サンフレッチェが発表した新スタジアム完成予想図。市民球場跡地に約2万5千人収容でサッカー専用。スタジアム内から原爆ドームが見えるようになっている (C)サンフレッチェ広島 サンフレッチェが発表した新スタジアム完成予想図。市民球場跡地に約2万5千人収容でサッカー専用。スタジアム内から原爆ドームが見えるようになっている (C)サンフレッチェ広島

過去4シーズンで3度の優勝を誇るサンフレッチェ広島が新ホームスタジアムの建設候補地をめぐり、地元自治体行政と対立している。その経緯は前編記事で詳しく伝えた。

広島市と広島県が推すのは海沿いの「広島みなと公園」。市の中心部からの移動はシャトルバスを想定するも、「幹線道路が1本しかなく、今でさえ港に出入りするトラックで周辺の道路は慢性的な渋滞。試合開催日にマイカーやシャトルバスが押し寄せると車はまるで流れなくなります」など、地元住民の多くが難色を示している。

一方、サンフレッチェ広島が示した案は、旧広島市民球場跡地。国有地であるため使用に当たっては一定の規制があるものの、JR広島駅前から路面電車で10分程度、徒歩でも20分圏内とアクセスがいい。「市民球場がなくなって近辺の人通りが減り、商店街も寂しくなった。みなと公園に造るぐらいなら、ここに建ててほしい」(ある商店主)といった声も多く、地元住民は大部分がこちらを支持しているようだ。

だが、市や県はサンフレッチェを蚊帳(かや)の外に置き、半ば強引に「みなと公園」案を推し進めようとしている節がある。地元行政は今後、両候補地をどのような物差しで検討していこうと考えているのだろうか? 広島県庁の作業部会窓口である、都市圏魅力づくり推進課の担当者はこう言う。

「スタジアムの使用は、Jリーグの試合で年間20~30日程度。残りの日は芝の養生の問題もあってあまり施設を活用できず、採算が合わないでしょうから、周辺の施設で儲(もう)けるとか、いろいろ方策を考えないと」

だが、こうした前提の立て方に対し、広島在住のサッカーライター、中野和也氏は同意できないという。

「現在、旧市民球場跡地はグルメイベントなどに使用されていますが、サンフレッチェ案では試合日以外にもコンコースを開放し、例えばランニングコースや飲食店を作ってにぎわいの場を創出しようとしています。また、ピッチの上に樹脂製のパレットを敷きつめれば、芝を傷めずにさまざまな催しに使用することが可能なのはスタジアム管理者の常識。特に旧市民球場跡地は立地がいいので、コンサート会場をはじめ、引き合いが多いでしょうね。だから、今以上にイベントで利益を生み出せる可能性大なんです」

一方、サンフレッチェの久保会長が呼びかけている、県知事、市長、商工会議所会頭を交えた4者会談がなかなか実現しない理由については、広島市役所の作業部会窓口であるスポーツ振興課の担当者がこう説明する。

「3月3日に久保会長が独自案を発表された後、われわれ作業部会は3月8日にサンフレッチェさんを訪ね、両候補地の建設案や実現可能性調査などの結果をすべてお渡ししています。それに対し、サンフレッチェ案の詳細な情報をまずは作業部会に伝えていただき、事務方同士で互いの案をすり合わせ、理解をした上で、必要とあればトップ会談を実施したいのです」

今、求められている行政トップの決断

しかし、サンフレッチェの企画広報部担当者は、呆(あき)れた様子でこう反論する。

「8日に受け取った資料は、我々の発表に先回りするかのように、2月19日に作業部会が突如開いた会見で発表したものです。だから、我々もすでにその資料は入手していました。しかし、そこには各候補地でスタジアムを建設する際、どこからいくら調達するのかという金額さえ記載されていないし、旧市民球場跡地案の収容人数は3万人のまま。資料を持ってきた作業部会の方にそれを尋ねると、『3万人の収容はもう動かせない』と言うんです。

そんな相手に我々のプランの詳細を渡しても、どのように利用されるかわからないし、そもそもサンフレッチェがどんなスタジアムを建てたいのかについては、データ的な裏づけも含め、ホームページ上ですべて公開しています。これ以上、何を教えろというんですか?」

この堂々巡り、いかに決着をつければいいのか?

「行政の側は、なぜ旧市民球場跡地案を頑(かたく)ななまでに排除しようとするのか、逆になぜ問題が山積みのみなと公園にスタジアムを建てるべきと考え、そのスタジアムは具体的にどのようなプランで造られるのかについては何も発信していません。行政側は自分たちのビジョンをはっきり示し、堂々と論陣を張ってサンフレッチェと渡り合えばいいじゃないですか。密室での審議ではなく、県民、市民の誰にでもわかる、オープンな議論にしてもらいたいんです」(前出・中野氏

幸い、風向きは変わりつつある。サンフレッチェ案の発表後、どうやら県庁や市役所にスタジアム建設に関する声が続々と寄せられているようで、作業部会の姿勢が以前とは違ってきているのだ。

「3万人という収容人数にサンフレッチェさんが不満を抱いていたことは我々も認識しています。それに対して作業部会の側が3万人にこだわっていては、いつまでも話が平行線なので、サンフレッチェ案の情報提供をしてもらった上で、柔軟に対応したいと考えています」(県・都市圏魅力づくり推進課

「せっかくスタジアムを造るのなら、皆さんに喜んでもらえるものをと行政の側も思っています。ギスギスした対立の構造はこちらも望んでいません。サンフレッチェさんと一緒にやっていきたいんです」(市・スポーツ振興課

となると、残るは行政トップの決断のみ。4者会談の実現に向け、どうする、湯崎英彦県知事? どうする、松井一實市長?

(取材協力/ボールルーム)