所属クラブではあらゆるタイトルを獲得してきたものの、ポルトガル代表ではいまだ無冠。そんなクリスティアーノ・ロナウドの執念がついに実ったね。
欧州選手権(ユーロ)で、ポルトガルが地元フランスを延長戦の末に1-0で破って初優勝した。決勝は、メンバーの質で上回るフランスが立ち上がりからハイプレッシャーをかけ、特に前半20分過ぎぐらいまでは一方的な展開になった。もし、その間に先制点を奪えていれば、大差がついていたかもしれない。
ところが、フランスは準決勝から中2日という過密日程が響いたのか(ポルトガルは中3日)、そこからガクッと運動量が落ちた。今大会の得点王でMVPのFWグリーズマンもスペースを消され、孤立してしまった。
一方のポルトガルも、前半25分に頼みのロナウドが負傷退場するアクシデントに見舞われた。でも、そのことでむしろ守備の意識が高まり、無理して攻めずにカウンターを狙うというサッカーを徹底できた。本当に最後まで集中してよく守っていたね。
今大会、ポルトガルは7試合を戦って、90分以内で勝ったのは準決勝のウェールズ戦だけ。決勝に限らず、“強くない”自分たちが勝つためにはしっかり守るしかないと理解して、そうしたサッカーを貫いた。
僕が選ぶ大会MVPはロナウド。得点こそ3点と少なかったけど、チームの得点のほとんどに絡んだ。特に印象的だったのは、グループリーグ最終戦のハンガリー戦。常に相手に先行を許す苦しい展開ながら、2得点1アシストで引き分けに持ち込み、決勝トーナメント進出を決めた。ここぞというときの爆発力はさすが。大会前から注目を集め、相手から激しいマークや挑発を受けるなかで結果を出すわけだから、やっぱりスターだね。
プレーや振る舞いが独善的だと批判されることもあった。でも、優勝が決まった直後、チームメイトたちは皆、真っ先に彼の元に駆け寄っていた。あのシーンを見れば、そうした批判は的外れ。彼は信頼を集めるリーダーだったということ。
ユーロのMVPはロナウド!
決勝では負傷交代してベンチに退いた後も、まるで監督のようにテクニカルエリアに出てチームを鼓舞し、延長戦前にはひとりひとりに声をかけ、励ましていた。戦力的に突出していたわけではないポルトガルが優勝できたのは、やっぱりこのロナウドの勝利への執念があったからだと思う。ポルトガルは間違いなくロナウドのチーム。そのカリスマ的な存在感は、ブラジルにおけるペレ、アルゼンチンにおけるマラドーナに肩を並べたね。
決勝で敗れたフランスは、グリーズマンやMFポグバ、MFコマンら、これからの選手が多いし、チーム力は高い。再来年のロシアW杯でも優勝候補に挙げられるだろう。
一方、ポルトガルはロナウドがもう31歳。そのほかの主力もベテランが多く、これからは難しい時代に入るのかなと思う。今大会の最優秀若手選手に選出された18歳の新鋭MFレナト・サンチェスは魅力的な選手だし、彼の台頭は明るい材料だけど、さすがにロナウド級ではない。
そういう意味でも、今回のユーロはロナウドがポルトガル代表でタイトルを狙える最後のチャンスだったかもしれないし、それをしっかりとモノにしたのだから本当に素晴らしいよ。
(構成/渡辺達也)