トヨタよ、敗者のままでいいのか――。こんな刺激的なキャッチフレーズを掲げてトヨタが「ぜってーに、勝つ!!」と、並々ならぬ意気込みを見せているレースがある。
それが今週末開催のFIA世界耐久選手権(WEC)第3戦「ル・マン24時間レース」(6月18日から19日が決勝)。文字通り、3人のドライバーが交代しながら、一日中ずーっと走りっ放しの超過酷な耐久レースだ。
ル・マン24時間レースはフランス、ル・マン市のサルト・サーキットで行われる。今年で通算84回目を数える歴史あるレースで、F1のモナコGP、アメリカのインディ500と並んで「世界3大レース」に数えられ、トップカテゴリーのLMP1クラスでは、ポルシェ、アウディ、トヨタの3チームが最新のHVシステムを搭載するマシンで総合優勝を争っている。
それにしても、あの天下のトヨタが自ら「敗者」とまで言い切るのは並大抵のことではない。実は昨年はトヨタが初めてル・マンに挑戦してから30年目にあたる年だった。その間、トヨタはただの一度も勝利の美酒を味わったことがない。でも、優勝までと一歩の2位表彰台は4度も経験しているのだ。
冒頭のフレーズには、そうした長年の悔しさをたっぷり詰め込んだのだろう。
今シーズンのWEC参戦にあたって新開発したマシン「トヨタTS050ハイブリッド」の開発リーダーである村田久武氏に、5月に行なわれた技術説明会の場でそのことについて尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「いやー、社内で後ろからグサッと刺された気分ですよ」
…それほどのプレッシャーを、あのフレーズから感じ取ったということなのだろう。トヨタのル・マンにかける意気込みはハンパじゃなさそうだ。
トヨタのこれまでの「敗者っぷり」
そこで、足かけ30年に及ぶル・マン挑戦でトヨタが辛酸を嘗(な)めた4度の2位、その見事な「敗者っぷり」を簡単に振り返ってみよう。
トヨタが初参戦したのは1985年。当時はガチでル・マンを制するほどの実力はなく、その後も参戦し続けたが、90年の6位入賞が最高位。しかも翌91年にはマツダが日本メーカー初のル・マン制覇を成し遂げてしまう。
この屈辱を教訓に、トヨタはニューマシンを投入。改良を重ねた結果、92年、94年で2位を獲得。さらに3台体制での参戦となった99年には予選で1位、2位を独占するものの、残る3号車を駆る片山右京がレース終盤、トップをゆくBMWを射程にとらえるもタイヤがバースト! 逆転優勝まであと一歩と迫りながら、3度目の2位に終わるという悔しくもドラマチックな展開は、ル・マンの語り草になっている。
トヨタがル・マンに復帰したのは2012年。ハイブリッド時代の幕開けによって躍進し、13年には通算4度目の2位表彰台に立った。つまり、最近もあと一歩のところまで迫っているのだ。
今年は、元F1ドライバーの小林可夢偉もドライバーラインアップに加わった。栄冠に輝くためには、期待に応えるだけのエンジンと車体を用意できるかにかかっている。そこで強力なライバルであるポルシェ、アウディとの三つ巴バトルをどう戦うのか?
月曜発売の『週刊プレイボーイ』26号では、この歴史をさらに詳しく紹介した上でライバルのポルシェ、アウディに立ち向かうための秘策を取材。トヨタ悲願のル・マン制覇の可能性と不安要素を徹底検証しているので、是非そちらもお読みいただきたい。
(取材・文/川喜田 研)