がしやすくなったのかな? 朝飯をちゃんと食べるようになったとか(笑)。

―なんか一気に適当に…。

ながさわ いやいや、実際に今シーズンは顔色が良くなった気がします。色をつけるときも明るい色にしてますし。それに今年は内角の球に対応できている。絵を描く時に静止画を見るんですが、今年は球を引きつけてます。

そこは、かつて首位打者を獲った内川選手(ソフトバンク)や青木選手(サンフランシスコ・ジャイアンツ)を育てた杉村コーチの指導のたまものかな。

「絵をカードにして館山選手に渡しました」

長年チームを支える選手たちのなかに、プロ3年目でブレイクを果たした山中選手の姿も。ながさわ画伯も注目する控え選手の活躍がチームの大きな力となった 長年チームを支える選手たちのなかに、プロ3年目でブレイクを果たした山中選手の姿も。ながさわ画伯も注目する控え選手の活躍がチームの大きな力となった 【ヤクルト確変の立役者たちを描き下ろし!】

―主力選手以外で描くことが多かったのは?

ながさわ 8月にケガで離脱しちゃったけど、アンダースローの山中選手ですね。交流戦途中から出てきて何連勝もするから絵もだんだん大きくなって。最後のほうは全体の3分の1くらいに。

―でかい!

ながさわ 新聞とかだと、名のある選手が大きく載ることが多いじゃないですか。だから僕は控え選手とか、あまり出番がなかった選手の活躍をこぼしたくないなって思うんです。

―他の投手陣は?

ながさわ なんといっても、6月にケガから復帰してくれた館山選手! 814日ぶりにマウンドに上がった姿を球場で見たときは震えましたね。その日は勝ち負けつかなかったんですが、絵をカードにして館山選手に渡してきました。後半戦を引っ張ったのは館山選手ですよ。彼が投げる時は、他の選手も負けられない感じが普段以上に出ている気がする。

―選手たちの「館山愛」がチームを優勝へ向かわせている?

ながさわ 間違いありません! なんか、チームが優勝したら僕もやりきった気持ちになれそうな気がします。

―絵もひと区切りですか?

ながさわ 他の仕事を減らしているため、絵を描き始めてからの年収は100万円程度に。生きるのに最低限必要な分だけ稼いでいる状態です。こんな生活じゃダメだなぁとは内心思っていて(笑)。そんな意味でも今年は是非、ヤクルトに優勝してほしいです!

●ながさわたかひろ 1972年生まれ、山形県出身。武蔵野美術大学大学院修了後、画家として活動。2010年から描いたヤクルトの試合イラストは1000枚超!

(取材・文/和田哲也 イラスト/ながさわたかひろ)