4月17日、愛知県・日本ガイシホールで開催される「トップ Presents RIZIN.1」に“赤いパンツの頑固者”田村潔司が出撃する。ヴァンダレイ・シウバと組み、桜庭和志&所英男とグラップリングダブルバウト(組み技限定のタッグマッチ)で対戦するのだ。
ライバルたちへの思い、46歳の今も闘い続ける理由…田村が本音を語った! そして、シウバにもショートインタビューで直撃!!
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―このインタビューの前に行なった公開練習で、シウバ選手はサッカーボールキックや踏み付けを繰り出していました。2002年のPRIDEにおけるシウバ戦が胸に去来しましたか?
田村 いやいや、もうヴァンダレイも39歳でしょ。僕もそうだけど、若い頃のギラギラした感じはもうないから。同級生に会ったような心境で、いい意味で握手もできるよね。
―対戦する桜庭選手に対しても同じような感覚ですか?
田村 同じような気持ちもあるけど…。
―同い年ですが、ふたりがかつて所属したUWFインターナショナルでは田村選手が先輩ですよね。
田村 僕のほうが先輩ですけど、同じ釜の飯を食った先輩・後輩の間柄で、向こうが気を遣う部分もあると思いますよ。
―昨年末の「桜庭和志vs青木真也」戦はどう思いましたか? いろんなものを感じたんじゃないでしょうか?
田村 まあ、そうですね。やっぱり昔の仲間がああいう形でボコられるのを見ると気分はよくなかった。純粋にサクを応援していたし。結果は仕方ないけど、桜庭の絶対的な価値っていうのは変わらないと思うんです。でも、僕のこういう発言を聞いて、サク本人が「大きなお世話」と思うのであれば、「やられてよかったね」と言うしかないけど(苦笑)。こうやって質問されたら答えるけど、(桜庭が)嫌がるのであれば、本当は喋りたくないんですよ。
―では、青木選手に対する気持ちは?
田村 別になんとも思ってないです。仮に「青木戦をやりたいか?」と聞かれても、興味はない。全ては“流れ”なので。こっちがやりたいと思ってもやれない時はやれないし、やりたくなくてもやらなきゃいけない時もあるし。それは誰かが裏で仕切ればいい。
RIZIN出場は「自分への罰ゲーム」
―田村選手の参戦発表会見では、いきなり高田延彦RIZIN統括本部長がハグしてきて、榊原信行RIZIN実行委員長もそれに続き、三者でのハグになりました。田村選手は、かつての師匠である高田さんの引退試合の相手を務めてもいるし、高田さんも感慨深かったんでしょうかね?
田村 そうですね、マスコミ向けのパフォーマンスでもあったでしょうが、高田さんのハグは僕に対する最大限の賛辞と、良いほうに受け取ります。恐縮もしますが、不思議な感覚です。
―榊原さんは目頭が熱くなっていたように見えました。
田村 ホントに? 榊原さんは桜庭やヴァンダレイへの思い入れが強いだろうし、なかなか言うことをきかない僕がそこに加わったので、そういう気持ちになったのかもしれないね。
―かつてPRIDEで「田村vs桜庭」を実現したくてもできなかったので、熱い思いがこみ上げたのかも。
田村 僕も桜庭もヴァンダレイも、ひと山越えた選手。(MMAルールで)やるのを見たいかどうかと言ったら、僕自身の気持ちは半々…だから、今回みたいなグラップリングのダブルバウトというのは、すごく新鮮だと思いますね。
―田村選手は年明けにミャンマーで試合をし、3月には「巌流島」に出場。そして今回の「RIZIN」と、早くも今年3戦目になります。ここ数年と比較すると驚異的なペースの試合数ですね。
田村 ミャンマーは別として、「巌流島」の谷川さん(谷川貞治・元K-1プロデューサー)と「RIZIN」の榊原さんのふたりは、格闘技の井戸を掘った人ですから。たまたま自分の中で流れが合ったということもありますが。
―とはいえ、今回は「巌流島」で負ったケガ(顔面骨折)を押しての出場になります…。
田村 「巌流島」で不甲斐なく負けてケガもして、その直後は「あ、もうRIZINはムリだ」って思ったんですけど、数日経って心を落ち着けた後に、これは自分に対する“罰ゲーム”として出ようと。
―罰ゲーム!?
田村 自分に罰を与えるという意味と、榊原さんたちに花を添えるという意味で。他にも理由はありますが、このふたつの要素が大きかったんですよ。まあ、大人になったっていうか…ちょっとだけね(笑)。今はこうしてオファーをもらって、ありがたいという気持ちもあります。
「負けた姿を子供たちに見せられたことはすごく良かった」
―闘う理由として、父親になったことは大きいですか?
田村 (即座に)はい、それは大きいです。5歳と2歳、ふたりの息子がいるんですけど、父親の闘う背中を見せたいので。どっちかって言うと、惨(みじ)めな姿を見せたいっていうのがある。
―惨めな姿を…?
田村 「巌流島」の1試合目は勝つ姿を見せられたけど、そればっかりだとね…。2試合目はボコボコにやられてちょうどよかったんじゃないかな。(顔面が)陥没していたけど、子供の目を見て「こういう闘いもある、だから負けちゃダメだよ」って言ったんです。子供たちが特撮ヒーロー番組を見て「パパのほうが強い?」って聞いてくると、「強いよ、楽勝。右手一本だよ」って答えてるんですけど、実際の試合ではそうはいかないから。負けた姿を見せられたことはすごく良いことだと思うんですよ。
―深いですね~!
田村 立嶋さん(立嶋篤史=44歳で現役続行するキックボクシング界のカリスマ)親子の影響もあります。僕も2歳の息子がもう少し大きくなるまで頑張りたいなって気持ちですね。息子たちは 「RIZIN」の会場にも来ます。僕の勝つ姿なり負ける姿なり、彼らの記憶に残すことが父親の役目。僕自身の父親像があるので、それを息子たちに押し付けます(笑)。僕もいつかは死ぬ時が来る。その時に彼らの頭の片隅にでも「お父さんの闘う姿」を記憶しておいてもらえたらって思います。
●田村潔司(たむら・きよし) 1969年生まれ、岡山県出身。第二次UWF、UWFインターナショナル、リングスを経て、2002年からPRIDEに参戦しヴァンダレイ・シウバ、吉田秀彦らと激闘を繰り広げた。その後はHERO’S、DREAMに参戦し、08年大晦日は桜庭和志と対戦し判定勝利。最新情報は所属ジム「U-FILE CAMP」オフィシャルブログにて(【http://田村潔司.com】4月末に開設予定)
続いてヴァンダレイ・シウバに、田村への思いや試合への意気込みを聞いた!
シウバ「反則の踏みつけが出てしまうかもしれない」
―シウバ選手は、田村選手を「ストロングウォリアー」と評していましたが、かつての闘いを覚えていますか?
シウバ とてもよく覚えているよ。何度殴っても、流血しても立ち上がって向かってくる、非常にタフなハートを持っている選手。私はそういう選手が大好きだ。
―「RIZIN」には桜庭選手、高阪剛(こうさか・つよし)選手らレジェンドファイターが参加していますね。
シウバ とても良いことだと思う。全盛期を過ぎていたってファイターの活躍を見たいというファンはたくさんいる。レジェンドがみんな戻ってきてくれたらいいね。
―今回のダブルバウトという試合形式についてはいかがですか?
シウバ 興味深いコンセプトだし、自分にとっては新しいチャレンジ。ファンが楽しめる、良いものが出せると思います。
―プロレスのタッグマッチでは、味方が不利な状況の時、タッチなしでリングに入っていって敵を蹴りつけたりする「カットプレー」というものがあるんですよ。
シウバ それは素晴らしい!!
―もちろん反則を取られるだろうけど、シウバ選手お得意の踏みつけによるカットプレーを期待するファンもいるかも(笑)。
シウバ 試合では何が起きてもおかしくないから、もしかしたら出てしまうかもしれないね(ニヤリ)。
―ところで、同じブラジル出身の女性ファイター、ギャビ・ガルシア選手が年末の「RIZIN」でMMAデビューしました。彼女はシウバ選手から練習で一本取ったという伝説があるのですが、本当ですか?
シウバ フフフ、練習は練習、試合は試合。両者は全くの別物だよ(微笑)。
―グラップリングの試合なら、シウバ&ガルシア組という「ブラジル最強男女タッグ」もアリじゃないですかね?
シウバ 面白いね! 僕的には問題ないよ。もし相手チームがふたりとも男性だったとしても勝てると思う!
●ヴァンダレイ・シウバ 1976年生まれ、ブラジル・パラナ州出身。桜庭和志戦3連勝をはじめ、ダン・ヘンダーソン、クイントン“ランペイジ”ジャクソンら数々の強豪を撃破した元PRIDEミドル級王者。UFC参戦を経て久々に日本のリングに登場
●『トップ Presents RIZIN.1』 4月17日(日)/日本ガイシホール/14:00開場 15:00開始 ※対戦カードなど最新情報はRIZINオフィシャルHPにて
(取材・文/“Show”大谷泰顕 撮影/保高幸子)