プロ野球開幕後、約1ヵ月。GWのこの時期は家族連れなど観戦するファンの気持ちも浮き立つ。
お目当ての選手の姿を間近で目にする喜び、期待感に胸躍らせ球場に訪れるわけだが、そこで一軍のグラウンドにこの選手がいないことはなんとも惜しい…。
そう、楽天のゴールデンルーキー、オコエ瑠偉(るい)だ。残念ながら先日、二軍落ちとなり、じっくり育成に重点を置く方針となったが、早くまたその躍動するプレーを上で観てみたい! というわけで、開幕直後に『週刊プレイボーイ』本誌が直撃したインタビューを週プレNEWSでお届け。
4月3日、高卒ルーキーながら「2番・センター」でプロ初スタメン出場を果たした試合直後、まだシャワーも浴びていない彼が発した初々しい発言に今後の期待もますますふくらむはずだ!
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楽天期待のルーキー、オコエ瑠偉がホームのKoboスタ宮城で先発デビューを飾った4月3日、仙台の最高気温は19.3℃に達した。まるで初夏を思わせるような陽気に誘われ、バックスクリーン右横のソメイヨシノも平年より10日早く開花。が、オコエの先発デビューは「サクラ咲く」とはいかなかった。
この日は3打数ノーヒット。それでもインタビュールームに現れたオコエは、意外なほど明るく、高校時代と変わらず人懐っこかった。
―プロ初スタメンとしてグラウンドに出た時、ホームのファンから大歓声が湧き起こりました。興奮しましたか?
「それはなかったですね。といっても誤解しないでほしいんですが、僕はオープン戦の時も公式戦の途中出場の時も、ずーっと緊張してたんです。だから初スタメンでも、いつもと同じように緊張していました。言い換えれば、常に興奮しているということなのかも。そもそも一軍に残れるとも考えていなかったですし、一軍キャンプってところから、正直、ビビってたぐらいですから」
―キャンプ序盤は、打席に立っても投手のボールが見えなかったそうですね。
「そこは技術的な問題だと思います。それまではパッと足を上げてパッと足を着いて打ってたので、間が取れてなかった。だから安樂(智大・ともひろ)さんのような速球派の投手の球は全然見えなかった。でも今はしっかり見えてます」
オコエは高校時代から通常とは指の入れる位置の違う特注グラブを使用するなど、グラブの形状には並々ならぬこだわりを持っていた。しかしバットに関しては、割とアバウト。今も試行錯誤を繰り返しているという。
「高校時代から、バットはよくわからないんです。金属バットは何を使っても飛ぶ感じでしたし、それに自分、清宮(幸太郎・早実)じゃないんで(笑)。あいつぐらい打てればバットにもこだわりが出てくるんでしょうけど、僕はまだわからないですね。ただ、木製と金属は全然違う。金属は詰まっても強い打球が打てるのに、木は詰まったら本当にボテボテですから」
謙虚に発言しているつもりなのに「ビッグマウス」と・・・
―キャンプ初日の自分と今の自分を比べたら、もう別人といってもいい?
「はい、打球も前に飛ぶようになりましたし(笑)。ただ、自分の感覚では成長というより慣れ。まだ『つかんだ』といえるものはないですね。あともうちょっと、というところまではきてるんですけど…」
―もうちょっと、というのは?
「ボールは見えてるんですが、自分のスイングスピードとか自分の技術がまだ足りない。だから、打ちにいくととらえ切れないというか」
高卒ルーキーであることを考えれば当然のことだが、キャンプでは打撃をはじめとした複数の課題が浮き彫りになり、また報道もされた。しかし、「自信を喪失したことはない」と言い切る。
「最初っからプロのレベルにすぐ対応できるとは思っていなかったんです。でも、取材の時に『自信を失ったということはない』って言うと『ビッグマウス』って書かれる。逆ですよね。僕は最初からゼロだと思っていたわけですから。そこからはもう上がるしかないので、そもそも失うとか失わないという話ではないんです。
正直、プロのピッチャーのボールに対応できなくて落ち込むってことより、報道で誤解されてシュンとなることのほうが多かった。プロの壁というより、そっちの壁ですね(苦笑)。高校時代、一気に知名度が上がった時、米沢(貴光)監督に試合が終わるごとに『謙虚に、謙虚に』っていう教えをいただいていた。だから、自分自身ではものすごく謙虚に発言しているつもりなんです。なのに…」
―そんなに「ビッグマウス」って書かれましたか?
「結構、書かれてると思います。今まで、自分自身の夢はプロ野球選手になることだった。それを実現できたから、次の夢はトリプルスリー、メジャーリーガーって答える。そうするとビッグマウスって書かれる(苦笑)。でもこれって、メディアの方のとらえ方次第だと思うんです」
確かに。高い目標を掲げることは、決してビッグマウスとは言わない。
オコエは高校時代、「守備と走塁はプロでも即戦力」といわれた。しかし、その見方にこう反論する。
「僕のバッティング、そんなに問題ありました? 高校生の中では最低限は打ててたと思うんですけどね。高校通算37本塁打も高校生としては多いほうですし」
先輩とのキャッチボールですら怖いですから
―フリーバッティングを見ていると、本当によく飛ばしますよね。
「(待ってましたとばかりに)飛ばしますよ! そこは結構、梨田(昌孝)監督にも買っていただけていると思うんです。高校時代は金属バットでしたけど、僕、片手でスタンドに持っていっていた。それでもプロでは『打撃がダメ』っていわれるんですよね…」
逆に、評価の高い走塁に関しては「自分は特別なことをしているという意識はありません」と話す。オコエが脚光を浴びたきっかけは、昨年の東東京大会の決勝で、センター正面へのゴロで二塁まで到達した「センター前二塁打」だった。
「あれは大きめにオーバーランをして、そのまま行けました、というだけの話です。試合中は疲れているので、僕の50m走のタイムは6秒4ぐらいになる。それより速い人なんて、いっぱいいますよね? だから、あのセンター前二塁打は誰でもできるんです。普通だと思わないですか?」
―ストライドの大きな走法のせいか、タイムよりもだいぶ速く走ってるように見えますが…。
「でも計ったら、そんなに速くないです。身体能力が高いっていわれて入ったのに、同期の堀内(謙伍・けんご)より足が遅かったって新聞記事に書かれたんですけど、僕は最初っから速くないって言ってるんですよ!(笑)」
同じく高評価を得ている守備に関しても、実に初々しいことを言う。
「先輩とのキャッチボールですら怖いですね。だって、今までTVで見てた人に向かって投げるんですよ。けっこうビビります。松井稼頭央(かずお)さんに投げるんですから。ちゃんと胸に投げなきゃいけないって思うじゃないですか」
気分転換といえば、大好きなクラブミュージック系の音楽を聴くことぐらいで、今は寮と球場を往復する野球漬けの日々だ。
「毎日楽しいです。楽しいことやってるんで、疲れないんですよ。苦にならないっス」
試合前の練習中、グラウンドにOBで解説者の塩川達也氏が現れると、先輩に促され、外野からネット裏までダッシュ。丁寧に頭を下げてあいさつをすると、塩川氏のほうがびっくり。それを遠くから見て先輩連中は腹を抱えて笑っていた。そんな様子からも、オコエがチーム内でいかにかわいがられているかがわかった。
これが自分の今の力。悔いはありません!
「先輩との関係も大事。一番下ですから」
目上の人間に敬意は払うが、譲れない自分も持つ。
「コーチとか先輩に聞きたいことは積極的に聞きに行きますが、言われたこと全部を吸収しようとはしてない。そこから自分に合うものだけをチョイスしている。そこは、自分をしっかり持っていないといけないと思うので」
インタビュー中盤までは、常に前向きで明るいオコエだったが、「毎日、楽しいと言ったけど、逆につらいと感じることはありますか」と問うと、本音がポロリ。
「やっぱ、結果が出ないことっすかね…」
―つらい?
「つらいっすね…。あれだけファンの方に応援していただいて、期待されていることも身に染みてますし」
3タコに終わったプロ初スタメンの試合後、「オコエは何分咲きですか?」と問われた梨田監督は「まだ二厘か三厘(あるいは2輪か3輪の意味?)しか咲いていない」と手厳しい評価。オコエも思わず苦笑いを浮かべる。
「一分もいってない…(笑)でも、これが自分の今の力。そういう意味では、悔いはありません!」
―辛辣(しんらつ)な報道にも、今のままの明るさを失わず頑張ってくださいね。
「はい。ビッグマウスとか書かないでくださいよ!」
書かないですよ!
(取材・文/中村 計 撮影/下城英悟)
●オコエ瑠偉(OKOYE LOUIS) 1997年生まれ、18歳。東京都出身。ナイジェリア人の父と日本人の母を持つハーフ。小学6年生から読売ジャイアンツジュニアでプレー。関東第一高校では2年春からベンチ入りし、3年夏の甲子園ではチームをベスト4に導く。15年、ドラフト1位で楽天に入団した