サンフレッチェが独自に発表したサッカー専用新スタジアムの完成予想図。市民球場跡地に約2万5千人収容となる (C)サンフレッチェ広島 

「ただの“サッカーいじめ”だ」「ここまでひどい扱いを受けるなら、もはやホームタウン移転も視野に入れるべき」ーー。

サポーターの間ではそんな過激な発言まで飛び交っている。過去4シーズンで3度の優勝を誇るJリーグの雄、サンフレッチェ広島が新ホームスタジアムの建設候補地をめぐり、地元行政と激しく対立。果たして、広島で何が起きているのか!?

まず経緯を簡単に説明しておこう。2012年、サンフレッチェは後援会、広島県サッカー協会の3者で、市中心部からのアクセスが悪く、老朽化も目立つ現在のエディオンスタジアム広島に代わる新競技場建設のための要望書を広島県と広島市に提出。翌13年には県、市、県商工会議所、県サッカー協会による「サッカースタジアム検討協議会」が発足した。

ところがこの協議会では、使用する当事者のサンフレッチェや県サッカー協会からの参加委員が、当初からJR広島駅に近い旧広島市民球場跡地での建設を希望していたにもかかわらず、なぜか一部委員が建設地を海沿いの字品(うじな)地区の広島みなと公園にすべく、議論を強引に誘導した。

結局、2ヵ所を併記する形で14年末に最終報告書がまとめられたのだが、そこにはみなと公園案のほうが50億円ほど安く建設できて有利だと示されていた。

ただ、この数字にはトリックがあった。みなと公園は広域防災拠点となっており、スタジアムを建てるとなると、代替地を確保しなければならない。ところが、そのコストはみなと公園案の建設費に含まれていないのだ。

さらに、最終報告書で試算された両案のスタジアムは3万人収容となっている。市民球場跡地周辺には建造物の高さ制限があって、3万人規模の競技場を造るとなると地盤の掘り込みが必要になり、それにかかるコストが上乗せされるため、市民球場案は建設費がかさむというのが報告書の指摘だ。

しかし、サンフレッチェや県サッカー協会からの参加委員は協議会において、2万7千人収容程度で十分であり、その規模だと掘り込みの必要がない分、低コストで済むと一貫して訴えていたのだ。

これだけでも公平な検討がなされていないことがわかろうというものだが、昨年7月には県知事、市長、商工会議所会頭の3者会談でみなと公園案が優位だと確認されるなど、行政側ではみなと公園での建設が既定路線であるかのような流れが見え始めるようになった。さらに今年に入ると、サンフレッチェが蚊帳(かや)の外に置かれたまま、3月末までに候補地が正式決定されるとの報道まで出てしまう。

事ここに及び、危機感を募らせたサンフレッチェは3月3日、独自のスタジアム建設案を発表した。

仮称は「Hiroshima  PeaceMemorial Stadium」。収容人数は約2万5千人。この規模だとコンパクトに造れるので掘り込みの必要はない。しかも、県や市 からの出資、つまり税金を一切仰がず、サンフレッチェの久保允誉(まさたか)会長個人と、久保会長が代表取締役であるメインスポンサーのエディオンが拠出 する40億円と寄付金を募る形で建設費用を賄(まかな)うという。

外観上の最大の特徴は、アウェーゴール裏のスタンド上部が取り除かれ、スタジアム内から原爆ドームが見えるようになっている点。仮称の中にもあるとおり、スタジアム構造自体に平和へのメッセージが込められているのだ。

地元住民の大多数が市民球場跡地案を支持

左がサンフレッチェが希望する旧広島市民球場跡地(JR広島駅から路面電車で10分程度。国有地であるため使用にあたっての手続きや規制がある)。右が広島市と広島県が推す広島みなと公園(港湾地区にあり、公共交通は路面電車と市バス。視の中心部下rなお移動はシャトルバスを想定するも、周辺は港湾・物流拠点で渋滞の名所)

併せてサンフレッチェは会見で、みなと公園案の場合、その莫大な年間使用料のため、クラブが2年で債務超過となることは確実であり、仮にみなと公園に新スタジアムが造られても、フランチャイズとして試合に使用する考えはないと明言した。

この鮮やかなカウンターパンチによって、県、市、商工会議所は、予定していた3月中の建設地決定を延期せざるを得なくなってしまった。 現在、サンフレッチェの久保会長は建設地の迅速な最終決定のため、自身と県知事、市長、商工会議所会頭による公開の4者会談を申し入れている。しかし、県知事や市長は、まずはサンフレッチェ側が独自案の具体的根拠を示さければ会談には応じられないと、ここでもやはり平行線をたどっている。

そんな状況の中、週プレは広島を訪れ、あらゆる場所で地元住民の声を幅広く集めてみた。まずは、渦中のみなと公園にて…。

「毎年夏にこの辺りで花火大会が開かれるんですが、その時はハンパない混み方。大会終了後は市電(路面電車)をいくら増便しても乗客をさばききれず、結局、広島駅まで2、3時間かけて歩くほうが早かったりするんです。そんな所にサッカー場を造っても、毎試合後に地獄になるのは目に見えてますよ」(中年サラリーマン)

地元の港湾物流業者は、以前からみなと公園案に反対していた。彼らにとって、スタジアム建設は文字通りの死活問題のようだ。

「みなと公園は、広島港の目と鼻の先。しかも幹線となる道路は1本しかなく、今でさえ港に出入りする荷物を運ぶトラックで周辺道路は慢性的な渋滞なんです。そこへ試合のある日はマイカーやシャトルバスが一気に押し寄せるわけですから、車はまるで流れなくなります。物流業界では、予定通りに荷物が運べなかった場合は違約金が発生します。勝手にサッカー場を造られても大迷惑なんです」(港湾関係者)

この日はプロ野球の広島対巨人戦が行なわれていた。マツダスタジアム近くの居酒屋で、カープファンにサンフレッチェの新スタジアム問題について聞いてみた。

「カープはもう25年も優勝しとらんのに、マツダスタジアムみたいなええ球場を造ってもろた。サンフレッチェは4年間に3回も日本一になっとるのに、満足のいくスタジアムがないのはちょっと間違っとりゃせんか。好きな場所に好きなスタジアムを造ったらええんじゃ。市長も確か、『(サンフレッチェが)3回優勝したら造る』とゆうとったはずじゃろ」(イイ感じにでき上がっていたカープファン)

旧市民球場跡地に程近い「広島本通商店街」でも各商店主の意見を聞いたが、「市民球場がなくなって近辺の人通りが減り、商店街も寂しくなった。みなと公園に造るぐらいならここに建ててほしい」(ある商店主)といった声が大部分だった。

★サンフレッチェ案賛成派が多数を占める中、地元行政が「みなと公園」案に固執する理由とは? 明日配信予定の後編では広島県と広島市の担当者を直撃! そちらもぜひお読みください。

(取材協力・撮影/ボールルーム)