12年前のリベンジに燃える第64代横綱・曙太郎 12年前のリベンジに燃える第64代横綱・曙太郎

2003年12月31日、曙太郎は四角いリングでボブ・サップと対峙(たいじ)していた。

元横綱の総合格闘技デビュー戦に日本中の視線が注がれる中、1R2分58秒、サップの強烈な右ストレートに崩れ落ちた。衝撃的なKOの瞬間、視聴率はNHK「紅白歌合戦」を超える43%を記録した――。

それから12年、大晦日の「RIZIN」で、再び曙はサップと拳を交える。雪辱に燃える決意を聞いた!

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―サップと再戦するにあたり、12年前の試合映像を見返したりしましたか?

 見てません。自分は見る人じゃなく、試合する側だから。勝っていたとしても見ないです。

―負けてバッシングを受けましたが、当時、その声は耳に入ってきた?

 他人が何を言おうが関係ありません。プロレスを始めた時(05年)も「要らない」とか言われたし。大事なのは自分の気持ち。負けたことはずっと悔しかったし、苦しかった。今回の再戦のために思い切って会社(全日本プロレス)も辞めました。もちろんリスクはわかってますけど、人生にはやらなきゃいけない戦いがあるんです。あれから12年間、リングに上がり続けてこられたのも、これを目指していたからかもしれない。

―サップにリベンジしたいという思いは、いつから持っていた?

 前から思ってはいたけど、チャンスはないだろうと…。最近は大晦日に大々的な格闘技の大会がなかったからね。諦めかけていたところに今回の話が出てきた。

―記者会見の際、12年前の試合を振り返って「丸い土俵と四角いリングは全く違うものだった」と言っていましたね。

 相撲は相手をKOしたり仕留めることがないじゃないですか。それに加えて戸惑ったのは、押し込んでもロープで止められるというか、跳ね返されるというか…なんで寄ってるのに試合が終わらないのか?というのがありました。

―寄り切ってるのに終わらないと。

 最初は僕が押していたと思うんですよ。でも、寄っても終わらないから、「あ、これは相撲じゃないんだな」って。スタミナが切れた時にガードが下がってパンチをもらってしまった。

「居酒屋を出禁になった」武勇伝

 サップ戦は瞬間最高視聴率43%を記録し紅白を超えたが、数字より大切なものがあると語る サップ戦は瞬間最高視聴率43%を記録し紅白を超えたが、数字より大切なものがあると語る

―それにしても、12年間ずっと悔しさを抱えていたっていうのは、すごい執念ですね。

 フラれた女への未練と同じですよ(笑)。

―ハハハ…でも、プロレスはずっと続けてきたし、動きはいいんじゃないですか?

 12年前より30kg軽くなっているし、全然いいですよ。プロレスの試合を平気で20分くらいできるスタミナもあるし。

―大晦日で思い出されるのは、サップ戦の翌年にホイス・グレイシーと試合をしましたけど、その会見がハワイであって、曙さんが座ったら見事に椅子が壊れたっていう…。

 そんなことは覚えてなくていいんだよ!

―あの破壊力がリングでも出たらなぁって(笑)。

 出るか! じゃあ、相手の上に座るか(笑)。

―「RIZIN」では、バルト選手(元大関・把瑠都)が総合格闘技デビューをします。バルト選手には「軽トラックを持ち上げた」という逸話がありますが…。

 相撲取りはみんなやるよ。僕もトラックの向きを変えたことがある。

―さすがです(笑)。武勇伝をもうひとつ挙げれば、若い頃に居酒屋の飲み放題でチューハイを40杯飲んで出入り禁止になったというのは本当ですか?

 20歳の時だね。確かに僕ひとりで40杯飲んだけど、他にも何人かいたよ。

―店潰れちゃいますね(苦笑)。何歳で横綱になったんでしたっけ?

 23歳だよ。その頃、ホテルで誕生日パーティをやってもらったことがあって。司会者に促されて玄関に行くと、大きなリボンが巻かれたクルマが置いてあった。

今も心に刻まれる先代・若乃花の教え

―いい時代ですね~。

 いい時代だったよ。初めて金星を上げた時は焼肉屋さんで祝ってもらったんだけど、机に箱が置いてあって。開けたら、キンキラキンのダイアモンドが入ったロレックスですよ。なくしたら大変だから、夜はひもで縛って寝ていましたね(笑)。

―それも良き時代のエピソードだとして、相撲界にいれば安泰だったのにリングに向かったのは、やはりロマンを求めて?

 それはありますね。親方になって部屋を維持していくのは自分には向いてないという面もあったけど、相撲で自分がやってきたことがどこまで通用するのか興味があった。

―「RIZIN」には桜庭和志選手、高阪剛選手といった同世代の選手たちも復活しますが、励みになりますか?

 なりますね。これは僕が勝手に思ってることですけど、自分たちがやってきたことは間違っていなかったという証拠なんだと思うんですよ。まだ必要とされている、また見たいって思ってくれる人がいるっていうのは。

―前回のサップ戦は瞬間最高視聴率43%を記録した。これは誇りに思ってますか?

 もちろん誇りに思っているけど、それよりも僕たちの仕事は夢を売る商売だから、「もう一回見たい」って言われる喜びのほうが大きい。先代の若乃花さんからも「勝ち負けも大事だけど、お客さんから15日間見たいって言われる相撲を取れ!」って教え込まれていたものです。

今、世の中は勝ち組とか負け組とか実力主義になっているじゃない? 大晦日はもちろん勝ちにいくけど、白黒つけるだけが人生じゃないんだっていうことを試合で示したいですね!

■曙太郎 1969年生まれ、アメリカ・ハワイ州出身。外国人として初の横綱となり、若乃花、貴乃花の最大のライバルとして大相撲人気を支えた。2001年に引退。03年に大相撲協会を辞しK-1に参戦。現在はプロレスラーとして活躍中

■「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX2015 さいたま3DAYS」 12月29日(火)、31日(木)/さいたまスーパーアリーナ フジテレビでの中継は、29日(火)21:00~23:13/31日(木)19:00~23:45 最新情報はコチラ

(取材・文/“Show”大谷泰顕 撮影/保高幸子)