清原容疑者の一件も氷山の一角にすぎない

元プロ野球選手の清原和博容疑者が、覚せい剤所持の疑いで現行犯逮捕された。

確かに以前から噂はあった。また、僕は20年以上前に一度だけ一緒にお酒を飲んだことがあるけど、彼に特別な思い入れがあるわけじゃない。それでも、あれだけの大物が逮捕されるというのはやはりショックなことだ。

ただ、残念だけど、これはスポーツや芸能の世界では“よくあること”。一時代を築いた人物が、薬物や賭博やお酒などで身を持ち崩したケースは日本でも世界でもこれまでにごまんとあったよね。清原容疑者の一件も氷山の一角にすぎない。

今回に限らず、何か事件が起こると「スポーツ選手は世間を知らなすぎる」という指摘を聞くけど、その通りだと思う。小さい頃から野球やサッカーという狭い世界しか知らずに育ち、プロになって大金を手にして周囲にチヤホヤされる。そういう人間のところには、どうしても悪い人間が近寄ってくるもの。

また、スポーツ選手の場合は引退後に現役時代とのギャップで悩むケースも多い。本人は気をつけていたつもりでも、いつの間にか後戻りできなくなっていた、というパターンが多いんじゃないかな。

サッカー界でも、マラドーナを筆頭に多くのスターがトラブルを起こしている。中でも僕が思い出すのは、ブラジル代表でペレと並ぶスーパースターだったガリンシャだ。ひとりで相手DFを何人もかわし、ゴールまで決める名ドリブラー。W杯連覇(1958年スウェーデン大会、62年チリ大会)の立役者で、僕にとっても憧れの選手だった。

選手たちのプライベートも監視すべきか?

ところが、元々、私生活が荒れていた上に、引退後はアルコール依存症を患い、49歳の若さで亡くなってしまった。もちろん、その間、周囲は何度も救いの手を差し伸べている。お金に困ったガリンシャを見かねたかつてのチームメイトが、生活資金捻出のために記念試合を行なったこともあった。でも、彼が立ち直ることはなかった。一度堕(お)ちると、それだけ元に戻るのは大変ということ。怖いよね。

実はJリーグが誕生した頃、僕はあるクラブから「選手たちの生活が乱れている。プライベートも監視すべきか?」と、アドバイスを求められたことがある。実際、僕の耳にも悪い噂は入っていた。何か大きな問題が起きてもおかしくない状態だったと思う。

とはいえ、プロの選手を子供扱いすべきではない。だから僕は練習を午前9時開始にしたらどうかと提案した。当時、練習は午後からというクラブが多く、朝まで飲み歩いても昼までには回復すると考えていた選手が多かったからだ。効果はテキメン。今はどのクラブも午前中に練習を行なっている。

その点、ナイターの多いプロ野球の選手は、どうしても夜型の生活になり、お酒の付き合いも増えてしまうという難しさがあるのだろう。

話をJリーグに戻せば、今やリーグやクラブが選手に研修や講習を受けさせるなど教育も行なっている。また、プロ野球ほど高額の年俸をもらう選手の数も多くない。単純比較でいえば、“悪い誘惑”は少ないはず。

ただ、それでもやはりプライベートまで管理するのは無理。また、引退後のセカンドキャリアの問題もある。だから、今回の清原容疑者の一件は"対岸の火事"じゃない。サッカー界もしっかりと受け止めないといけないよ。

(構成/渡辺達也)