彼にとってはラストチャンスだね。日本代表MFの宇佐美が、G大阪からドイツの中堅アウクスブルクへ完全移籍した。
ふり返れば、宇佐美は17歳でG大阪のトップチームに昇格すると、19歳で名門バイエルン・ミュンヘンに引き抜かれた。毎年、欧州チャンピオンズリーグの優勝候補に挙げられるようなメガクラブが、なぜ当時の彼を獲得したのか。純粋に将来性を見込んだのか、それともマーケティング面だけを考えていたのかはよくわからない。
いずれにしても、ハイレベルなチームにあって出場機会をほとんど得られず、1シーズン限りで退団。その後、移籍したホッフェンハイムでもインパクトを残せず、2013年に当時J2だったG大阪に復帰した。そこからの活躍はご存じのとおり。G大阪に数々のタイトルをもたらし、ロシアW杯を目指す日本代表にも定着した。
ただ、今季はG大阪でもあまり目立てていなかったし、日本代表でもレギュラーの座を奪うまでには至っていない。少し停滞感があった。そんな現状を打ち破るためにも、今回の再チャレンジはちょうどいいタイミングだろう。サッカー選手で24歳はもう若くない。海外でのステップアップ、日本代表でのレギュラー奪取を目指すなら、この1、2年間で結果を出すしかない。まさにラストチャンスだ。
海外移籍は2度目、しかも同じドイツだから環境面への不安もそれほどないはず。コンスタントに試合に出場するのはもちろん、最低でもふたケタ得点は期待したい。
宇佐美がドイツで活躍すれば、かつて「プラチナ世代」と呼ばれた同世代の選手たちにも大きな刺激になる。1992年生まれのこの世代は、宇佐美以外にも宮市(ザンクトパウリ)が18歳でアーセナルに獲得されるなど、早くから海外に進出する選手が多く、Jリーグ組でも柴崎(鹿島)など将来を期待された選手が多かった。
ところが、一昨年のブラジルW杯で代表メンバー入りした選手はゼロ。現在の日本代表でもレギュラーはいない。本来ならこの世代が代表を引っ張っていかなければいけないのに、これでは困る。
プロならもっと自己主張をすべき
僕が思うには、この世代の選手たちはおとなしすぎる。いわゆる“いい子”ばかり。日本ではそれを「礼儀正しい」「謙虚」と評価するけど、プロならもっと自己主張をすべきだよ。
例えば、本田(ACミラン)。09年の日本代表のオランダ戦、FKの場面で当時10番を背負っていた(中村)俊輔(横浜Fマ)相手に「俺に蹴らせろ」と食い下がって話題になったよね。僕は俊輔のほうがFKはうまいと思うけど、主張するのは自由だ。あの本田の姿勢は見習うところがある。
最近の日本代表でいえば、6月のブルガリア戦で浅野(広島→アーセナル)がPKの場面で「俺が蹴る」とボールを離さなかった。久しぶりにちょっと面白い選手が出てきたなと思ったし、実際、その後の彼の存在感は増した。
プロの世界は年齢のタテ社会じゃなく、実力のタテ社会。黙々と練習して、順番を待っているだけでは苦しい。
今の日本代表の“不動のメンバー”の大半は、30歳前後の北京五輪世代。仮にロシアW杯本大会に出場できたとしても、相変わらず彼ら頼みのままでは多くを期待できない。だからこそプラチナ世代には奮起を期待したいね。
(構成/渡辺達也)