空中殺法を自在に駆使し“天空の逸女”と呼ばれる女子プロレスラー・紫雷イオ 空中殺法を自在に駆使し“天空の逸女”と呼ばれる女子プロレスラー・紫雷イオ

空中殺法を自在に駆使し“天空の逸女”と呼ばれる女子プロレスラー・紫雷イオ

25歳にしてキャリアは9年と長く、所属する人気団体『スターダム』では個性の塊である女子プロレスラーたちをまとめる「総監督」の顔も持つ。

一方で、グラビアもこなす愛らしい笑顔からは考えられない老成した発言も飛び出す彼女に女子プロレスと自身の今とこれからを直撃! そこには人生のエッセンスが詰まっていた…?

-弱冠25歳で「総監督」となったそうですが、スターダムの現状をどう捉えていますか? 月に1回、後楽園ホール興行をできる女子プロレス団体は他にないと思うんですが。

イオ ないですね。だから攻めてます! 正直、厳しい月もあるんですけど、お客さんがついてきてくださっているし、月1回、後楽園ホール大会をやれる団体はスターダムしかないと思うので。

-客入りの増減の理由はなんだと思いますか?

イオ やっぱり選手層の厚みのなさは認めるしかないですね。世IV虎の事件で世間を騒がせてしまったし、離脱者、欠場者も出ていますし。でもそれがあったからこそ宝城カイリや岩谷麻優という若手選手が奮起してトップに躍り出てきた。「スターダムを守らなきゃ」と3人で手を取り合っています。

-その「団結する」ということが、女子プロレスの世界では意外と難しいことなのではと…。

イオ いやー、難しいですね、ホントに仰る通りで(笑)。まずプロレスラーっていうのは個人事業主じゃないですけど、個性が強い。個性の塊をぶつけあうような職業じゃないですか。自己主張も激しいし。あとは「女子」っていうのもね、特に難しくて(笑)。皆さんが思っている以上に、女同士の社会っていうのはメチャクチャ面倒臭いですよ~(笑)。女の人は共感してくれると思うけど。

-男子の知らない世界はありますよね。

イオ そうそう。しかもそれが個性の塊のプロレスラーなんですよ。もう二重苦ですよ!(笑)もちろんそういう気持ちは大事ですし、それがないヤツは上にはいけない。でも同時に、団体というパッケージプロレスを創りあげなきゃいけないし、その兼ね合いって難しい。プロレスって相手がなきゃできないものですし。

相手はもちろん、お客さんがいてくれなきゃできないし、会社、プロモーターさん、リング…と、プロレス興行にはたくさんの人が関わって作り上げる部分がある。それをね、わかってる人、わかってない人の働きぶりっていうのは雲泥(うんでい)の差ですよね。

妬みとかドロドロした部分も多い…

-それは選手の働きぶりがですか?

イオ ですね。さらにそこに女の意地もあるから。ぶっちゃけ、妬(ねた)みとか足の引っ張り合いのようなドロドロした部分も多いですよね。ただ、今のスターダムではそれは徹底的に排除しています。

-そんな中、先輩選手の離脱もあり、団体では一番上になりましたよね。今、紫雷イオって技術、人気ともに女子プロ界でひとつの「頂点」だと思うんです。

イオ おお、ありがとうございます(笑)。

-そしてもうひとつの頂点が全くタイプの違う里村明衣子(センダイガールズプロレスリング)選手かと…。

イオ そうですね!

-その中で、里村選手に流出したベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)を取り戻すのを楽しみにしてるんですけど、次の挑戦者は他の選手ですし、5☆GPも敗退ですし…なぜ若手の台頭を許しているのでしょう?

イオ いや、私が一番っていうプライドはもちろんありますけど、ずっと自分がメインイベントで勝ってたらそれこそ一番つまんなくないですか? なんでもそうじゃないですか。映画でもドラマでも、サッカーでも野球でも結果がわかるものほど面白くないものはないという。あと、スターダムの面白いところは、悪いものは淘汰されるという部分があって。

-それはどういう?

イオ 女子プロレスって年功序列がメチャクチャ強くって、もう明らかに対戦カードを見た瞬間にキャリアの長い者が短い者に敗けるわけがないっていう(笑)。けど、スターダムは旗揚げからキャリアは関係なしに勝敗が決まるわけです。団体の名前通り、スターダムに誰でも急に躍り出るというワクワク感はスゴいですよ。

-イオさんは21歳の時にスターダム初参戦ですが、それがキッカケ?

イオ そうです。まあ、後輩にぶちのめされる可能性もあるんですけど(笑)。逆にそんな刺激的なリングないでしょって。

-ところでデビューは16歳でキャリアは長いですよね。きっかけはお姉ちゃん(紫雷美央=先日、引退&結婚を発表)という話で?

イオ お姉ちゃんがやるって言ったからついていったら、ノリでデビューさせられたという(笑)。器械体操やってたんで、おまえスゴいじゃん、姉妹でデビューさせようぜって(笑)。

飛べなくなったらプロレス辞めたい

-どんな練習を経て?

イオ 道場で週1回3時間の練習を3ヵ月でデビューしたっていう…どえらい話ですよ(笑)。受け身だけだな、習ったの。だってデビューした時、ドロップキックできなかったですもん。

-新人の基本といえばドロップキックなのに!?

イオ デビュー2戦目でJWPに出稽古に行って、そこで(コマンド・)ボリショイさんにドロップキック習いました。かなりのレア・ケースですよね(笑)。だから今、スターダムのコたちは団体の中でちゃんと育ててあげたいなって。何も知らないままリングに上がって、失敗して笑われるのは自分じゃないですか。

-3人姉妹の末っ子なのにその面倒見のよさは不思議です。

イオ ねえ(笑)。プライベートはムチャクチャ末っ子気質ですよ。自分の好きなように生きていきたいし(笑)。だけど、仕事ってなるとやはりプロフェッショナルなので。もちろん好きでやっているからこそ、ここまで年中没頭できるんですけどね。趣味もこれといってあまりなくて、プロレスめちゃくちゃ好きなんですけど(笑)。

やっぱり一流のプロになりたいから、いい意味でドライにならなきゃいけないじゃないですか。

-ドライとは?

イオ 客観視できなきゃいけないですから。自己主張するのは簡単ですけど、後輩たちにもメインイベントに立ってもらって、このコにはお客さんはこういう喜び方をするんだ、じゃあこのコだったらって観察して。で、じゃあ自分はこうしたらもっとお客さんが喜ぶかもしれないなとか。そこでちょっと上回るっていう!(笑)

-いずれ倒す人材を育ててるという感じ?

イオ そうそう! ホントそうです。

-試合ではコーナーから飛ぶだけでなく、階段から飛んだこともありますよね。

イオ あれ、めっちゃ怒られるんですよ(笑)。確かに危ないんですけどね、何も考えずに飛んじゃうんですよね。

飛べなくなったらプロレス辞めたいと思ってるんで。飛びたいんですよね、高いところ好きだし(笑)。お客さんを喜ばせたいって気持ちもありますけど、もう、事あるごとにコーナーに登りたくなっちゃう。

-それでもケガしないですもんね。

イオ まあ、鍛えてますからね、やっぱり体力がないと。練習ちゃんとやってますよ、スターダムは。道場環境も整えてもらってますし、以前は先輩方が「全女式」って呼ばれる基礎体力作り中心の激しいトレーニングを…。

いいことしか言わないのは悪いヤツ?

-その「全女式」をちょっと詳しく…!

イオ 効率よく筋力を鍛えられるトレーニングより、スクワット何百回とか、つらい思いをして心を鍛える、そういうエッセンスが入っているものかな。それは引き継いでいかなきゃいけないから教えてますけど、それだけじゃなくて技術の練習もしたり。

スターダム特有のテクニックを光らせるプロレスが私は好きだし、それを実現させてるつもり。なんでも取り入れたいんですよ。新日本プロレスを観に行ったらその動きを取り入れたりとか。なんでも盗もうと思ってますね。

-柔軟ですね。

イオ 自分はそれをやり始めたら成長できたので。最初は怒られるんですよ、「なんであんなことやったの?」とかって。怒られるのって嫌じゃないですか。

-大人になってから尚更、怒られるのは嫌ですね(笑)。

イオ 怒られた時に否定するのは簡単ですけど、それだとただ嫌な思いして終わるだけ。でもその時に、悔しいから一旦取り入れてみて、ダメだったらやめればいいだけであって。怒られる話こそたくさん聞こうっていう風に変わってきました。

怒ってくれる人ってすごく大切だなって。で、いいことしか言わないヤツって、だいたい悪いヤツですよね、経験上、騙(だま)されたりとか(笑)。

-(笑)。悪いヤツついでで、過去の例の事件のことを聞かせてもらえますか? 今でこそ「無罪」と証明されていますが、キャリアを語る上で避けられない事件があったと思うんですが。(※)

イオ ありましたね、悲しい事件が。2011年でしたっけ…。

-いやいや、2012年5月、22歳のお誕生日のすぐ後ですよ(笑)。

イオ 22歳であんな目に遭ってしまいましたね!(笑)

-では、こちらは後編でまたじっくりお伝えしたいと思います!

(※メキシコから大麻を持ち込もうとした疑いで成田空港で逮捕され、6月に釈放、不起訴となる。翌月、別人が関与を認める謝罪会見を開いたことにより無罪が証明)

●この続きは明日配信予定、無罪で逮捕されバッシングされた“あの事件”を振り返り全告白!

(取材・文・撮影/明知真理子)

●紫雷イオ(しらい・いお) 1990年5月8日生まれ 出身地非公開 2007年、16歳でデビューし25歳にしてキャリアは9年目。類まれな身体能力で空中殺法を自在に操り、キャッチフレーズは『天空の逸女』。2011年8月からレギュラー参戦する『スターダム』では『ワールド・オブ・スターダム王座』を10度防衛したほか5大王座グランドスラムなど数々の記録を打ち立て、名実ともにエースとして活躍中。

・『STARDOM Appeal The Heart2015~心の叫び~』 11月3日(祝)大阪市平野区民ホール 13:00、11月8日(日)新木場1stRING 12:00 ・『第5回GODDESSES OF STARDOM~タッグリーグ戦~優勝戦』 11月15日(日)後楽園ホール 12:00、11月23日(祝)博多スターレーン 17:30 ほか最新情報は公式サイトにて