『真説・長州力』著者・田崎健太氏との対談に吉田豪氏は長州の師匠・マサ斎藤のTシャツを着て臨んだ

約500ページにわたる話題のノンフィクション『真説・長州力 1951-2015』の著者・田崎健太氏と、歴戦のプロインタビュアー吉田豪氏がガチトーク!

取材対象の発言の真偽を見極めるのに苦労したと打ち明ける田崎氏に、業界外の人がプロレスと接した時の化学反応が面白いと評する吉田氏。対談後編では、藤波辰爾のあの事件の真相が明らかに?(前編→ 「猪木vs黒柳徹子の一戦を知ってますか?」)

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―長州さんといえば、滑舌(かつぜつ)の悪さが有名ですが、田崎さんは聞き取れました?

田崎 すぐに慣れて聞き取れましたよ。あと、「アレをアレして」といった曖昧(あいまい)な表現が多いんですが、僕は最初に言ったんですよ。「アレってなんですか?」としつこく聞くかもしれませんよ、と。

吉田 長州さんの本を書いた栃内良さんというノンフィクションライターは、「長州力はインタビュー嫌いといわれているけど、そうではない。自分の発言を勝手に加工されることが嫌いなんだ」と言っていました。だからプロレスマスコミは、ある時期から長州さんの言った「アレ」をそのまま載せるようになっていった。その結果、あの「アレ」はなんなんだ?と読者は頭を悩ますわけですけど(笑)。

田崎 滑舌でいうと、天龍源一郎さんも聞き取りづらいですよね?

吉田 天龍さんは自分の滑舌の悪さを利用して、酒の席でわざとワケのわからないことを言って、相手がテキトーに相槌(あいづち)を打つと怒りだしてイッキさせるというネタがあるんです(笑)。天龍さんとトークイベントをやった時は結構な覚悟がいりました。客前でわかんなかったらどうしようみたいな(笑)。

田崎 あと、坂口征二さん【*1】も聞き取りづらかった。【*1】初期新日本プロレスでは猪木に次ぐ看板レスラー。山本小鉄の引退を機に現場責任者に。その後、社長に就任して新日本の借金を完済、黄金時代へと導いた

吉田 でも『真説』を読むと、坂口さんの評価が上がる。これも新鮮でした。坂口さんは「この前貸した10円返せ」というくらいケチだと叩かれてたんですけど(笑)。

田崎 まっとうな金銭感覚は経営者としては当たり前ですよね。長州さんも坂口さんのことは高く評価していますし。

業界内の人間は聞けない質問

「デタラメだけどチャーミングな人が多い」と、プロレスの奥深さを語る両者

吉田 一方で、『真説』は山本小鉄幻想を崩しましたよね(笑)。小鉄さんは選手たちに慕われているけど、丼勘定で、おごった飯代も会社に請求するという…。

それで思い出したのは、小鉄さんの愛弟子というべき選手が、自分の団体のトーナメントで優勝したレスラーに高級腕時計を贈呈したんですが、その請求はTV局に。まさに小鉄イズム(笑)。

田崎 僕は先入観ないから、そういう幻想は気にせずにやりました。プロレスって奥深くて、“史実”とされていることの裏を掘り起こすとまた面白い事実が出てきますよね。

吉田 田崎さんは藤波辰爾さんに「噛ませ犬事件【*2】」で長州と仲間割れすることを事前に知っていたのか」とぶつけてますが、あれも業界内の人間なら聞けない質問です。【*2】1982年10月、6人タッグで長州がパートナーの藤波に「俺はおまえの噛ませ犬じゃないぞ」と反乱を起こし、長州がブレイクするきっかけとなった事件

田崎 「僕は知らない。そんなことがあったとしても知りたくもない!」とおっしゃってました。僕は本当に知らなかったと思います。藤波さんもすごくチャーミングな方ですよね。

吉田 84年2月に札幌で長州vs藤波戦があって。この試合は藤原喜明が乱入してムチャクチャにして、あの温厚な藤波さんが「こんな会社、辞めてやる!」と激怒し、当時付き人だった高田延彦をぶん殴って、試合コスチュームのまま雪の札幌に飛び出していった。

この事件自体は有名ですけど、僕は「その後、どうしたんですか?」と聞いたんです。「タクシーを拾ってホテルまで戻ったはいいけど、そこでルームキーを持っていないことに気づいた」と(笑)。

田崎 ハハハ!

吉田 タイツ一丁で、ホテルのロビーで付き人が帰ってくるのを待っていたらしいです。

田崎 藤波さんらしい、微笑ましいエピソードですね(笑)。僕が取材したレスラーもみんな濃くて、プロレスマスコミだけに独占させるのはもったいないですよ。

吉田 じゃあ、次は『真説・藤波辰爾』を書いてください。かわいらしいエピソード満載で。すごく読みたいですよ!

■吉田豪(よしだ・ごう)1970年生まれ、東京都出身。プロ書評家&インタビュアー、ライター。近著に『Jさん&豪さんの世相を斬る!@ロフトプラスワン[青春愛欲編]』(杉作J太郎と共著、ロフトブックス)、『聞き出す力』(日本文芸社)、『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』(白夜書房)などがある

■田崎健太(たざき・けんた)1968年生まれ、京都市出身。『週刊ポスト』編集部などを経てノンフィクション作家。主な著書に『球童 伊良部秀輝伝』(講談社)、『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社)、『維新漂流 中田宏は何を見たのか』(集英社インターナショナル)、『ザ・キングファーザー』(カンゼン)、『辺境遊記』(絵・下田昌克、英治出版)など『真説・長州力1951―2015』田崎健太/集英社インターナショナル/1900円+税

(取材・文/田中茂朗 撮影/関根虎洸)