1995年、女子プロレス華やかなりし時代に史上最年少の15歳でデビューした里村明衣子。
長与千種の後継者として育てられた少女は、ローカル団体であるセンダイガールズプロレスリングを率いつつ、今や“女子プロ界の横綱”ともされる頂点に…!
若手の多いスターダムとの対抗戦でも迫力のデスバレー・ボムをキメるなどバリバリの円熟味を増し、ついにはベルトを奪取。リング上での鬼の形相からは想像できないキュートな笑顔でインタビューに現れた最強お姉サマの素顔とは…!
―現役20周年を迎え、ついに昨年は女子プロレス大賞も獲得されたということで、おめでとうございます!
里村 ありがとうございます!
―でも19年目で初受賞とは正直遅いですよね?
里村 遅いですね(笑)。
―実績を考えると、まだ獲ってなかったんだ!?と感じますが、長与千種率いるガイア・ジャパンでデビューされた当時(1995年)は北斗晶、神取忍など有名な先輩方が揃う中、なかなか目立つ機会が与えられなかった?
里村 それはもう、先輩たちの層が厚すぎて!(笑) やっぱりあの時代にあの人達を抜くっていうのは、相当な努力が必要だったと思いますね…。
―ちなみに怖かった先輩は誰ですか?
里村 やはりですね、北斗晶さんが怖かったです…。北斗さんに目の前で叱られた時に、初めて冷や汗が出ました!
―逆にそれまでは平気だったんですか!?(笑)
里村 (師匠の)長与千種さんは「お父さん」のような存在だったので、叱られても絶対にどこかでフォローしてくれるという安心感が(笑)。
―お父さんって(笑)。家族的な信頼関係があったんですかね。
里村 でも北斗さんとかデビル雅美さんとかは他団体の選手ですし、ひとつミスをしたらもう絶対に許されないような存在だったんですね。その方たちに怒られた時にはもう…ホントに凍りつきましたね(笑)。
北斗さんの脚も自分の顔も変型し…
―そうすると、試合でも萎縮しちゃったり…?
里村 それがですね、逆にその当時の先輩たちは遠慮するとすっごい怒ったんですよ…! 「遠慮するぐらいだったら倒しに来い! やり過ぎたら逆にヤッてやるから」みたいな考え方の先輩が多かったですね。
―むしろ思い切っていけたと。でもそれで向こうも思い切ってくるわけで、ちなみに今までで一番痛かった試合は?
里村 やはり北斗晶さんとのシングルマッチ(即答)。もう、その「張り手」がですね…! 北斗さんの張り手は普通の張り手じゃなくて、なんかもうバットで振り切られたような痛さなんです。おかげで歯が折れました。ここ(左奥歯)は差し歯なんですけど(笑)。
―張り手で歯が!? 試合中だし1発じゃないですよね?
里村 何十発だったでしょうか…。張り手されると私はローキックで返すんですけど、それを小橋さんと佐々木健介さんのチョップのやり合いのように延々と繰り返すんですね(笑)。そのビッグマッチを終えた時にはもう北斗さんの脚が紫に腫れ上がって、私のこの四角い顔もなんか変なカタチに…(笑)。自分の顔とわからなくなるぐらい腫れましたね。
―そんな壮絶な試合を経ていると、今はちょっと物足りなかったりします?
里村 うーん…、確かにその当時の選手はキャラクターも濃いですし、すごい選手が揃ってましたけど、あんまり昔と比べることはないんですよ。今いる中で最大限のものを見せていくしかないと思っているので。
―入門当時はまだ14歳。今まで続いたということは天職だったと?
里村 はい、もう「これしかない!」と。プロレスに出会った時に「あたしはこれに一生をかける!」って、その時に思いましたね。
―そして20年! 先日、コラムニストの雨宮まみさんがブログで“本物の揺るぎない女性”と絶賛していましたが、女性が自己実現を目指す時、仕事と両立できないものは多いのではないでしょうか。女子プロレスラーという仕事をする上で、犠牲にしてきたものは?
里村 それはたぶん…恋愛ですね。
―やっぱり!?
結婚よりプロレスやってたほうが幸せ
里村 でも「恋愛」する前に自分の…「自我」が強すぎるんですよね。なので…ちょっとやっぱり…全然こう……。
―両立が難しい?
里村 両立は…できなかったですね(笑)。
―例えば、「仕事と俺とどっちが大事なんだ」的な局面も?
里村 それがですね、1回も聞かれたことすらもなくて(笑)。(そのセリフを)聞いてみたいと思った自分もちょっといたんですよね(笑)。たぶん自分自身がすごく「強い」というか…自我の部分が強すぎるんでしょうね。ふふふ。
―自分のやりたいことがハッキリと決まっているから、他のことはもう興味がないと。
里村 (他のことが)入ってきづらいんですよね!(笑)
―今まで結婚しようと思ったことは?
里村 ありました。ハイ…。ありましたけど…。
―仕事を優先してしまった?
里村 この人といるよりプロレスやってたほうが幸せになるわ、と思って!(笑)
―うわー、そこですか! 全キャリア女子が頷(うなづ)く音が聞こえますよ!
里村 まだそういう人に出会ってないんでしょうね(笑)。
―では、そこまで打ち込める「女子プロレスの魅力」とは?
里村 自分が好きというのもあるんですけど、プロレスほど…これ以上に面白いものはないなって! ライブに行ったり、ミュージカルに行ったり、NYでもいろんなエンターテインメントを観に行ったりとか、自分の中にいろんな「好き」はいっぱいあるのに、やっぱりプロレスが一番だって思いますね。
―ずっと一番なんですか!
里村 はい、一番面白いんですよ! いまだにそうですね。
WWE入りのためアメリカに!という話も
―そうやって邁進してきたプロレスの道で、キャリア10年にして所属しているガイア・ジャパンが解散するという転機が訪れます。結果としてセンダイガールズプロレスリングを旗揚げしますが、他にもたくさんのスカウト含め選択肢があったのでは?
里村 すごいたくさんありました! 現役の選手を集めてやらないかという社長さんもいましたし、WWEにすぐ行けるからアメリカに来てくれという話も…。
―WWEに!
里村 でも、結構胡散臭(うさんくさ)くて(笑)。
―(笑)。でもWWEといえば、プロレスラーなら誰しも行きたがるのでは!?
里村 でも私は魅力を感じなかったですね、その当時は。
―それで日本で、しかも仙台に移住して新人をイチから育成しての旗揚げですが、苦労したことは?
里村 最初は私ひとりが現役で、全員素人だったので。それも高校中退した普通の女のコだったり、「運動経験はないです」っていう中卒のコだったり…しかもヤンキーなんですよ、みんな(笑)。
―「プロレスやりたい」って飛び込んでくるコはやっぱり変わってる?(笑)
里村 だいぶ変わってました(笑)。その中でも1期生はみんなクラスにひとりはいる「道を外れた」コたちで、もうまとめるのが大変でした(笑)。でも毎日、生活管理していく中でちょっとずつ真面目になるところが見えてきて、ひとつの目標を持った時にどんどんみんな変化していったのを見て…。初めてそこで人に指導するという喜びが自分に芽生えたんですよね。
それまでは選手ひと筋で、自分がチャンピオンベルトを獲ることしか考えてなかった。このセンダイガールズを旗揚げしてからは、後輩たちを持つことによってホントに自分自身の視野が広がりました。
でも一昨年、選手が私とDASH・チサコのふたりだけになったことがあったんです。震災が起きてからちょうど2年目だったんですけど…。
―団体運営の危機…!?
●この続き、後編は明日配信予定。現役プロレスラー、そして経営者として地方を拠点にする意味、女子プロのこれからをじっくり語ってもらいます!
(取材・文・撮影/明知真理子)
●里村明衣子(さとむら・めいこ) 1979年11月17日生まれ 新潟県出身 女子プロ界初の地方団体『センダイガールズプロレスリング』代表。3歳より柔道を始め、中学時代に女子柔道部を設立し県大会で優勝。1995年、女子プロレス史上最年少の15歳でデビューし、いまや“女子プロレス界の横綱”と言われるまでに。選手生活も20年を越え、女子プロレス界を牽引する存在。
◯センダイガールズプロレスリング/里村明衣子出場予定 11月12日(木)東京・後楽園ホール 18:30~、 11月15日(日)東京・後楽園ホール 12:00~(スターダム) 11月15日(日)東京・両国国技館 15:00~(天龍源一郎引退最終興行) 11月20日(金)宮城・仙台市宮城野区文化センター 19:00~ 11月23日(祝)福岡・博多スターレーン 13:00~ 12月7日(月)大阪・港区民センター 18:30~ 最新情報は公式サイトにて http://www.sendaigirls.jp