前回王者・青山学院大の連覇か!? それとも東洋大や駒澤大などライバルがリベンジするのか!? 昨年度まで早大を率いた名将・渡辺康幸氏(現・住友電工陸上競技部監督)に聞いた!
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近年の箱根では優勝候補の本命がなかなか勝てていません。その理由は、大会が近づくにつれてマスコミ、関係者から様々な重圧がかかり、地に足がつかない状態でスタートラインに立ってしまうから。やはり、他の大会とは注目度がケタ違いなんです。
今回、連覇を狙う青山学院大にとっても、その重圧を乗り越えられるかが一番の課題になるでしょう。
選手層という面で見れば、やはり1万m28分台の選手が11人もいる青学大が抜けています。ただ、パンチ力のある“ゲームチェンジャー”は久保田和真(かずま)君(4年)と一色恭志(いっしき・ただし)君(3年)のふたりだけ。実際、11月の全日本大学駅伝も勝てなかった。駅伝はそう単純ではありません。
その青学大のカギを握るのは“山の神”こと神野(かみの)大地君(4年)。故障明けの全日本では本来の走りから程遠かった(最長8区で区間8位)。彼がどこまで調子を取り戻せるか。前回優勝の立役者で主将でもある彼を、原晋(すすむ)監督は「昨年ほどのタイムじゃなくても…」と考えていることでしょう。
ただ、神野君が凡走となれば流れが悪くなりますし、精神面でチームに与える影響も大きい。難しい判断になりますが、彼が万全の状態でスタートラインに立てないのならば、山上りの5区は橋本崚(りょう)君(4年)を起用してしのぎ、平地勝負と割り切って考えたほうがいいと思います。
青学×駒大×東洋大の3強対決
その青学大のライバルとなるのは駒澤大と東洋大。“3強”による優勝争いになります。
駒大の大八木弘明監督は、5区に力のある大塚祥平君(3年)の起用をほのめかしていますが、個人的には前回ブレーキとなった馬場翔大君(4年)のリベンジを見たいです。そして、大塚君を2区に回し、ダブルエースの中谷圭佑君(3年)を1区、工藤有生(なおき)君(2年)を3区と並べれば、3区終了時点で十分トップに立てる。4区にも今季好調の其田(そのだ)健也君(4年)がいるので、うまくいけば後続の選手が余裕を持って走れるリードを奪えるかもしれません。
11月の全日本で勝った東洋大も、先行逃げ切り狙いになります。服部弾馬(はずま)君(3年)と服部勇馬(ゆうま)君(4年) の服部兄弟を1区、2区に、全日本で3区区間賞の口町(くちまち)亮君(3年)を3区に、同じく全日本で好走した(4区・区間5位)櫻岡駿(しゅん)君(3年)を4区に起用するでしょう。5区さえしのげれば、得意の接戦に持ち込めるはず。
全日本では各選手が残り2㎞くらいから実業団並みのラストスパートを見せて青学大を突き放し、もしくは抜き返し、精神的なダメージを与えました。東洋大は練習やミーティングから“競り負けない”走りを徹底して意識させています。今回の箱根も全日本同様の展開に持ち込みたいところです。
“3強”崩しの可能性があるのは、早稲田大と東海大の2校。早大は前回経験者が多く残っていますし、山下りの6区には前回区間賞の三浦雅裕(まさひろ)君(4年)というスペシャリストもいます。過去2年連続で2区を走っている主将の高田康暉(こうき)君(4年)が復調していれば面白い存在になるでしょう。
ここ1、2年、有力高校生のリクルートに最も成功し、「2年後の王者」といわれる東海大も粒がそろっています。
今回、私は久しぶりに外側から大会を見るわけですが、やはり独走よりは見応えのある混戦を期待したいですね。
●渡辺康幸 1973年生まれ、千葉県出身。現役時代は市立船橋高、早稲田大、エスビー食品のエースとして活躍。2004年から早大駅伝監督に就任し、10年度には学生駅伝3冠を達成。15年度より住友電工陸上競技部の監督を務めている
(取材・文/折山淑美 撮影/村上庄吾)