世界屈指のコース「スズカ」で、上位チームとの圧倒的な力の差を見せつけられた 世界屈指のコース「スズカ」で、上位チームとの圧倒的な力の差を見せつけられた

復帰後、初のホームグランプリを迎えたホンダ。「シーズン後半には優勝争い!」などと豪語していたものの、相変わらずトップチームとの差は歴然。

それでも意外や意外、鈴鹿に集まったファンはホンダを見捨ててはいなかった。

「セナ・プロスト時代の、あの圧倒的に強かったマクラーレン・ホンダの時代を知っている人たちは、今シーズンのホンダがどうしても物足りないと思うんですよ。でも、僕は今年の成績がイマイチだろうと、自分の大好きなホンダがこうしてF1に戻ってきてくれたという、それだけで本当に嬉しいんです」

9月27日、F1日本GPの決勝レース開始を約3時間後に控えた三重・鈴鹿サーキット。グランドスタンド裏の屋台村で、隣り合わせになった千葉県船橋市のAさん(専門学校生・22歳)は、買ってきたばかりの牛丼が冷めてしまうのも気にせず、そう言って熱く語ってくれた。

正直に言うと、Aさんの言葉は少し意外だった。いかに熱狂的ホンダファンでも、今季の新生マクラーレン・ホンダのふがいない戦いぶりには、さすがにゲンナリしたり、あるいは腹を立てたりしているだろうと想像していたからだ。Aさんはさらにこう話す。

「シーズン開幕前から、『セナ・プロ時代の再来だ』と言う人もいれば、絶対にダメだと言う人もいて、僕自身は正直、『どうにかいけるんじゃないか』と思っていましたが、そうはいきませんでした。その後もホンダの新井さん(F1プロジェクト総責任者)がポジティブな発言をするたびに、それを信じて期待してはガッカリの繰り返しでした。

でも、そこであんまり不振の責任を追及したり悪く言ったりしたら、ホンダのやる気もなくなってしまうかもしれない。1年目の今年は苦戦しても仕方ないし、来年、圧倒的に強いホンダが帰ってきて、今年の鬱憤(うっぷん)を晴らしてくれると信じています」

これだけボロボロに弱いマクラーレン・ホンダで、しかもホンダ責任者の「自信満々」のコメントに期待しては裏切られ続けても、全然アタマにこないのか?

「マスコミの人はそうもっていきたいんだろうけど、たぶんファンは『裏切られた』っていう感覚はないと思う」

そう話すのは、向かいに座っていた神奈川県川崎市のBさん(会社員・41歳)だ。

「僕はフェラーリのファンだけど、Aさんの言っているコトはよくわかる気がします。ホンダは心からレースが好きでチャレンジする会社だと信じているので、ファンは単純に『勝った、負けた』で好きになったり嫌いになったりはしないと思いますよ」

「これじゃGP2のエンジンだ、ウギャー!」

では、そんな熱く心優しいファンたちの前で、ホンダはどんなレースを見せたのか?

午後2時からの決勝レースは、メルセデス勢が圧倒的なスピードを見せつけた。好スタートを切ったルイス・ハミルトンと予選ポールポジションの僚友ニコ・ロズベルグの2台がスタート直後から競り合う展開に。一時はロズベルグのミスを犯したスキを突き、フェラーリのセバスチャン・ベッテルが2番手をもぎ取ったまではよかったものの、ハミルトンは終始、首位を独走。31周目にロズベルグが2位に浮上した後は、そのままメルセデスのワン・ツーフィニッシュで終わった。

肝心のホンダはレース序盤、フェルナンド・アロンソが10位までポジションを上げ、地元・鈴鹿でのポイント獲得が期待される場面もあった。しかしその後は圧倒的な直線スピードの遅さに泣き、後続のマシンに次々と抜かされていった。

しかも、ついにフラストレーションが限界に達したアロンソが「これじゃぁGP2(F1のひとつ下のカテゴリー)のエンジンだ、GP2だよ、ウギャー!」と、思わず叫んだ声が無線を通じてTV中継で流れてしまう始末。

レース終盤、アロンソの後方を走るザウバーのマーカス・エリクソンが背後にいたマシン数台を抑え込み、「堤防」となってくれたという運もあって、アロンソはポイント一歩手前の11位でレース終了。一方のジェンソン・バトンは16位と、無事2台そろって完走はしたものの、この鈴鹿サーキットと日本のF1ファンのことを心から愛するふたりの「元F1世界チャンピン」にとっては、耐え難いほど惨めなレースだったのだろう。

アロンソは前述した「GP2エンジン!」の発言以外にも、無線で「本当に恥ずかしいレースだ」と語り、バトンも決勝後に「僕たちは鎧も刀も持たないサムライのような戦いを強いられた」と戦闘力を欠くマシンへの不満を隠そうとはしなかった。

今のマクラーレン・ホンダが、アロンソとバトンというふたりのトップドライバーをもってしても優勝争いはおろか、実力での入賞すら難しいレベルであることが、あらためてハッキリと証明されたレースでもあった。

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(取材・文/川喜田 研 写真/池之平昌信)

■週刊プレイボーイ42号(10月5日発売)「F1日本GP現地ルポ ホンダはいつまでもファンに甘えんじゃねぇ!」より