「どうやらこれは本物だ!」。多くの球界関係者たちにそう言わしめるのは、今季より中日ドラゴンズに加入したダヤン・ビシエド。
3月~4月は打率.347、9本塁打、23打点の活躍でドラゴンズを牽引(けんいん)し、見事、月間MVPを受賞(新外国人野手の開幕月での受賞はリーグ初の快挙)。
2012年にシカゴ・ホワイトソックスで25本塁打を放つなど、メジャー通算66本塁打と実績は十分ながら、生まれ故郷のキューバからアメリカに亡命した経歴と、26歳という若さでの来日にシーズン前は一部で「ひょっとしてワケありなのでは?」との声も…。
だがフタを開けてみれば、開幕から3試合連続ホームランを放つなど大当たり。「今年の新外国人選手の中で一番の大当たり」ともいわれるビシエドをビシッと直撃してきた!
■クロダはとても頭のいい投手だ
―メジャーで実績があり、しかもまだ若いビシエド選手の来日には正直驚きました。日本に来たきっかけを教えてください。
ビシエド ひと言で言うと、毎日、試合に出るチャンスが欲しかったんだ。一昨年はメジャーで21本のホームランを打ったにもかかわらず、去年は自分にとって難しいシーズンになってしまった(マイナーで4度、契約解除され、試合出場はわずか2ヵ月のみ)。そんな時に日本でプレーするチャンスをもらったので、家族と相談して、チャレンジすることを決めたんだ。
―来日前の日本の印象は、どのようなものでしたか?
ビシエド 実は何も知らなかった(笑)。真っ白だったね。もちろん興味はあったよ。来日する前、近くに住んでいたアレックス・オチョア(03年から08年まで中日と広島で活躍したアメリカ強肩外野手)から話は聞いていたから、日本の野球のレベルが高いことは知っていたしね。
―実際に日本でプレーしてみて、いかがですか?
ビシエド 僕が想像していたのと大きなズレはなかった。投手は皆、コントロールがよく、どんな球種でも際どいコースに投げてくる。だから対戦前に相手投手の特徴を研究しておかないと、打ち返すのは難しいと感じている。一概にメジャーとの比較はできないけど、日本の投手との対戦はより我慢が必要。手元まで引きつけて、ボールを見極めることが大切だと感じてるよ。
―それが、現在も高打率(取材時の5月17日現在.310)を維持している秘訣ですか?
ビシエド まだ始まったばかりだけど、打率が高いことについては、とても嬉しいよ(満面の笑み)。
―日本の野球に対応するために、バッティングスタイルを変えたりはしましたか?
ビシエド フォームは特に変えてないよ。ただ、「より正確なスイングをするために自分をコントロールしよう」と意識するようにはなったね。
―すでに対戦したピッチャーで印象的だったのは?
ビシエド クロダ(黒田博樹・広島)だね。実はメジャーで対戦した時もやられたからね。彼のボールは球筋が見えにくいんだ。どの球も同じようにホームベース付近まで きて、「アウトコースに曲がるかな?」と思うとインコースに食い込んだり、その逆だったり。よくボールが動くし、とても頭がいい投手なんだろう。実績もあ るし、尊敬するピッチャーのひとりだね。
「ド真ん中が苦手だ」って書いといてくれよ(笑)
―ビシエド選手がすごいパワーの持ち主だということは評判でしたが、開幕すると「想像以上に穴が少ない」と日本の解説者たちも驚いています。こっそり苦手なコースを教えてくれますか(笑)。
ビシエド この雑誌は野球の関係者たちも読むんだろ? じゃあ「ド真ん中が苦手だ」って書いといてくれよ(笑)。
―日本では『実況パワフルプロ野球』という人気ゲームソフトがあって、今季の最新版ではビシエド選手のバロメーターはパワーが「A」でしたが、ミートは「E」でした。これは来年から訂正が必要ですね?
ビシエド (少し引き締まった表情で)それは作った人の考えだから仕方ない。開幕前から分析するのは、その人も難しかったはずだからね。
―5月7日にはプロ野球史上19人目の1イニング2ホームランもありました。ビシエド選手のパワーの秘訣を知りたいのですが。
ビシエド 日本の食事でいうと、カレーライスも食べるけど、やっぱりヤキニクが好きだよ。特にハラミは最高だね! それとイシヤキビビンバも好きだよ。
―シメは石焼きビビンバですか!
ビシエド いや、シメじゃない。僕は最初からライスも欲しいから一緒に食べるんだ。
―逆に日本の食べ物でダメだったものは!?
ビシエド ナットウだよ。キャンプの時にTVの取材で食べたけど、あれはダメだ。今日はナットウの話はパスだ。
―お酒は飲まれますか?
ビシエド 翌日に練習や試合がない日に、少し飲むぐらいだね。飲みすぎるのは、野球にも影響が出るからね。
―マジメなんですね。オフは何をされますか?
ビシエド 本当はショッピングがしたいんだけど、シーズン中はなかなか時間もないから、部屋でTVゲームをしていることが多いね。
―まさか『パワプロ』!?
ビシエド いや、オフはもっぱらサッカーさ(笑)。FIFA公認のオンラインゲームをやっているんだ。あとはレゲエやフュージョンの音楽を聴いてリラックスしているよ。
大谷はそんなにスゴイ選手なのか?
―日本での生活で、これまでで一番驚いたことは?
ビシエド 2月のスプリングキャンプだね。アメリカと比べると日本は量も多いし、ずっと集中して練習する。だから体が慣れるまでは大変だったよ。
―特にドラゴンズは練習量が多いことで有名です。
ビシエド えっ、それは聞いてなかったぞ(笑)。でも、あのキャンプのおかげで体をしっかり仕上げることができたから、今思えばよかったと思う。今の好調もあのキャンプのおかげだよ。
―チームにはもう溶け込めましたか?
ビシエド うまくやれていると思うよ。ナニータ、エルナンデスなど、僕よりも先にドラゴンズでプレーしている外国人選手がいるから、彼らからいろいろと教えてもらっているんだ。
―日本の球場の雰囲気はどうですか?
ビシエド とってもいいね。ファンの人の応援がスゴイ。それぞれのチームに応援団がいて、歌を歌うだろ。僕の母国のキューバみたいな雰囲気ですごく楽しいし、熱心に応援してくれるのでとても嬉しいよ。
―ちなみに日本の女性の印象は?
ビシエド シーズン中はなかなか観察する時間がないんだ。それに僕はもう結婚していて、縛られているからね(笑)。
―31日からは交流戦が始まり、メジャーのスカウトも注目する大谷翔平選手(日本ハム)との対戦もファンは楽しみにしていると思います。
ビシエド 実はまだ見たことがないんだ。彼はそんなにスゴイ選手なのか? 何歳?
―投手としては100マイル(約161キロ)を投げ、打者としてはホームランも放つ二刀流の選手で、まだ21歳です。
ビシエド それはスゴイ! 彼との対戦は楽しみだね。
―では最後に、今後の抱負とファンへのメッセージを!
ビシエド グラウンドではいつも100%全力でプレーするので、ドラゴンズを応援してほしい。近年、チームの成績はあまりよくなかったみたいだけど、他のチームの選手たちも今年のドラゴンズはちょっと違うと感じているはず。ぜひ、日本の歴史に残る活躍をしたいね。
(取材・文/キビタキビオ 進行/寺崎 敦 撮影/下城英悟)
●D・ビシエド(DAYAN VICIEDO) 1989年3月生まれ、キューバ出身。27歳。10代の頃から祖国の英雄、オマール・リナレスと比較された逸材。2008年、アメリカに亡命し、シカゴ・ホワイトソックス入り。メジャーでは5年間で66ホーマー。今季より中日入り。推定年俸1億7千万円