ラグビーW杯で世界を驚かせた、我らがジャパン。その立役者のひとりが世界的名将エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)だ。

日本に縁が深く、世界のラグビーに精通し、厳しくかつこまやかな練習で選手を鍛え上げ、W杯本番で結果を出した。普通に考えれば、地元開催となる4年後のW杯日本大会の指揮官としても最適の人材だが…すでに今大会後の退任が決定済み。なぜそんな残念なことに!?

優勝候補の南アフリカを撃破、ジャパンが起こした“史上最大の番狂わせ”は「エディーさん」ことエディー・ジョーンズHCの存在を抜きに考えることはできない。

ところが、W杯開幕前の8月25日、今大会限りでのジャパンHC退任を発表。そしてW杯期間中の9月21日、世界最高峰のスーパーラグビー(南半球の強豪といわれるニュージーランド、オーストラリア、南アのクラブチームが一堂に会するプロリーグ戦)のストーマーズ(南ア)が、来季から彼を指揮官として迎えることを発表したのである。

4年後の2019年大会は日本開催。ジャパンが無様な結果に終わることは絶対に許されない。だとすれば、常識的に考えてエディーとの契約を延長し、次のW杯まで指揮を任せるのが最善の策。そしてエディー自身も、ジャパンのHCとしての仕事に意欲と満足感を持って臨んでいる様子だった。

にもかかわらず、彼はなぜHCを退任するのか? 『ラグビーマガジン』の田村一博編集長が語る。

「もちろん、エディーは次のW杯までジャパンを率いるつもりでいました。だからこそ今年4月、ジャパンエスアール(JSRA)のディレクター・オブ・ラグビー(DR)に就任していたのです」

来季(16年2月開幕)から、スーパーラグビーに日本のチームが参入する。ジャパンの強化を目的として編成されるもので、日本代表に限りなく近いメンバーが選ばれることになっている。この新チームを運営するのがJSRAで、チームに参加させるべき選手をリストアップしたり、強化策を練るのがDRだ。

当然、その職務を通じてジャパンと密接な関係を持ち続ける必要があり、事実、エディーはDR就任後、新チームのための選手をリストアップしている。

つまり、19年W杯に向けた実質的な代表候補選手を彼の基準で選んだわけで、来年以降はその選手たちでジャパンを構成し、経験を積ませ、自らが引き続き指揮を執る意向があった何よりの証(あかし)だ。

続投が消滅したふたつの理由

だがエディーはHC退任と同時にJSRAのDR職も辞すことに。もちろん彼は、一度引き受けた仕事を理由もなく投げ出すような男ではない。だとすれば4月以降に「何か」が起こり、退任の引き金となったのだ。

「ふたつの原因が考えられます。ひとつはこのW杯の開幕前に、日本ラグビー協会がエディーとの代表HC契約を正式に更新しなかったこと。近年、世界の代表チームは、優秀なHCであれば目標とする大会の前に契約を延長することが珍しくありません。早めの更新でHCが他国へ流出するのを防ぐわけです。

もちろん日本協会もエディーの手腕を認め、更新の意向は伝えていたでしょうが、『W杯前の契約延長など前例がない』『もしW杯本番で惨敗した場合、その指揮官を続投させてもいいのか』などの理由で、正式契約に二の足を踏んでいたようです」(田村氏)

旧態依然とした雇用主がもたつくうち、「協会は私のことを本当に評価しているのか」と業を煮やしたエディーは、次の道を考え始める。

「もうひとつは、新チームづくりに向けたJSRAの仕事があまりに遅いこと。来年2月にシーズンが始まるというのに、いつまでたっても参加メンバーさえ決まらない。エディーはDR就任後すぐに候補リストを提出しているのですが、交渉のプロが不在のJSRAが選手との契約に手間取っているのです。

代表強化の重要な手段がまるで形にならない現実に直面し、日本のラグビー界は本当にジャパンを強くする気があるのかと、エディーは不信感を募らせたのでしょう」(田村氏)

そこへちょうど、新たな指揮官を探していたストーマーズからのオファーが届いた。すべてのタイミングがぴたりと合い、エディーは南ア行きを決意したというわけだ。

当然、DRとして彼が提出していた新チームの候補選手リストも白紙に戻されてしまった…。エディーの去られる損失はとてつもなく大きいといえる。

週刊プレイボーイ42号(10月5日売り)では、さらに次期HC候補についても検証。是非お読みいただきたい!