あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』。
第23回のゲストで東北楽天ゴールデンイーグルスの前監督・デーブ大久保さんからご紹介いただいたのは元プロ野球選手・参議院議員の江本孟紀さん。
阪神タイガースを電撃引退後、プロ野球の解説を長年務め、政界にも進出。その軽妙な毒舌トークと甘いマスクで幅広い人気を得た“Mr.ダンディ”も来年で御年70!の大台を迎えるが、変わらぬ見た目の若さとともにますます壮快なようでーー。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)
―デーブさんに続き、また週プレが長年お世話になってきたお友達のような江本さんに繋がったということで。これも本当にご縁かなという感じですが…。
江本 僕がね、辞めた時(1981年に阪神タイガーズを退団)に当時のプレイボーイの編集さんがね、最初に来たんですよ。
―いきなり週プレで「美女対談」をやっていただいたんですよね(笑)。まさにダンディーでプレイボーイな江本さんが美女と語らうという…。
江本 ワケわからん(笑)。まあ、そういう対談ものってなかったんですよね、TVでもあんまり。今、ものすごく多いですけど。
―「ベンチがアホやから野球がでけへん」発言での電撃引退で話題性もあったんでしょうが。キャラ的にもこの人、喋りもできるんじゃみたいな?
江本 いや…どうかわからんけど。実はTBS出身で演出家の久世光彦(くぜてるひこ)さんもね、うちでやらんかって、その後、3年間くらい対談ものをやったんですけど。なんか、無職で週プレで美女対談とかしてるのもかわいそうだからみたいなのがあったんでしょうね(笑)。
―久世さんに「こいつはできるな」と見抜かれた? 今で言ったら、中尾彬さんが美女相手にツッコんでいるような…普通のインタビュアーでは聞けないこともズバズバ斬り込んでくれるんでは、という期待感も。
江本 いや…喋れなかったんですけどね、そんなに(笑)。まぁでも、こっちはとりあえず食い扶持(ぶち)のためにやってるみたいな意識でしたから。野球の解説だけは一応、本業だと思ってね、きっちりやらなきゃっていうのはあったんですけど。それ以外の仕事は他の世界を見るチャンスかな、くらいのもので。
それまで野球選手って、俗には有名人の範疇(はんちゅう)にいるじゃないですか。世間のおまえらとは違うぞみたいな。そういう意味では、芸能の世界で他にもこんな偉い人がいるのかと思いましたよね。まず一番驚いたのは、ドラマをやった時に「野球以外に監督がいるんか」と。
―ドラマでも演出家のことを監督って呼んでるんだと…。
江本 カメラが5、6台あって、監督(演出家)が立ったら全部ばーっと集まってきてね、あれこれ指示するわけです。これ全部仕切ってね、監督ってすごいなと。そういうのは新鮮でしたね。
―野球ではスターで“お山の大将”になりがちなところを謙虚になれた?
江本 まぁ、それもギャラをくれるからやっただけなんですけど(笑)。だから内心では、役者になろうとかないしね。それはプライドが許さんというか、それこそ「俺は野球のスターだ」みたいな(笑)。そういう妙なプライドは持ちつつも、スター性はどんどん崩れていくし。この世界もすごいぞと。
「王さんなんか、2、3億もらってたね」
―違う世界を経験すると、リスペクトも生まれて考え方が変わりますよね。
江本 だから、そもそもは美女対談のおかげなんですけどね。すごい人と会って話をしてるうちに違う世界があるっていうのがわかってきてね。で、あるドラマの時ですよ、池部良さんという大俳優がいて、控え室でみんなでお茶飲みながら雑談してたら「キミはなんでこんなことやってんだね?」って言われたんです。
それで、照れ隠しもあったんですけど「いやいや、ほんまはちょっと暇つぶし的なもので…」みたいなことを言ったら、「ふざけんじゃねえ、この仕事を暇つぶしでやられたら困る!」って、えらい怒られてね。
―往年の二枚目役者で俳優協会の会長さんまでやられた方ですからね。
江本 すごいなと思いましたよ。でも実際、そういう芝居だとかドラマにも相当出ましたけど、全くやる気はなかったからね、はっきり言って(苦笑)。だから、食うためですよ。路頭に迷ったらのことで。
そもそも最初もね、8月に阪神辞めて、だんだん懐(ふところ)が淋しくなって。で、ご存知のように雑誌のギャラって1回出てもしれてるじゃないですか(笑)。生活するほどにはね。やっぱり金がなくなるっていうのは恐ろしかったんですよ。
―でも南海(ホークス、現ソフトバンク)から阪神とエース格できて、当時は今ほど高額契約の世界ではないとはいえ…蓄えもなく宵(よい)越しの金を持たないタイプだったんですか?
江本 独身時代は大体3日ぐらいですね、給料もって。それで、結婚して子供もできたりすると家庭がありますから。そりゃ多少、生活費はあるけど…今の選手は辞めたらもう、信じられない金持ってるでしょ、億以上、ひと桁上のね。成績は俺の半分で、年俸は10倍だからね(笑)。
―(笑)、王(貞治)さんがハンク・アーロンの世界記録を抜いて大フィーバーだった昭和52年くらいに年俸8千万超えで驚いて。80年代半ばに落合(博満)さんが初の1億円プレイヤーになって、また騒がれましたけど。
江本 王さんなんか、とっくにあの人は2、3億もらってたね、本当のところは。野村(克也)さんが言ってたもん、「俺が南海の時も実は1億くらいもらってたんだよ」と。ってことは、王さん、長嶋(茂雄)さんはそれ以上でしょ? で、表向きは他の選手を抑えるためにね。とばっちり受けたのが堀内(恒夫)とか、今だったら3、4億もらえる連中がわずか700、800万とかね。
―あの、これは原稿チェックされるんですか?(笑) 最近それを求められることも多くなってますけど(苦笑)。
江本 いや、僕はしないです。こっちからは全くしないですから。勝手に消してください(笑)。
「アホだったからアホだって言ったんだよ」
―勝手にって…(笑)。でも最後に僕がお話しさせていただいたのが、実は府知事選に出られた直前の立候補インタビューで、もう12年前になるんですが。その時もチェックされた覚えないですしね。
江本 そこはね、単に面倒くさいんですよ(笑)。もう言ったことはしょうがねぇだろみたいなのもあるしね。ただ、もちろん信用度の問題もありますよ。一応、相手見ますから。やばいところはやばいしね、多少は…。
―そこは長年のおつきあいもあって、週プレは信用していただいてると(笑)。
江本 そうそう…っていうか、まぁどっちでもいいやみたいな(笑)。いいかげんだから。それほどは深く考えてないわけですよ。そのしょうがないだろうみたいなところでね、そんなの一生の仕事じゃないしと。
だからTVの放送なんかでもね、生が多いでしょ。あれ、聞き直したり見たりしたこと1回もないんですよ。もう言いっぱなしですから。
―だから逆にやれてるんですかね? 振り返らないと(笑)。デーブさんも「江本さんしか、あんな思ったこと言えない」って。今はすぐ自主規制とか発言も守りに入りがちですけど。
江本 全然ですよ。まぁ、違うこと書かれると困るけど…それらしいこと言ったらね、もうしょうがないんです。例の「ベンチがアホやから…」っていうのも、全部そのまま言ったんじゃなくて、断片的なことではね、そんなことかなと。だからどっちでもいいんですよ。それを人によっちゃ、言ってないとか言ったとか。そこの論争しても意味ないでしょ。
―前後の文脈とかニュアンスもありますからね。断片的に取り上げると全く曲解されたりも…。
江本 でも結局は「アホだったからアホだって言ったんだよ」っていうね、あの頃はそれだけのことなんです。ぞれで実際、責任とって辞めてるわけですから。まあ、言った以上、しょうがない。
―しかし、そういう本音勝負というか、何喋るかわからない、ある意味、危ない方をメディアに起用しようっていう時代の面白さもあったんでしょうね。
江本 あの頃、なかなかの人がやっぱりいたんですね、だから。ニッポン放送も最初、解説で雇ってくれたわけですけど、深澤弘っていう名物アナウンサーがね、僕ら関西にいたから東京の人はあんまりよくわかんないところを彼が来て、12月の終わり頃だったかな。「うちで来年やりませんか」と。
「ああいうこと言ったけど、本心は違うでしょ」って言って、深澤さんが推薦してくれてね。そこで上の編集局長は「あんなやつで大丈夫か」って一応言ったらしいんですけど。怖かったらしいですね、やっぱり何言い出すかわからないから(笑)。
それが生放送のラジオでOKになったっていうのは、深澤さんみたいな人がいたからなんですよ。今だったら絶対無理です。もう、ワケもわからないまま怖がっちゃって使わないよね。
「辞めろって言われたらすぐ辞めるんです」
―それでこれだけ長続きされて、地上波で『すぽると』も終了しましたが、まだCSフジで『プロ野球ニュース』をやられていて。他の人に代えられない何かがあるわけですよね。
江本 たぶんね、こいつはいつでも辞めるってオーラを持ってるように思うんじゃないですか、向こうが(笑)。「いつまでもやりたくないよ、こんなもの」みたいな。だから使いやすいんじゃないですかね、逆に。実際、辞めろって言われたらすぐ辞めるんですよ。
―後腐れがないと(笑)。何かあっても、ゴネたり暴露したりだとか…。
江本 そんなの一切しないですから。だから、使う時だけ使っといて、逆に捨てる時はさっとクビにすりゃいいやという、使いやすさじゃないかと思うんですね。
―ただ、それで似たような人はいないわけで…そういうスタンスでズバズバ言えて、しかも視聴者ウケする正論をね。
江本 まぁそれもね、世間に毒舌とかって言われる人がいろいろいるけど、結局、そういう人って答えを言わないんですよ。いろんなこと言うんだけど、肝心な部分は最後まですっと逃げてね。そういう人のほうが重宝されるんです。僕みたいに結論ばっと先出しちゃうとダメなんですよ、本来。やっぱり使われないですから。
―そういえばデーブさんが仰ってたと思うんですけど、他の人がそうだから、視聴者は結論からばっと言ったほうがわかりやすいし食いついてくると。それも先輩の江本さんから学んでるのかなと。
江本 どうなんですかね。要するに、それも僕ね、面倒くさいだけなんですよ。もうどっちやの!?みたいな…人間って迷うじゃないですか。自分もそうなんで、決断も早いわけじゃなく、結局は優柔不断でね、たぶん性格的には二重人格なんですよ。だから先にばーんといって、言ったんだからまぁしょうがないみたいなね。
―また面倒くさいとしょうがないですか(笑)。ただ、それも後であれこれ振り返る人間だったらできないでしょうけど…。
江本 もちろん、考えるのは考えるんですよ。でも結局そういうこともね、自分のことを知らない、話をしたこともない人にはわからないでしょ? 江本って存在を知ってて、どういう人物かっていうのを向こうが決める時に、例えばあいつは毒舌で、この前も悪口言ってたよっていう風に思い込んでるだけでね。何をどういう風に言ったんですかって聞いても答えられない。そういう人種になってるんですよ、僕(笑)。
―イメージというか先入観で勝手に作られて。そこも諦めというか、どうでもいいやと?
江本 そう。だから時々ね、相手をチェックする時があるんですよ。「俺も今日、二日酔いで苦しいけど、どっか一杯飲みに行きましょうか?」とかね。で、「あ、お願いします」って言うやつは僕のこと知らないやつです。酒一滴も飲まないからね。大体、大酒飲みと思ってるんですよ、みんな。もう毎晩、銀座で酒飲んでね、暴れ回ってるとか。江本を知らない人はそう思い込んでる。
「王さん打ってくださいって真ん中投げる」
―それこそ昔ながらの『あぶさん』的な、南海ホークス的なイメージですよね(笑)。
江本 そこがまたね、自分では性格悪いと思うんだけど、そういうの見て喜ぶんですよ(笑)。こいつは人のこともよく見ない単純なやつだな、とかね。そうやって人を評価するところがあるんです。
―それってやっぱりピッチャーの時からそうですか? 意外と小狡(ずる)いというか、バッターとの駆け引きでも「こいつ、こんな性格やな」みたいな感じで読んで…。
江本 そうそう、ものすごい小狡いですよ、それは。あのね、王貞治というとんでもないバッターがいたわけですけど、実はね、一番打たれてないのが僕なんです。
―そうらしいですね。通算打率が1割ほどで被本塁打が1本だけという…。
江本 最大の理由はね、勝負しなかったんですよ。勝負しなきゃ打たれないでしょ? あと、これはまぁ、そこと繋がるんですけど…絶対打たれたくない時、フォアボール出せばいいんですよ。勝負してホームラン打たれたら1点入るからね。フォアボールだと1累しかいけないんです。で、王さん盗塁がないから。次のバッターで勝負すればいいわけ。
それともうひとつはね、これはテクニックですけど、王さん打ってくださいって真ん中投げるんですよ。意外とダメなんですよ、これ(笑)。
―言いますよね、ド真ん中はプロの打者、意外と打てないって。やっぱり虚をつかれるんでしょうか。
江本 でもそれはものすごい度胸いりますよ。もう、本当に根性入れていかないと…そのボールは投げられないですよ。
―でしょうね~。ド真ん中放るのもメンタルと技術が伴わないと…。そういう勝負に関しても、いろいろ相手を見て、実はすごく観察されて。裏を読んでとかあるわけですけど。なのに、その引退時の経緯では損得なしのいきなり直球だったんですね(笑)。
江本 いやそうなんですよ(笑)。ただ、普通は「ベンチがアホや」って言うと、すごいすごいってみんなが手叩いて、拍手喝采してくれるのが当たり前なんですけど。
講演とかでも関東ではウケるんだけど、意外と関西のほうがウケないとか実はあるんでね。結構、大真面目に取って、そういうところであんまり傷つけるようなのはダメなんです。で、あれはみんなを敵に回したんですよね。
●この続きは次週、6月5日(日)12時に配信予定!
●江本孟紀 1947年7月22日、高知県生まれ。高知商業、法政大、熊谷組を経て東映フライヤーズにドラフト外で入団。その後、南海ホークス、阪神タイガースで活躍。プロ通算成績(投手)113勝126敗19セーブ。引退後、出版した『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(KKベストセラーズ)がベストセラーに。タレント、役者としても人気となり、92年からは参議院議員を2期務める。現在はサンケイスポーツ、フジテレビ、ニッポン放送を中心にプロ野球解説者として活動。四国アイランドリーグplus「高知ファイティングドッグス球団」総監督も務める。
(撮影/塔下智士)