ノンフィクション作家・田崎健太氏(左)とプロインタビュアー吉田豪氏がロックアップ! 両者が語るプロレスの魔力とは?

『真説・長州力 1951-2015』(以下、真説)が話題を呼んでいる。在日朝鮮人2世として生まれた幼少期の苦悩から“黒歴史”WJプロレス崩壊の真相まで、長州氏本人が赤裸々に語るとともに約50名もの関係者を丹念に取材したヘビー級ノンフィクションである。

著者の田崎健太氏は元々プロレスに詳しくはなく、虚実入り交じるプロレスという不思議な世界に翻弄(ほんろう)されながら、約500ページの大著に仕上げた。

そんな田崎氏が、プロレスラーへの取材経験も豊富な“プロインタビュアー”吉田豪氏と、プロレスの魔力について語り合った!

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―吉田さんは『真説』を読まれていかがでしたか?

吉田 これまでのプロレス本は、マスコミを含め業界内の人が自分の知識を基に補足取材して書くか、レスラー本人の自伝という形がほとんどで、『真説』のように多くの関係者を取材し、デリケートな部分まで踏み込み立体的に描くものは少なかった。内部の人は知りすぎているせいか、それができないんですよね。

田崎 プロレスマスコミは、団体やレスラーと一緒になって「物語」を作っていく「共犯者」だと僕は思うんです。僕は業界の常識の埒外(らちがい)にいるのでノーガードで打ち合えるというか。新間寿(しんま・ひさし【*1】)さんを取材した時に自分の中で書き方が決まりましたね。

取材前に新間さんの書籍を5冊ほど読んだんですが、本によって書いている内容が違うことが山ほどあった。これはもう、「この人はこう言っているが…」というように、取材で相手が発した言葉をそのまま書くしかないなと。【*1】「IWGP」開催など“過激な仕掛け人”の異名でアントニオ猪木を支えた元・新日本プロレス営業本部長

吉田 僕は、新間さんの発言が変わっていく過程をリアルタイムで目撃しています(笑)。ただ、本当か嘘かという視点を捨ててしまえば話は抜群に面白いんですよ。

『真説』では大仁田厚さんにも取材されていますが、あの人も自分の物語というか興行の宣伝めいたことしか語らないですよね。取材には協力的なんだけど厄介な相手で、それがそのまま表現されてたのもよかったです。

プロレスの魔力で人生を誤った?男たち

田崎氏は、大相撲からプロレス入りした安田忠夫氏の引退興行をプロデュースしたことも

田崎 新日本プロレスやWJプロレスで裏方だった永島勝司【*2】さんも、本によって書いてあることが違う。プロレス以外の業界には絶対にいないタイプでした。【*2】東京スポーツ記者を経て、新日本プロレスの渉外・企画宣伝部長に。長州とWJプロレスを旗揚げした

吉田 田崎さんの文章から、永島さんの“どうしようもないけど憎めない人”という感じが伝わってくる。それが業界外の人にもわかってもらえたのが、僕は嬉しかったです(笑)。

田崎 永島さんの取材は「昼の12時に新橋の居酒屋で」と指定され、1時間もしないうちに酔っぱらっていました(笑)。永島さんはWJの失敗で数千万円の借金を抱えたし、「プロレスの魔力に魅せられて人生を誤った?」と感じる関係者も多かったですね。

吉田 僕の元上司だった『紙のプロレス』編集長も、最初はマッチメイキングに関わるうちにズブズブと業界内部の人間になってしまって、今では借金数億円。逆に言えば、それだけプロレスという世界には魔力があるし、関係者も含めてデタラメだけどチャーミングな人が多い。

僕は「プロレスラーがスターになれる要素」は「笑顔のかわいさ」だと考えているんです。

田崎 まさに安田忠夫さん【*3】がそうでした。『真説』で書いたように、僕は彼の引退興行をプロデュースしたのですが、彼は平気で嘘をついたり協力してくれた人を裏切ったりする。

彼がブラジルに渡って相撲を教える資金をつくるための引退興行だったのに、結局ブラジルに行かなかった(笑)。散々な目に遭ったけど、笑顔の時は本当に天使のように見える。【*3】大相撲から新日本に入団するも、ギャンブル依存や借金などの素行不良で退団。2011年に現役引退

吉田 金ぐらい貸してあげたくなりますよね(笑)。田崎さんもそうですし、業界外の人がプロレスと接した時の化学反応が僕はすごく面白い。「アントニオ猪木vs黒柳徹子」という超名勝負をご存じですか?

田崎 『徹子の部屋』に出ているんですか?

黒柳徹子の発言に猪木が絶句!

 

「業界外の人がプロレスと接したときの化学反応がすごく面白い」と語る吉田氏

吉田 徹子さんはプロレスのことをまったく知らないんです。「リングの外に出ちゃっても負けにならない? あら、お相撲と違うのね」っていうぐらい(笑)。

この時は、ちょうど新日本の「第2回IWGP」の直後で。第1回では、決勝戦でハルク・ホーガンに失神KO負け。この第2回の決勝も猪木とホーガンでしたが、長州力が不可解な乱入をして、辛うじて猪木がリングアウトで勝利という結果だった。

それなのに「今日は世界最強の男、アントニオ猪木さんにお越しいただきました」と紹介されて、「いや、まあ、世界最強のレスラーたちと互角に戦えるぐらいにはなったといいますか…」と。

田崎 猪木さんらしくない、歯切れが悪すぎ(笑)。

吉田 さらに徹子さんは「でもプロレスって、本当は痛くないんでしょ!?」とかヒドイ質問をぶつける。どんどん猪木さんが困り果てた表情になっていき、最後はホーガン戦の試合映像を流しながらトークする。で、猪木さんがコブラツイストをかけているシーンで映像は終わる。

田崎 試合の最後まで放映しなかったんですね?

吉田 不透明な決着に怒ったファンが暴動を起こす騒ぎになったから、TV的に自粛したと思うんですよ。で、徹子さんは「最後は得意技のコブラツイストでお勝ちになりまして」と。猪木さん、3秒間ぐらい絶句(笑)。

田崎 徹子さんKO勝ち(笑)。

吉田 「ジャイアント馬場vs和田アキ子」というのもあって、馬場さんは体の大きさを強調されるのが大嫌いなんですが、TVに出ると必ず「デカイですね、手の大きさを比べてもいいですか?」となる。和田アキ子さんは何度も同じことをしていて、だからプロレスラーは業界外の人を警戒するようになるんですよ(笑)。

●この続きは、明日配信予定!

■吉田豪(よしだ・ごう)1970年生まれ、東京都出身。プロ書評家&インタビュアー、ライター。近著に『Jさん&豪さんの世相を斬る!@ロフトプラスワン[青春愛欲編]』(杉作J太郎と共著、ロフトブックス)、『聞き出す力』(日本文芸社)、『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』(白夜書房)などがある

■田崎健太(たざき・けんた)1968年生まれ、京都市出身。『週刊ポスト』編集部などを経てノンフィクション作家。主な著書に『球童 伊良部秀輝伝』(講談社)、『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社)、『維新漂流 中田宏は何を見たのか』(集英社インターナショナル)、『ザ・キングファーザー』(カンゼン)、『辺境遊記』(絵・下田昌克、英治出版)など

『真説・長州力1951―2015』田崎健太/集英社インターナショナル/1900円+税

(取材・文/田中茂朗 撮影/関根虎洸)