田崎氏が長州戦を提案すると「戦いには証明すべき何かが必要だ」と力説するヒクソン 田崎氏が長州戦を提案すると「戦いには証明すべき何かが必要だ」と力説するヒクソン

年末の格闘技イベント「RIZIN」に、“400戦無敗の男”ヒクソン・グレイシーの息子クロンが参戦し、山本美憂の息子アーセンと対戦する。

“最強遺伝子対決”の前に、クロンの代理として来日したヒクソンを話題のノンフィクション『真説・長州力 1951-2015』の著者・田崎健太が直撃!

前編記事ではクロンの参戦理由を語ったヒクソンが、自身の復帰の可能性、そして幻に終わった長州力戦の真相を明かす!

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―最近のあなたの日常を教えてほしい。生活の拠点はどこですか? 今もトレーニングはしている?

ヒクソン LAにいるよ。マットの上にいるのが好きなので、選手を教えたり、軽くスパーリングをすることはあるけど、あくまで体を維持するため。現役時代に抱えたケガもあるので無理はしないんだ。その他、ヨガの呼吸法、サーフィンなどをしている。

―試合用のトレーニングはしていない?

ヒクソン もちろん。

―アメリカの中でもLAを選んだのは、故郷のリオと同じように海が近いから?

ヒクソン そうだね。私は海から離れては生活できないんだ。海からエネルギーをもらっている。

―どれぐらいの頻度で波に乗っているんですか?

ヒクソン いい波がある時は毎日だよ。

―サーフィンを始めたのは何歳ぐらいの時ですか?

ヒクソン 元々、生まれたのがコパカバーナ。海の目の前だったんだ。それからフラメンゴ(ビーチ)の近くに引っ越した。最初は海で遊んでいて、9歳ぐらいの時にスポンジボードを手に入れた。12歳の時に初めてサーフボードを手にしてからはずっとやっているよ。

―フラメンゴには波はないでしょう? 

ヒクソン ないね。だからイパネマとか波のある所までバスや自転車で行っていた。

―“イパネマの娘”には相当モテたんじゃないですか?

ヒクソン (くすりと笑い)多少はね。

「私が戦わなくてはならないとすれば…」

 息子のクロンは寝技の世界で頂点を極め、昨年12月に日本で総合格闘技デビューを果たした(c)REAL FIGHT CHAMPIONSHIP 息子のクロンは寝技の世界で頂点を極め、昨年12月に日本で総合格闘技デビューを果たした(c)REAL FIGHT CHAMPIONSHIP

―もう一度、確認ですが、今、試合のためのトレーニングは一切していないんですね。

ヒクソン そうだよ。今は体のメンテナンス程度だ。

―というのも、RIZINでは桜庭和志選手、高阪(こうさか)剛選手がMMAに復帰する。あなたの試合を見たいという声もある。MMAでなくとも、例えばグラップリングルールで現役復帰する可能性は?

ヒクソン (素っ気なく)ないね。

―大金を積まれても?

ヒクソン お金を積まれたら、余計できないよ。勝たなければならないというプレッシャーが大きくなってしまうからね。だったら、その辺りでストリートファイトしているほうがずっと楽に勝てる(笑)。

―あなたにストリートファイトを仕掛ける人間がいるとは思えませんが(笑)。

ヒクソン 私が戦わなくてはならないシチュエーションがあるとすれば、それは家族や愛する者、名誉を守るため。でも、私はもうプロのファイターではないから試合をすることはないね。

―プロの試合はクロンに任せると。

ヒクソン ああ、今度は彼の番だ。

―少し前の話を聞きたい。ぼくは長州力さんを主人公とした『真説・長州力』というノンフィクションを書きました。その取材の中で、2001年頃、あなたと長州さんが対戦するというプランがあったと聞きました。そのことを覚えていますか?

ヒクソン そういう話はあったようだね。ただ、長州がPRIDEのリングに上がるという話ではなかったはずだ。つまり、私が彼のプロレスのリングで試合をするということだ。

その場合、我々がMMAをやったとしても、観客にプロレスの試合だと思われるかもしれない。やるならば、確実にリアルファイトの舞台でやらなければならない。だから、長州サイドからのオファーは到底受け入れられないものだった。

「証明すべき何かを見つけられない」

 2000年の船木誠勝戦以降、ヒクソンは試合をしていない。左は幼い頃のクロン 2000年の船木誠勝戦以降、ヒクソンは試合をしていない。左は幼い頃のクロン

―その長州さんは63歳になった今も現役を続けています。ある夜、長州さんと深く酒を飲んだ時に「リングを去る前にもう一度、ビッグマッチをやったらどうですか?」とぼくが振ったことがありました。すると、冗談交じりですが「ヒクソンとならばやってもいいかな」という返事が返ってきた。あなたの名前を聞くと、どうも彼のアスリートの血が騒ぐようです。

ヒクソン (苦笑いしながら)戦士というのは、そういったメンタリティを持ち続けなければならないものなんだよ。そして同時に、いつ舞台から降りるかという決断もしなければならない。

私にとって今、彼と試合をすることに意味を見いだせない。証明すべき何かを見つけられないので、お金のためになってしまう。それは違うのではないかと思う。

―あなたはもう誰とも試合はしない、完全に舞台から降りたと考えていいですか?

ヒクソン ああ、競技からはきっぱりと足を洗った。もう試合はしない。

―すごく残念です。

ヒクソン フフフ(笑)。

―最後に、クロン対アーセンはどんな試合になると予想しますか?

ヒクソン MMAの経験のない選手はどんな動きをするのか予想できない。それでもクロンが勝つと思う。おそらく、関節を極めて一本勝ちだ。とにかく、いい試合になることを祈っているよ。

 旧知の長尾カメラマンに向かって、おどけたポーズをとるお茶目な一面も! 旧知の長尾カメラマンに向かって、おどけたポーズをとるお茶目な一面も!

■ヒクソン・グレイシー 1959年生まれ、ブラジル・リオデジャネイロ州出身。“400戦無敗の男”の触れ込みで初来日し、94年、95年の「VALETUDO JAPAN OPEN」を連破。その後、PRIDEで97年、98 年と高田延彦に連勝し、2000年には船木誠勝に勝利。これが事実上のラストマッチになった

■田崎健太 1968年生まれ、京都市出身。著書に『球童 伊良部秀輝伝』(講談社)『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社+α文庫)など多数。綿密な取材を基にプロレスラー長州力の半生を描いた『真説・長州力 1951-2015』(集英社インターナショナル)が大好評発売中

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(撮影/長尾 迪)