サッカー界の伝説、ヨハン・クライフが3月24日に68歳でこの世を去った。彼がサッカーにもたらした革命とは何か? その“天才エピソード”を探ってみたい。
■常識とは違う天才の発想
『クライフ哲学ノススメ』(サッカー小僧新書)の著書もあるスポーツライターの木崎伸也(きざき・しんや)氏は、クライフの偉業についてこう話す。
「彼が登場する60年代後半以前のサッカーは、攻撃と防御が分業された“個対個”の戦いでした。その常識を変えたのが、オランダの名門アヤックスで生まれた『トータルフットボール』。ポジションに問わず全員が攻撃・守備に参加するそのサッカーは、まるで美しく連動するひとつの生き物のようでした。そして、この戦術を体現したのがクライフだった。頻繁(ひんぱん)にポジションを変え、チームメイトに常に指示を飛ばし、自らゴールも決める。その姿はまさに『ピッチ上の監督』でした。
現役を引退して指導者になってからも大活躍。80年代後半からはFCバルセロナを指揮し、素早いパス回しとピッチを広く使う攻撃サッカーで、チームをリーグ4連覇に導いた。今、バルサは世界最強のクラブとして知られていますが、あの攻め倒すサッカーの基礎をつくったわけです。
彼の天才的な発想は世界中の選手や監督に影響を与えましたが、それを実践できたチームはほとんどない。クライフが理想とする攻撃サッカーを実現できたのは、やはりバルサぐらいだと思います」
そんなクライフのサッカー観は、どれも“常識とは違う”ものばかり。例えば、こんなエピソードがある。
高いテクニックを重視するクライフは、選手に運動量を求めなかった。特に攻撃の中心になるMF、いわゆる“10番”の選手が動きすぎるのを嫌った。
「走り回るのはポジショニングがよくないからだ。走れば走るほど、サッカーのクオリティは落ちる」
前出の木崎氏が続ける。
「だから、クライフは『ボールを動かせ。ボールは疲れない』と、よく口にした。チームの中心選手イニエスタが試合中に走った距離が7kmと知り、彼を褒(ほ)めちぎったこともあります」
現在、選手の1試合当たりの平均走行距離は10kmから11kmほど。運動量の多さが求められる現代サッカーで、7kmしか走らない選手を激賞する。これも「クライフ伝説」のひとつといえる。
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