9月28日、2020年東京五輪の追加種目候補5競技のひとつにサーフィンが選ばれた。
来年8月のIOC(国際オリンピック委員会)総会で正式決定する見込みであり、波乗りを愛するサーファーたちもさぞかし喜んでいるかと思い、“日本のサーフィンの聖地”神奈川・湘南の海辺で話を聞いてみると、こんな声が聞こえてきた。
「サーフィンが注目されるのは嬉しいんですけど…無理でしょ、絶対」、「そもそも日本の海でサーフィンの大きな大会をやるのは難しいんじゃ…」
意外にもサーファーたちは一様に半信半疑なのだ。その理由を、湘南で30年以上サーフィンを続けるベテランサーファーのA氏が語る。
「まず単純に、日本では世界大会を行なえるようなクオリティの高い波が立ちにくいという理由があります」
サーフィンの本場であるカリフォルニアやハワイ、オーストラリアなどに比べ、気象条件や地形の問題で日本の波はスモールサイズで、競技をするには条件が悪いというのがサーフィン界の常識だという。その証拠にトッププロが参戦し、世界中を転戦するワールド・チャンピオンシップ・ツアー(WCT)の開催地に日本は含まれていない。
「例えば、日本沿岸の太平洋上に台風や大きな低気圧があり大波が立つような条件である場合は別ですが、東京五輪の競技地域と考えられる湘南や千葉の九十九里では、夏場にコンスタントにいい波があるとは限りません。また、東京都内であれば、かつて世界大会が行なわれたことのある、四方を海に囲まれた新島(にいじま)という選択も考えられるのですが、民宿や小さく古いホテルばかりで、大規模な大会をやるためのインフラや環境面が整っていない」(A氏)
無視できないTV中継との相性
さらにA氏は「サーフィンはTV向きのスポーツではない気がします」とも話す。
例えば、世界最高峰のWCTでは一大会につき10日から2週間程度の開催期間が設けられ、いい波が立たない日はウエイティングとなる。つまり、グッドコンディションを待つため、競技日程や時間などのスケジュールが直前まで確定しないのだ。
現在のオリンピックは、莫大(ばくだい)な利益を生み出すTV放映権を無視できない。実際、今回、同じく追加種目候補になった野球ではTV中継を考慮し、競技時間短縮のため、延長の場合はタイブレーク方式の導入も論議されている。その観点において競技日程や時間がアバウトなサーフィンは、TVコンテンツとして非常に扱いづらい種目だというわけだ。
開催期間が短いWCTより下のカテゴリーや国内のプロサーフィン大会では、満足のいく条件ではなくても競技を行なう場合もあるが、オリンピックの舞台である以上、誰もが最高の条件でのパフォーマンスを期待するもの。
「もしTV中継を優先するあまり、悪いコンディションで開催するようなことがあれば本末転倒。ショボい波でやっても、サーフィン本来の迫力や魅力が伝わるとは思えません」(A氏)
自然相手の競技で、日本で好条件を整えるのは極めて困難だという事実。サーファーたちが一様に半信半疑なのも納得だ。
(取材・文/石塚 隆)