リオ五輪でのブラジルのノルマは最高でも金、最低でも金と語るセルジオ越後 リオ五輪でのブラジルのノルマは最高でも金、最低でも金と語るセルジオ越後

このところ寝不足気味だよ。欧州選手権(ユーロ)と南米選手権(コパ・アメリカ)、長い歴史を持つビッグイベントが史上初めて同じタイミングで行なわれている。サッカーファンにとっては幸せなことだけど、さすがに全試合を追うのは無理があるね。うれしい悲鳴だ。

両大会の出場チーム中、僕が最も注目していたのは母国ブラジル。ところが、グループリーグで1勝1分け1敗に終わり、早々と姿を消してしまった。ブラジルのグループリーグ敗退は1987年大会以来、実に29年ぶりだ。

確かにメンバーは微妙だった。大黒柱のFWネイマール(バルセロナ)をはじめ、MFドウグラス・コスタ(バイエルン・ミュンヘン)など本来の主力は不在。中国リーグでプレーしている選手がふたりもスタメン起用されていた。また、疑惑の判定もあったし、負けた言い訳はたくさんある。

ただ、優勝は難しいにしても、アルゼンチンと対戦するだろう準決勝までは勝ち上がると思っていた。それがエクアドル、ハイチ、ペルーという格下ばかりのグループでの敗退だからね。ちょっと予想できなかった。

ブラジルは一昨年のW杯準決勝でドイツに1-7という歴史的惨敗。その後、ドゥンガを監督に迎えたものの、昨年10月から始まったW杯南米予選でも6試合を終え、2勝3分け1敗で6位と苦戦している。

ここ最近のブラジルの低迷の理由はいろいろあるけど、一番はストライカー不足だね。ひとりで局面を打開できて、点も取れる選手がネイマールしかいない。“規格外”の選手が次々と出てきたのはもう昔の話。欧州でプレーしている選手は相変わらず多いけど、強豪クラブで攻撃の中心としてプレーしている選手の数は減った。

ブラジルが優勝候補に挙げられる時代ではない

ブラジルでは今、子供の頃から整った環境の中でシステマチックな育成が行なわれるようになり、似たような選手ばかり育っている。なんでも高いレベルでこなすけど、突出したものがない。街中でサッカーをする子供も少なくなったし、サッカー以外の娯楽も増えた。ある意味、そんな環境の変化がブラジルの個性を壊しているんだ。

それでも今後、W杯出場を逃すような事態にまでなるとは思わないけど、もう当たり前のように優勝候補に挙げられる時代ではないのだろう。

ただ、これはブラジルに限った話ではなく、世界的に起こっている現象かもしれないね。今回のユーロやコパを見ても“規格外”の選手は減った印象を受ける。似たタイプの選手が増え、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)やメッシ(アルゼンチン)に続くスターが見当たらない。時代の流れとはいえ、少し寂しさを感じるね。

今回のコパ敗退を受け、ドゥンガ監督は解任。リオデジャネイロ五輪まで時間もないし、このタイミングでの更迭はないと思っていたので驚いた。それだけ批判が多かったのだろう。

後任人事は本稿締め切り時点で不明だけど、地元開催のリオ五輪にはまさに背水の陣で臨むことになる。このところの低迷はもちろん、五輪の金メダルはブラジルがいまだ獲得したことのない悲願のタイトル。

前回のロンドン五輪では銀メダルを獲ったにもかかわらず、メネゼス監督は解任されている。だから、オーバーエイジ(23歳以上)枠でネイマールが出場するリオ五輪のノルマは最高でも金、最低でも金。もう開き直って戦うしかない。

(構成/渡辺達也)