“史上最強”の競歩トリオ、(左から)荒井広宙、森岡紘一朗、谷井孝行

今夏のリオデジャネイロ五輪を控え、“史上最強”と注目を集める男子競歩

その中でも全員がメダル候補と期待されるのが、50kmの代表トリオである荒井広宙(ひろおき・自衛隊)、谷井孝行(自衛隊)、森岡紘一朗(富士通)だ。

前編「全員がメダル候補! “史上最強”日本の競歩が急速に強くなっている理由」に続き、3人に五輪本番へ向けた抱負を語ってもらった。

■個人競技だけどチームとして戦う

―五輪本番のレースはどうイメージしていますか?

谷井 昨年の世界選手権と同じくらいの気象条件なら金は3時間38分くらいで、メダルは3時間40分前後になるのかなと。海外には持ちタイム3時間30分台の選手が4人いて、彼らがレースをつくるでしょうし、最初から飛び出す可能性も高いですけど、それにどう冷静に対応するか。自分は少なくとも入賞(8位以内)を狙える集団の中にいると思うので、そこからどうメダルを狙うか。

荒井 強いメンバーが来るので厳しい状況になるとは思っています。ただ、みんなが100%でリオを迎えられるわけではないので。チャンスはあるだろうし、メダルを狙っていきたいです。

森岡 僕は速い記録を持っていないですけど、3時間40分切りのペースで40km以上歩いた経験はあるので、決して無理なタイムではないと思っています。最悪でも「入賞で残念だったね」というところで抑えたい。

―中には3人による表彰台独占を期待する声もあるようです。

全員 (苦笑)

谷井 まあ、メダルを目指しつつも、まずは自分ができることをしっかり追い求めていきたいです。「メダルを獲らないといけないから、とにかく突き進む」みたいなことをやっていると、50kmは最悪の事態が起きるので。

荒井 3人のうち誰かひとり入ってくれるだけでもいい。競歩は個人競技ですけど、チームで協力して戦いたいです。

谷井 確かに、チームとして結果を残したい気持ちは強いね。でも、そうなると一番イイのは、誰かがメダルを獲った上での3人全員入賞かな。そうなればみんなで喜べるから最高じゃないですか。

どれがイイって、そう言われたら1位です(笑)

―では、目標は3人全員入賞として、それぞれ1位から8位まで選べるとしたら、どれがイイですか?

谷井 どれがイイって(笑)。そう言われたら1位です。

荒井 やっぱり勝ちたいのは自分ですからね。谷井さんには1回しか勝ってないから勝ちたいですよ。勝つつもりでやらないと失礼だし。

森岡 僕は全員入賞なら8位でも「ああ、よかった」ですよ。終わった後にみんなで肩を組んで喜べれば…。

谷井 いやいや、森岡はいつも控えめに言いつつ、しれっと来るからね。「アイツ、来ねえな」と思ったらヒューッと行かれて、「えーっ!」みたいな(笑)。

森岡 本番では目立たないようにコースの端っこを歩いていると思います(笑)。

―レース中、3人のこういうところに注目すれば、今どういう状態なのかわかるというのはありますか?

谷井 荒井は基本的に表情には出ないから、出た時はもうヤバいですね(笑)。

荒井 あと、腕振りがちょっと小さくなって、猫背になってきたら…少なくとも心はもうレッドカードです(笑)。

谷井 僕は歯を食いしばるクセがありますが、それはキツくない時でもそう。

荒井 森岡さんは調子が悪いと、すごく汗をかきますよね。

森岡 苦しそうな顔もする。たまに死んだフリもしますけど、2回目が来たらもうダメでしょうね。ただ、途中で15番手くらいをチョロチョロしていたら、8位狙いに入ったと思ってください(笑)。

荒井 僕は自分の力を出し切るスタンスでやってるので…。でも、どう考えてもメダルは無理だなと思ったら、入賞狙いで置きにいく(レースに切り替える)可能性もあるかなぁ。「谷井さん、あとはお願いします」って。

谷井 それ、去年の世界選手権と同じ展開じゃない(笑)。まあ、本番がどうなるかはわからないけど、誰かがメダルを獲った上での全員入賞を目指して頑張ります。

―期待しています!

(取材・文/折山淑美 撮影/ヤナガワゴーッ!)

谷井孝行(たにい・たかゆき)1983年生まれ、富山県出身。33歳。高岡向陵高1年時に競歩を始める。日大、佐川急便などを経て、自衛隊に。五輪は2004年アテネ、08年北京、12年ロンドンと3大会連続出場。昨年夏の世界選手権(北京)では、50km競歩で日本人初となる銅メダルを獲得。昨年の50kmの世界ランキングは3 位。167cm、57kg

森岡紘一朗(もりおか・こういちろう)1985年生まれ、長崎県出身。31歳。諫早高2年時に競歩を始める。順天堂大を経て富士通に。五輪は2008年北京、12年ロンドンに続いてリオで3度目の出場。世界選手権は05年から5大会連続出場し、11年大邱(韓国)大会では50km競歩で6位入賞。昨年の50kmの世界ランキングは9位。 184cm、66kg

荒井広宙(あらい・ひろおき)1988年生まれ、長野県出身。28歳。中学で陸上部に入り、中野実高2年時に競歩を始める。福井工大、石川陸協、北陸亀の井ホテルを経て自衛隊に。世界 選手権は2011年から3大会連続出場。昨年夏の北京大会では50km競歩で4位入賞。五輪出場はリオが初めて。昨年の50kmの世界ランキングは2位。 180cm、62kg