かつてお茶の間を熱狂させた“大晦日格闘技中継バトル”が復活する――。
2000年代前半、「打倒紅白」を掲げ、民放TV局は大晦日の格闘技中継でしのぎを削っていた。特筆すべきは03年、TBSが「Dynamite!!」、フジテレビが「PRIDE男祭り」、日本テレビが「イノキボンバイエ」と3局が同時中継した絶頂期だろう。
しかし格闘技ブームは長くは続かず、PRIDE、K-1の消滅により人気は凋落。10年のTBS「Dynamite!!」を最後に格闘技中継は大晦日の地上波から姿を消した。
だが、冬の時代の終焉(しゅうえん)を予感させたのは、今年10月8日のこと。かつてのPRIDE運営スタッフが再結集し、新イベント「RIZIN(ライジン)」を立ち上げ、12月29、31日の両日に開催することを発表したのだ。元PRIDEヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードルの現役復帰戦や桜庭和志vs青木真也の新旧日本人エース対決など豪華なラインナップを揃えたこの大会はフジテレビでの中継も決定。同局は「FUJIYAMA FIGHT CLUB」なるレギュラー番組を放送するなど大晦日に向けて力を入れている。
格闘技を「呼び戻した」のはフジテレビだけではない。11月6日、TBSが魔裟斗vs山本“KID”徳郁(のりふみ)を大晦日に放送することがぶち上げられた。
魔裟斗vsKIDは04年大晦日にTBSで放送され、瞬間最高視聴率31.6%を叩き出した格闘技史に輝く黄金カードだ。11年ぶりの再戦は特番「KYOKUGEN2015」内で放送され、魔裟斗にとっては09年大晦日に引退して以来の「一夜限りの復帰戦」になる。
TBSvsフジテレビの“格闘技同時復活”について、スポーツライターの布施鋼治氏はこう分析する。
「近年、視聴率が低迷していたフジテレビにとっては、捲土重来(けんどちょうらい)を期して、かつてのキラーコンテンツを復活させたということですね。同時復活は偶然だと思いますが、TBSにも『そろそろ格闘技人気が復活するのでは?』という予感があったのかもしれません。毎年、人気ボクサー・井岡一翔の世界戦を目玉にしていますが、今年は魔裟斗の復帰戦を加えることで磐石の体制を敷いたのでしょう」
TBS関係者が明かす“同時復活”の真相
果たしてTBSが黄金カードを投入したのはフジ「RIZIN」への対抗策だったのか? それとも本当に偶然…? 「KYOKUGEN2015」関係者がこう明かす。
「全くの偶然です。『RIZIN』のことは噂には聞いていましたが、フジテレビの中継決定には正直、驚きました。2012年からスタートした『KYOKUGEN』は様々なジャンルのアスリートがドラマ性のある『対決』をする番組で、魔裟斗vsKIDはその中の目玉企画のひとつという位置づけです。実は、魔裟斗さんには数年前から復帰のオファーをしていたんです。今回、実現に至ったのは彼の心境の変化などいろんなタイミングが合って、夏に決まりました」
対戦相手にKIDを選んだ理由は?
「候補は何人か挙がりましたが、やはり11年前のこの名勝負こそふさわしいということです。KIDさんはアメリカのUFCと契約していますから難しいとはわかっていましたが、交渉を重ねた結果、UFCも了承してくれました」
偶然とはいえ、世間はTBSvsフジテレビの格闘技バトルという図式をあてはめて見るはず。TBS側の勝算は?
「ライバルは『RIZIN』だけでなく、他にも強力な裏番組がたくさんありますから。『RIZIN』には負けたくない、という気持ちは特にありません。過去最高の『KYOKUGEN』を提供するだけですね」
とはいうものの、ここにきて『RIZIN』はかつて瞬間最高視聴率43%を記録した曙vsボブ・サップの再戦も発表。しかも、このカードの初戦は03年のTBS「Dynamite!!」で放送されたものだ…。いずれにせよ、格闘技ブーム復活に拍車がかかるか――仁義なき“大晦日格闘技中継バトル”、どちらに軍配が上がる?
(取材・文/週プレNEWS編集部 写真/乾 晋也)