昨年、厳しい内角攻めを乗り越えてトリプルスリーを達成した山田。相手バッテリーの配球傾向について試合後に押尾氏のレクチャーを受けていたという 昨年、厳しい内角攻めを乗り越えてトリプルスリーを達成した山田。相手バッテリーの配球傾向について試合後に押尾氏のレクチャーを受けていたという

就任2年目の真中満監督を中心に、着々と開幕への準備を進めるヤクルトに連覇の可能性はあるのか? 開幕の巨人戦では思わぬ3連敗を喫しスタートでつまずいたが、そのカギを握るのが、実は新たにベンチ入りしたある人物だという。

昨年以上に緻密な野球を目指すヤクルトは、今年から選手以外にもベンチに“新戦力”を投入している。

「今年のヤクルトは、これまでなかった『戦略コーチ』というポストを新設。昨年までスコアラーとしてベンチ入りしていた押尾健一氏が、従来の役職と兼務する形でその任に就きます」(スポーツ紙・ヤクルト担当記者)

押尾コーチは1971年生まれの44歳。千葉・成東高校時代はエースとして同校初の甲子園出場を達成し、89年ドラフト4位でヤクルト入団。しかし、選手としては一軍未勝利に終わり、99年の引退後は打撃投手兼スコアラーとして裏方稼業に徹してきた。ちなみに、妻は元タレントの相川恵里である。

そもそも、押尾氏が長年務める「スコアラー」とはどんな仕事なのか?

「スコアラーの役割は、大きく『チーム付』と『先乗り』に分かれます。『先乗り』は、キャンプインからシーズン終了まで他球団に密着し、各選手のデータを収集・分析して、攻略の糸口を探る。選手のチーム内での立場や人間関係、私生活まで調べるケースもあり、マスコミに“007”とも呼ばれる仕事です。

一方、『チーム付』はその名の通り、自分のチームに帯同。先乗りスコアラー陣を取りまとめ、情報を吸い上げる役割を担います」(前出・ヤクルト担当記者)

押尾氏は昨年、真中監督の就任とともにチーム付の「戦略担当スコアラー」となり、バッテリー、野手それぞれのミーティングにも参加。相手打者の攻略法や、相手投手に対しての狙い球の絞り方などを指示してきた。

「真中監督は押尾氏をコーチ会議に参加させ、選手たちにも『押尾の言うことはコーチと同じだと思って聞いてくれ』と伝えました。試合中、押尾氏は円陣を組んで野手に『低めを捨てる』『内角球を狙う』などと方針を示すことも多かったのですが、打撃コーチではなく、スコアラーがこうした指示を出すのは異例。12球団でもヤクルトだけでしょう」(前出・ヤクルトOB)

選手個々もサポート、山田にも影響大!

これだけ真中監督が信頼を寄せるのも、押尾氏の確かな分析力あってのこと。それが垣間見えたある試合について、セ・リーグ某球団のスコアラーはこう指摘する。

「昨年7月21日、ヤクルト打線は開幕から3戦3敗と苦手にしていたDeNA・三浦大輔を打ち込み、初めて土をつけた。それまでは手元で曲がる変化球に詰まらされるなど窮屈な打撃をしていたのですが、この試合では各打者が打席での立ち位置を微妙に変え、センター方向への打撃を意識していたように見えました。押尾氏の分析、指示が功を奏したのでしょう」

また、押尾氏はチーム全体への指示だけでなく、選手個々に対するサポートもたびたび行なっていたという。特に、2年連続のトリプルスリー(3割、30本、30盗塁)を目指す山田哲人には、かなり具体的なアドバイスをしていたようだ。

「昨年、山田は執拗な内角攻めを食らうなど、ひとりだけ違う攻め方をされることも多かった。そのため、押尾氏は試合後、配球について山田にマンツーマンでレクチャーすることもありました。山田は気持ちの切り替えが上手だとよく言われますが、押尾氏による“アフターフォロー”も欠かせない要素だったんです」(球団関係者)

今年、満を持して「戦略コーチ」となった押尾氏は、オープン戦の試合中のベンチでも真中監督と横に並んで会話する光景が昨年以上に目立つ。この人事によって、ヤクルトの野球は具体的にどう変わるのか?

『週刊プレイボーイ』14号(3月19日発売)では、虎視眈々(こそたんたん)と連覇を狙うヤクルトの新たな変化に迫った「ヤクルトが新設した“戦略コーチ”って何する人」を特集。さらに詳細に分析しているにでお読みください。

(撮影/小池義弘)